【インタビュー】新生ヨフカシプロジェクト始動! 『まっぷたツートンソウル』など注目作を連発してきたブランドのキーマンたちにこれからの展開について聞いてきた!

“IP創生”と銘打ち、コナミデジタルエンタテインメントをはじめとする3社共同でボードゲームを制作してきた“ヨフカシプロジェクト”。2022年2月発売の『まっぷたツートンソウル』『魔警オルトロス』を皮切りに約1年半のあいだに5作をリリースしたが、2023年6月の『天魔楼大戦』発売を最後に新しい情報が途絶えていた。

そんななか、2024年3月25日にヨフカシプロジェクトは沈黙を破り、ひとつのアナウンスを行った。これまでヨフカシプロジェクトはコナミデジタルエンタテインメント、オーシャンフロンティア(アニメイトグループ)、ドロッセルマイヤーズの3社によって運営されていたが、今後はオーシャンフロンティアに代わりブシロードクリエイティブが参加するという。

さらに、ゲームマーケット2024春の初日にあたる4月27日、ブシロードクリエイティブのアナログゲームブランド“TERIYAKI GAMES”のブースにて新作『キルタイム・キラーズ THE BOARD GAME 真明市連続殺人事件』のリリースを発表(発売は6月28日)。同作についての展示も行われた。

ヨフカシプロジェクト最新作『キルタイム・キラーズ THE BOARD GAME 真明市連続殺人事件』発表!

ブシロードクリエイティブが加わったことで、ヨフカシプロジェクトにどのような変化があるのだろうか。5月某日、3社の代表者に集まってもらい、その経緯とこれからの展開について大いに語ってもらった(取材地:東京都中野区・ブシロード本社)。

※文中敬称略

「新たなIPを創り出す」ヨフカシプロジェクトとは?

▲写真右がブシロードクリエイティブ・成田耕祐氏、中央がドロッセルマイヤーズ商會・渡辺範明氏。コナミデジタルエンタテインメント門井信樹氏はリモート参加となった

──まず、自己紹介をお願いいたします。

門井:コナミデジタルエンタテインメントの門井信樹(かどい・のぶき)です。ヨフカシプロジェクトのプロデューサーをやらせていただいております。

成田:ブシロードクリエイティブの成田耕祐(なりた・こうゆう)です。ブシロードは普段キャラクターグッズの制作や販売をしている会社なのですが、カジュアル寄りのボードゲームブランド“TERIYAKI GAMES”を3年前からやっていたこともあり、今回ご一緒させていただくことになりました。

渡辺:ボードゲームのプロデュース、ディレクション、ゲームデザインなどをしているドロッセルマイヤーズの渡辺範明(わたなべ・のりあき)です。ヨフカシプロジェクトに関しては、シリーズ全体のトータルディレクションという立場で関わっております。

──ヨフカシプロジェクト全般についての解説をお願いします。ヨフカシプロジェクトは“IP(※1)創生プロジェクト”と銘打たれていますが、どのような経緯で始まったものなのでしょうか。

※1=IP“Intellectual Property”「知的財産」を表す語。ここではゲームのタイトルや世界観、キャラクターなどを指す

門井:大元のところからお話ししますと、プロジェクトとしてはコロナ禍の状況下で立ち上がってきた企画でした。コロナ禍の期間になぜ(人が集まって遊ぶ)ボードゲームなの?……というタイミングの悪さはありましたが、またみんなで集まれるようになった時に盛り上がれるようなゲームがあるといいな、という思いがありました。

私はこれまでデジタルゲームを作ってきたのですが、デジタルの世界では一企画あたりに必要な資金の額が肥大化してしまい、冒険的な企画にチャレンジしにくくなってきたな、と感じることが増えました。それと、シリーズのナンバリング(続編もの)が増えてきて、新規で出て来るオリジナルゲームがだいぶ減ったとも思っています。

