【ゲムマ2023春】ゲームマーケット会場内で、静かに熱く燃え上がっていたカードバトル『デュエルボーイ』とは何か!? デザイナー上杉真人氏を直撃!【特別企画編】

ゲームマーケット2023春の会場内で行われていた対戦カードゲーム『デュエルボーイ』をご存じだろうか。これはゲームマーケット会場内を舞台として、歩きながら相手を探し、戦う意思を持つ者が見つかったらストリートファイトのようにその場でデュエル(カードバトル)をするというもの。カタログや公式サイトにも記載がある、ゲームマーケット2023春公式の特別企画だった。

実は昨年のゲームマーケット2022秋で『デュエルボーイ』初期バージョンが1人2パックまでの制限で販売されており、運良く見つけてプレイすることができた目利きのゲーマーたちのあいだで話題になっていた。

今回、バージョンアップした『デュエルボーイ』は入場口の近く、総合受付で1パック7枚入り500円で販売されていた(購入数の制限は無し)。大きな告知や広告などがなく、列もなかったため、買う際に「ここで売っているんですよね!?」と思わず確認してしまったほど、ひっそりと売られていた。しかし、そのぶんアングラ度が増して“選ばれし者たちの闇のバトル”のような印象も強くなり、雰囲気がアップした感もあるような気がする。

さっそく購入した2パックを開封する。1パックには、プレイ用カード7枚、コンポーネントを説明するカード1枚、そして「対戦OK!」の意思表明をするための“DUEL BOY”ステッカー1枚が封入されていた。ルールに関しては、説明カードのQRコードから飛んだサイトで確認することができた。

▲カードはモノクロの渋い配色。カードごとに特殊な能力があり、うまく活かすことができれば低コストのカードで強いカードを排除することもできそう。デッキ構成を考えているだけでもワクワクしてくる!

総合受付付近の指定された区域が『デュエルボーイ』のバトルフィールド。ここで衣服などに“DUEL BOY”ステッカーをつけている人を見つけたら、対戦を申し込んでいいというルールだ。土曜の早い時間帯はあまり見かけなかったものの、土曜の午後、そして日曜は終日、このゾーンに『デュエルボーイ』プレイヤーが出現! あちこちでデュエルが行われていた。

▲バトル野郎の証“DUELBOY”ステッカーを貼っていたら、対戦上等! かかってこいやー!

▲芸人・ゲーマーにしてBROADライターでもある阿曽山大噴火さんも出没。あまりの面白さに釘付けとなり、2時間以上もプレイしてしまったとのこと

筆者も相手を見つけてレッツデュエル! コストを払って手札からユニットや戦術を場に召喚し、相手の戦力と物理・魔法のどちらかで力比べを行う。召喚できなくなったり、攻撃に失敗したプレイヤーは敗北となり、そのラウンドは終了。勝者は捨札のなかから1枚を封印するかわりに1勝利点を得る。3勝利点を得たプレイヤーがデュエルを制する。

▲『デュエルボーイ』は7枚という限られた枚数のカードでバトルを行う(プレイ中は仕切りカードを含めた8枚を持つ)

特徴的なシステムとしては、手札がなくなった側は即デュエル敗戦というところ。デュエル中に一度だけ捨札を回収し、手札として全復活させることができるが、それ以外では捨札を戻す手段がない(一部のユニット・戦術カードの特殊能力はのぞく)。コスト=手札を捨札にする、ということなので、強いがコストが高いユニットばかり召喚しているとあっという間に手札が尽きる。一方で、コスト0の弱いカードばかりでデッキを構成していても、純粋な戦力の数値の差が覆せなくなる。コストの大小だけでなく、特殊能力のシナジーまで考えてデッキを構成することが重要になってくる。

▲有利に進めていたと思ったら、対戦相手が強力なユニット“ドラゴン”を召喚。これに敵う戦力がなく、敗戦……(なお“ドラゴン”はデュエル後にカード交換でいただきました!)