渡辺:IPをイチから作り出す際にデジタルゲームやアニメが起点だと巨額の投資が必要になってくるなかで、もっと小さく立ち上げてお客さんの反応を伺い、実際に人気が出てきたもの、出てきそうな香りのあるものを育てていくというやり方もあるのではないか、と。

先行例で言えば、当時人気が出てきていた『ヒプノシスマイク(※2)』の場合は、映像作品よりも先に音楽が起点になっていました。ボードゲームもそのような手段のひとつとして使えるのではないかという発想ですね。

※2=キングレコード主導で、男性声優ユニットによるラッププロジェクトからスタート。原作設定としては、近未来の日本を舞台に、少年・青年たちのラップユニットによる音楽バトルを描いたシリーズとなっている。ここからコミック、テレビアニメ、スマートフォン向けゲームアプリ、舞台などマルチメディアに展開し、女性を中心に高い人気を誇る。略称は“ヒプマイ”。

門井:ボードゲームはシナリオや音楽、カットシーンといった演出より、もっと大枠の「世界観」と遊びの仕組みだけで楽しんでもらうものです。そこがお客さんに刺さっていればIPの種として取っ掛かりになりますし、先の展開もいろいろと考えられる。あらかじめボードゲームとして知ってもらえれば、デジタルゲームなど以降の展開も受け入れてもらうファンコミュニティの母体ができるのではないか、という考えもありました。そういった文脈で立ち上がったのがヨフカシプロジェクトです。

――立ち上げ時はオーシャンフロンティアさん(アニメイトグループ)が入っていらっしゃいましたが、まず企画としてはコナミデジタルエンタテインメント主導で皆さんにお声掛けして、参加する会社を集めたという感じだったのでしょうか。

門井:そうですね。まずコナミデジタルエンタテインメントとオーシャンフロンティアで「何か新しいことをしたいね」と話していて、当初は別のアプローチも検討していたのですが、僕から「ボードゲームがいいのではないか」と提案させてもらって今の形になりました。

渡辺:多分そのタイミングでうちに声がかかったんだと思います。

──実際にボードゲームから始めようという話になった段階で、ドロッセルマイヤーズ渡辺さんに参加してもらおう、ということになったのですね。

門井:そうですね。同じゲーム業界とはいえ、コナミデジタルエンタテインメントもオーシャンフロンティアもボードゲームは未知の分野でしたので「そういえば10年前くらい前にゲームのプロデューサーを辞めてボードゲーム製作で独立した人がいたなぁ……」と思い出して参加してもらいました(笑)。

“IPデベロッパー”ブシロードクリエイティブ加入の経緯

──今回ヨフカシプロジェクトの座組が変更となり、運営会社としてブシロードクリエイティブが加わることになりましたが、こちらの経緯はどのようなものだったでしょうか。

門井:実は昨年、オーシャンフロンティアさんの組織変更があり、ヨフカシプロジェクトに限らずゲーム事業そのもの継続が難しくなってしまいました。しかし弊社もドロッセルマイヤーズさんも、せっかく軌道に乗りつつあるヨフカシプロジェクトを中止するつもりはまったくなかったので、継続する方法を考えました。

このとき、もっとボードゲーム専門のパブリッシャーさんと手を組むことも選択肢としてはあったのですが、ヨフカシプロジェクトとしては単にボードゲームを作って売るだけになってしまってはダメなんです。だから「IPを育てる」というプロジェクトの原点を再考し、その理念まで含めて一緒に実現していける会社を探すことにしました。そこで、社是として“IPデベロッパー”を掲げていて、しかもボードゲームでもTERIYAKI GAMES(テリヤキゲームズ ※3)というブランドを持っているブシロードクリエイティブさんにお声がけしてみよう、となったんです。

※3=TERIYAKI GAMES:2021年に創設されたブシロードクリエイティブのボードゲームブランド。『ツッコミかるた』『変顔ポーカー』『レロレロ酒場』といったカジュアルなパーティーゲームを中心にリリースしている。

渡辺:ヨフカシプロジェクトとしては、まずは1作ずつ異なる世界観のボードゲームをどんどん発売していくのが第1フェーズだとすると、その中でどれが人気だったか、どう育てていくか、という発展の段階が次の第2フェーズになります。ちょうどその第1フェーズが終わろうとしているぐらいのタイミングで、オーシャンフロンティアさんがゲーム制作事業から撤退するということになってしまいました。

コナミデジタルエンタテインメントとしても、ドロッセルマイヤーズとしても、これまでリリースしてきた作品の評価も高いし、シリーズ自体にファンがついてきたし、ここでやめる手はありません。

となると新しいパートナーを探さねば! ということで、色々な会社にご相談しようといいうことになったのですが、色々な会社といいつつ、僕も門井さんも最初に頭に浮かんだのはブシロードクリエイティブさんでした。IPデベロッパーで、すでにボードゲーム事業も始めている。両方の条件を満たす、これ以上のパートナーはないということで、お声がけさせていただきました。

──そのお話が来たところで、ブシロードクリエイティブとしてはどのようにお考えだったのでしょうか。

成田:これは本当にありがたいお話で、お声がけいただいたその日に参加させていただこうと思いました。私たちは普段ライセンシーとしてキャラクターグッズを作っていまして、当時ちょうどコナミデジタルエンタテインメントIPのライセンスをいただいて商品を手がけ始めて交流が生まれたところだったので、そこからお誘いくださったのも嬉しかったですね。ただ、ヨフカシプロジェクトのことは知ってはいましたが、内情についてはまったく分かりませんでした。

それと、自分たちが3年前に始めたTERIYAKI GAMESで扱ってきたゲームはすべてIPものではなく、キャラクター性がないタイトルです。カジュアルなゲームを中心に作ってきて一定の評価をいただいているとは思うのですが、普段IPを扱う会社なのに自分たちのゲームではIPをやらないという流れで来ていて、ライトなゲームのイメージもついていたので、もうちょっとコアなボードゲーム、いわゆるゲーマーズゲームはやりたくてもできないと思っていました。

独力ではこのような本格派のボードゲームを開発することはできませんから、もしやるなら誰かと組まなければなりません。そのような中でヨフカシプロジェクトにはすでに既存のシリーズがあり、ファンも付いているということも踏まえると、ご一緒するのは会社としても大きなメリットがある。そう思い、喜んで参加させていただいた次第です。

──TERIYAKI GAMESのタイトルは、いわゆるパーティーゲーム寄りのものが多いのですが、ちょっと重めのゲーマー向けのタイトルについても取り扱ってみたいとお思いになっていたのですね。

成田:うちで取り扱うゲームとしては、まずTCG(トレーディングカードゲーム)をブシロード本体(※4)でやっていますし、デジタルゲームも扱っています。それ以外のもの、特にカジュアルなボードゲームについてブシロードクリエイティブでやろうかということになってTERIYAKI GAMESを立ち上げたという経緯がありました。

※4=ブシロード:トレーディングカードゲーム『カードファイト!!ヴァンガード』『ヴァイスシュヴァルツ』、スマートフォンアプリ『ラブライブ!』シリーズや『BanG Dream!(バンドリ!)』などを取り扱う企業。ブシロードクリエイティブはその子会社にあたる。

本格的なゲームを扱うならブシロード本体のほうでやるものだと思っていたのですが、TERIYAKI GAMESとしてボードゲーム方面の流通の開拓が進み、ゲームマーケットのようなイベント出展も自分たちがやってきましたから、ヨフカシプロジェクトに参加するならブシロードクリエイティブのほうがいいかなと。それと、社内にも積極的にやりたいと言ってくれた人間がいたんです。それが(この取材に同席している)小柴です。

──小柴さんは、もともとボードゲームに興味がおありだったのでしょうか。

ブシロードクリエイティブ 小柴未里(こしば・みさと)氏:そうですね。もともと自分はミステリーなどが好きなのですが、TERIYAKI GAMESをやっていくなかでマーダーミステリーの業界の方とも仲良くさせていただくようになり、皆さんとお話するにつれて「自分も関わってみたい」と思うようになりました。