さて、デュエルの勝敗が決まったら、お次はカード交換タイム。これが『デュエルボーイ』最大の特徴といってもよく、なんと敗者のほうがお互いの手札から2枚ずつを選んで交換できる。つまり、勝者が強いカードの力で勝ったとしても、そのカードはデュエル後に相手に取られてしまう可能性があるのだ。このため、たとえカードを1パックしか買っていなかったとしても敗戦続きであれば手札は強くなっていくし、勝つと有力なカードがなくなっていくため勝利を重ねることが至難となっている。

※この交換ルールはプレイの形式が“ゲームデイ”のときのみのもの。ゲームマーケットなど公式的な場以外でプレイする際は、あらかじめ“ゲームデイ”形式の対戦であるか確認しておいたほうがよいだろう。

日曜はかなりの数の『デュエルボーイ』プレイヤーが出現。バトルフィールドでは“DUEL BOY”ステッカーを貼った猛者たちがあちこちでデュエルを繰り広げ、対戦相手を求めて徘徊するさまが見受けられた。

『デュエルボーイ』は多分に実験的な試みという部分を含んでいたと思われるが、実際に体験したプレイヤーからはおしなべて好評を博しており、SNSでは絶賛の声が多数聞かれた。バトルフィールドは、盛り上がる会場内をよそに、2日のあいだ静かに熱く燃え上がっていたという印象だ。“カードゲームによるストリートファイト”はTCGをテーマとしたコミックやアニメを見て育った世代ならあこがれるシチュエーションであり、その実現は彼らが待ち望んでいたものではないだろうか。

気になる今後の展開は!? 『デュエルボーイ』のデザイナー上杉真人氏を直撃!

この企画を実現させた『デュエルボーイ』の仕掛け人は、『ボルカルス』や『マグノリア』を世に送り出したデザイナー、I was gameの上杉真人氏だ。

▲ゲームマーケット2023春『デュエルボーイ相談所』ブースには上杉氏が常駐し、訪れたプレイヤーに直接対応してルールの不明点に関する回答や、プレイについてのアドバイスを送っていた

今回は、ゲームマーケットを終えたばかりの上杉氏に『デュエルボーイ』に関しての質問をぶつけてみた。このような実験的な作品が生まれた背景や、デザイナーとしての想い、そして今後の『デュエルボーイ』についてまで大いに語ってもらったので、ぜひともご一読あれ!

――『デュエルボーイ』はイベント会場内で出会った相手と対戦するという特殊なゲームとなっています。このような形式にした理由はなんでしょうか。

上杉氏:このアイデアには、賽苑とタンサンファブリークが共同で制作し、ゲームマーケット2013大阪で発売した『Hoooooi!!(ホーイ!)』という前例があります。そのゲームは、ガチャガチャから出てきた缶バッジをつけて歩き周り、プレイヤー2人が出会うとその缶バッジを使ってバトルするというものでした。そのアイデアとカードゲーム漫画のイメージをかけ合わせて、「どこでもストリートバトルできるTCG」というコンセプトが生まれました。ゲームマーケット当日は日本のボードゲーマーが最も多く一箇所に集まる日だと考えていて、そのせっかくの日に何か特別な遊びができないか? と思ったことがやろうと思った動機の一端です。

――対戦で勝ったほうではなく、負けたほうが相手の強いカードを選んで交換するというのは面白いシステムだと思います。

上杉氏:
何度もプレイする価値を持たせるために、対戦のたびにデッキがどんどん変化していく要素が必要になると考えていました。ゲームマーケット2022秋で販売した最初のバージョンでは「お互いが欲しいカードを選んで交換する」というルールだったのですが、「負けたほうが一方的に選んで交換する」と勘違いされることが多かったので、それが正しくなるように単にルールを変更しました。このルールによって、敗者は次こそ勝てるかもしれないという希望を持つことができ、勝者は自分のデッキがズタズタになるという試練を楽しむことができます(そしていつかは逆の体験も味わえます)。

――『デュエルボーイ』のカードは全部で何種類あるのでしょうか。また、TCGのレア度に相当するような明確な価値や強弱の基準はありますか?

上杉氏:前回のバージョンでは30種類程度でしたが、今回のバージョンではおよそ倍に増やしました。レア度については回答を控えますが、レアなカードが単純に強いといったことは想定しておらず、デッキ内のバランスが重要になるように設計したつもりです。ただし1枚だけ、「他のあるカードのほぼ上位互換だが、特定の状況下でのみ完全な上位互換ではなくなる」カードがあります。もし多くのカードに触れる機会があれば探してみるのもおもしろいかもしれません。