そのようなときにヨフカシプロジェクトさんからお話をいただいたんです。『キルタイム・キラーズ 絶泉館の殺人』(以下『キルタイムキラーズ』)というマーダーミステリーのタイトルもありますし、何か面白いことができそうだな、と思って手を挙げさせてもらいました。

──ヨフカシプロジェクトのゲームはすべてテーマとシステムが違っているのですが、そのなかにマーダーミステリーの『キルタイム・キラーズ』があったのですね。

渡辺:第1フェーズでリリースしたタイトルは1本ずつ全く異なるものにしようというコンセプトがありました。自分はアークライトさんの“Kaiju On The Earth(※5)”というシリーズのディレクションもしていますが、あちらは逆にテーマを統一してテイストを揃えることにシリーズの肝があります。ゲームシステムは作品ごと変えていますが、1本スジが通った、統一されたストーリー性を重視しているんです。

※5=Kaiju On The Earth:アークライトよりリリースされている怪獣をテーマとしたボードゲームシリーズ。プロデュースをドロッセルマイヤーズ渡辺氏が担当する。2019年12月発売の『ボルカルス』以下、現在4作が販売中。

一方で、ヨフカシプロジェクトは「新規IPの実験場」のようなプロジェクトなので、まったく同じテイストのものを何作も作っていると意味がないんですよ。ですから「キャラクター性の強いゲーム」という程度のゆるい枠組みはありますが、1作品ずつ世界観や絵柄を変えて制作しています。ゲームのジャンルやシステムも意識して分散させていますね。そのうちのひとつとして『キルタイム・キラーズ』というマーダーミステリーも手がけました。

ブシロードクリエイティブの参加で変化で何が変わるのか

──続きまして、新生ヨフカシプロジェクトにおけるコナミデジタルエンタテインメント、ブシロードクリエイティブ、ドロッセルマイヤーズの各社の役割等について教えてください。皆さんは、どのようなポジションで関わってらっしゃるのでしょうか。

門井:実は3社の分担は、以前とあまり変わっていないかもしれません。かつてオーシャンフロンティアさんが担っていたポジションに、ブシロードクリエイティブさんが驚くほどピッタリはまってくださいました。

渡辺:3社の役割は、コナミデジタルエンタテインメントさんがクライアントで権利元、ブシロードクリエイティブさんがパブリッシャーで発売元、ドロッセルマイヤーズはゲーム自体の開発や各IPのディレクションを担当します。ただ実際には、上から下に企画が降りてきて「次のゲームはこれを作ってください」と指示があるような体制ではなく、今後どういうことをどういう順番でやっていくのがいいのか、その都度みんなで意見を出し合って決めています。

これまでの段階、第1フェーズでいうと、例えば『まっぷたツートンソウル』はヨフカシ第一弾にはラノベテイストのラブコメものボードゲームを出したい、というコナミデジタルエンタテインメントさんからのリクエストがあって制作したものですが、『魔警オルトロス』は逆に僕らから“魔法警察もの”ってどうですか?と提案したものでした。

今回プロジェクトに新しいメンバーが加わったわけなので、そこに新しい発想や化学反応が生まれるはずです。いま成田さんと小柴さんがやってみたいジャンルやテーマは何ですか? ということをヒアリングしながら企画を練っているところですね。もちろん未発表の企画については今はお話しできませんが、ブシロードクリエイティブさんの参加で可能性が広がっていく実感がすでにビンビンにあります。

──ご説明いただいたように、権利を持っている会社と、パブリッシャー、それから制作という形で3社ごとの立場があるということですけれども、それぞれの役割にガッチリと線を引いているわけではなく、全員が意見を出しながら作っていらっしゃるという感じなのですね。

渡辺:そうですね。お金を出す人、商品を売る人、作る人の全員が「これを試したい」「ここに勝算がある」という企画を進めるべきで、「あの会社がやれと言うから、僕は売れないと思うけど仕方ないからやりましょう」という感じでは、うまくいきませんからね。こう言うと理想論のようですが、いまヨフカシプロジェクトは実際にそういう風通しのいいチームワークが生まれています。

新生ヨフカシ第一弾に『キルタイム・キラーズ』続編が選ばれたワケ

──ゲームマーケット2024春のTERIYAKI GAMESプースにて、新生ヨフカシプロジェクト第1弾となる『キルタイム・キラーズ THE BOARD GAME 真明市連続殺人事件』が発表されました。こちらのタイトルが新作として選ばれたのはどのような理由でしょうか。

渡辺:『キルタイム・キラーズ』については、ブシロードクリエイティブの小柴さんがマーダーミステリー好きだったというのもありますが(笑)、僕らとしてももともと1作品では完結しない構想でいろんな謎を散りばめるような作り方をしていたので、ブシロードクリエイティブさんへの移管が決定する以前から続編を制作中だったんです。ですから、このタイトルが新生ヨフカシプロジェクトの第一弾となることはスムーズに決まりました。

『キルタイム・キラーズ』は、他のタイトルと違って集英社さんも座組に入っていて、もともとシリーズ化前提でスタートしているんです。なので1作目の時点で作られたミュージックビデオを見ても、1作目では登場しないキャラクターがちょこちょこ出ていたりします(笑)。

もちろん制作途中の作品があったからといって、新生ヨフカシプロジェクトの第1弾としては他の作品を優先することもありえたし、そのあたりは先ほどのような3社のフラットな話し合いの中で決まった感じですね。

──前作はマーダーミステリーでしたが、新作は名前にも“THE BOARD GAME”と入っているように、ボードゲームとして発表されました。ジャンルが変わったと思うのですが、なぜでしょうか。

渡辺:前作『キルタイム・キラーズ』はキャラクターも世界観もすごく人気がありまして、同じマーダーミステリーとしての続編ももちろん選択肢にはありました。でもマダミスって一度きりしか遊べないので、「好きなキャラといつでも、何度でも会える」って体験は作れないんですよね。「一作ごとにコンセプトを変える」というヨフカシプロジェクトの思想もありますし、マーダーミステリーからボードゲームへのジャンル転換も面白い化学反応が起きるんじゃないかということで、今回の企画になりました。

繰り返し遊べるボードゲームにしたので、前作で『キルタイム~』の世界観を気に入ってくれた方は何度でもそれを楽しめますし、逆に前作をプレイしていない人が今作から入るのも完全に大丈夫なように作ってます。このボードゲームに前作のネタバレは含まれていませんし、パラレルワールドになってるので前作で被害者だった人も普通に生きてます(笑)。なのでぜひ今作のボードゲームから入って前作のマダミスに興味をもっていただきたいですね。『キルタイム・キラーズ』は「経験者と未経験者が一緒に遊べる」というマダミスにしては特殊なシステムを備えていますから、これも活きると思います。

――皆さんが次のタイトルの相談をした際、ブシロードクリエイティブさんも『キルタイム・キラーズ』を推したんでしょうか。

成田:そうですね、それが良い流れを作れるんじゃないかと思いました。プロジェクト参加を検討する中で、自分たちもヨフカシプロジェクトのゲームをすべてプレイしたのですが、『キルタイム・キラーズ』は特にものすごく盛り上がったんですよ。

新作はマダミスからボードゲームにジャンルシフトするわけですが、その展開も面白いと思いました。パブリッシャーの立場として考えると、マダミスのボードゲーム化は遊びやすさ、売りやすさに繋がるとも思いましたね。

――新作『キルタイム・キラーズ THE BOARD GAME 真明市連続殺人事件』については、何かゲームシステムのひな型があって、そこに『キルタイム・キラーズ』の世界観をはめ込んだということなのでしょうか?