――初期バージョンが販売された前回(ゲームマーケット2022秋)の反響はいかがでしたか。

上杉氏:もともとはゲームマーケット前の1週間程度で急造したゲームだったため、告知も直前でどうなるか不安でしたが、驚くほど大きな反響をいただけてありがたかったです。特に、発売後に「イベントとしてだけでなくゲームとしておもしろい」という評価を多数いただけたことは作品に対する自信に繋がりました。ただ一方で、十分なおもしろさを求めた結果ルールを簡略化しきれず、買ってその場ですぐに理解してプレイするのが難しくなってしまったという課題はありました。

――今回、初期バージョンよりアップデートした箇所はどこでしょうか。

上杉氏:グラフィックデザインに『ガンナガン』や『ブラッドリコール』で知られるZUMEさんをお招きし、ゲームのロゴやカードのフレームなど総合的にデザインしていただきました。それにあわせて、各カードのアートのテイストも変更しています。ルールやカードはほぼ同じですが、よりプレイしやすくするために全体の流れを再構成したり、複雑な能力を持つカードを取り除いたりしました。

――Twitter上などでは楽しんだプレイヤーからのコメントが数多く見受けられますが、今回(ゲームマーケット2023春)の反響、手ごたえはいかがでしょうか。

上杉氏:今回はゲームマーケット事務局の公式イベントとなったこともあり、より多くの方々にプレイしていただけました。販売したゲームがその場で即座にプレイされるのを見られるというのは『デュエルボーイ』の特権です。初めてゲームマーケットに来たというグループや、小中学生にも熱心に遊んでいただけて嬉しかったです。最初に1パックだけ購入された方が「おもしろかったので」と追加で何パックも購入してくださるということが何度もあり、ゲームとしての手ごたえも改めて感じました。Twitterでの反響もありがたく読ませていただいています。

▲『デュエルボーイ』のカードパックは総合受付で販売されていたが、『デュエルボーイ相談所』でも購入することができた

――今後についてお聞きします。これからも何か大きいイベントがある際に『デュエルボーイ』が販売・開催されることはあるでしょうか。また、その際は新しいカードパックが販売されるのでしょうか。

上杉氏:ゲームの構造上、イベントの運営側に協力をいただく必要があるため、今後また開催されるかは確実にはわかりません。ただ、今回のルールとカードでできることはある程度やりきったと感じているので、次の機会があれば全く新たなルールで挑戦したいと思っています。今回制作したカードパックについては、ゲーム単体としてもおもしろいものになっていると考えていますので、ゲームマーケットに来られなかった方々にも楽しんでいただけるようオンラインで販売する予定です。

――今回、かなりの人数が入手したと思われるので、これからはゲームマーケット外での野良デュエルや大会も行われるのではないかと思います。公式的な会場外での開催についてはどのようにお考えでしょうか。また、会場外でのプレイに際して「このようにプレイしてほしい」「こうするといい」といったようなプレイヤーへの要望やアドバイスがありましたらお願いします。

上杉氏:各地でイベントとして開催してくださるのはありがたい限りです。『デュエルボーイ』はゲームであると同時にある種の遊びでもあるので、楽しさを優先して自由にプレイしていただければと思います。また、多人数でのイベントでなくても、2人で何度も遊ぶためのドラフトルールも用意してありますので、通常のカードゲームとしても楽しんでいただければ幸いです。立ったまま対戦できることを利用して、長い行列の待ち時間などでプレイしていただけるとこのゲームを作ったかいがあります。

――最後に、『デュエルボーイ』を楽しんだプレイヤーの皆さんにひとことお願いいたします。

上杉氏:『デュエルボーイ』を通じて、「ゲームは常にプレイヤーによって完成される」ということを改めて感じました。皆さんがあってこその『デュエルボーイ』です。ありがとうございます。

 

今後の『デュエルボーイ』のイベントなどでの開催は不明とのことだが、カードのパックはオンラインでの販売を予定しているとのこと。今回のゲームマーケットで購入した人も多数にのぼっているため、引き続き『デュエルボーイ』がプレイされていくことは十分に考えられる(『デュエルボーイ』は今回のような“ゲームデイ”の開催形式以外のプレイの仕方や、2人で遊ぶためのルールが設けられている)。

こうなると気になるのは『デュエルボーイ』の“これから”だが、上杉氏は「次の機会があれば全く新たなルールで挑戦したい」と語っている。『デュエルボーイ』の追加パックや新版という形にはならないかもしれないが、また新しいアイデアによる試み、そして驚きをゲーマーに与えてくれるに違いない。上杉氏のこれからのチャレンジに注目しよう。