渡辺:いえ、ゲームデザイナーの佐藤雄介さん『タイムボム』ニゴイチほか)にお願いして完全新作として作ってもらったものです。佐藤さんは才気ほとばしるデザイナーなので、かねてから一緒にゲームを作ってみたいと思っていました。ただ、佐藤さんは興味の対象がアブストラクトなゲームシステムそのもので、テーマとかストーリーにはっきり興味がないタイプのデザイナーさんなので、そういう要素の強いヨフカシプロジェクトで組むのは合わないのかなあ…と以前は思っていたんですよね。

でも逆に考えると、例えば『キルタイム・キラーズ』はミステリー作家の斜線堂有紀さんの世界観とキャラクターが色濃いタイトルですから、ゲームデザイナーの側でそこのこだわりが強いとかえってぶつかり合う部分が出てきてしまう事もあるし、むしろ相互補完的な作家さんのほうが相性がいいのかも? とも思ったんです。なので『キルタイム・キラーズ』の続編をボードゲームとして作る事が決まったとき、佐藤さんに興味があるか打診してみたところ快諾してもらえました。

僕から佐藤さんへのオーダーとしては「前作『キルタイム・キラーズ』のゲームシステムを抽象化し、ボードゲームに変換するとどうなるか?」というアプローチで考えてみてください、という内容でした。マーダーミステリーは最初に個々のプレイヤーだけが知っている情報があり、調査という形でそれ以外の情報を集め、それらをプレイヤー間で共有したりほのめかしたりしながら犯人を絞り込んでいきます。それをボードゲームという形で表現したらどうなるか? これを佐藤さんが見事に構築してくれたのが、新作『キルタイム・キラーズ THE BOARD GAME 真明市連続殺人事件』のシステムです。なのでプレイしてみると「確かにこれはボードゲームなのに、実はマダミスでやっていることと本質は同じだ!」という新鮮さがあると思いますよ。それでいてプレイ感は、意外なほど笑って遊べるパーティーゲームです。連続殺人事件ものなのに(笑)。

既存シリーズの続編も完全新作も制作中?

――今後、ヨフカシプロジェクトで『キルタイム・キラーズ』以外の作品についても、続編を発売されることがあると思います。現状で実際に構想があったり、もしくは実際に進んでいたりするものはありますか。

渡辺:あります。やはり、せっかく作った世界観とキャラクターたちですからね。現状ではっきりとどの作品が動いているとは言えませんが、各シリーズをそれぞれのやり方で展開させていきたいと思っています。

最初に登場するのは『キルタイム・キラーズ』の新作になりましたが、他の作品についても、新版、続編、発展型など色々な料理の仕方を考えています。あれとかあれとか……まだ言えないんですが!

――既存の作品を展開しつつ、さらにまったく新しいシリーズが登場することもあるのでしょうか?

渡辺:もちろんです! 完全新作にはやはりブシロードクリエイティブさんの色を出したいんですよね。ブシロードグループの強みを活かしたり、逆にこれまではブシロードでやれていなかった事を補完していくなど、せっかく新たに参画していただいたことですし、できるだけご意見をもらいながら一緒に作りたいと思っています。

――続編だけでなく、発展型も考えていらっしゃるとのことでした。既存のシリーズの新作が登場する場合、世界観やキャラクターは受け継ぐとしても、システム面は大きく変わることがあるということですか。

渡辺:もちろんお客さんが望まないものを作るつもりはないので、何らかの関連性を持たせつつですが、「こう来たか!」という驚きも欲しいですよね。先ほどの『キルタイム・キラーズTHE BOARD GAME』でゲームシステムの構造を活かしたままマダミスからボードゲームへの変換をおこなったように、そこを考えるのも面白いところです。

門井:デジタルのゲームでも、タイトルごとのファンが求める体験というものがありますから、そこを外さないようにシリーズ展開をしていきますよね。逆にまったく新しい体験を提案したい場合は、世界観も完全新規で生み出した方がいいかもしれません。

──ブシロードクリエイティブさんはどのようにお考えですか。

成田:自分はビジネスの大枠を組み立てる役割なので、弊社の人間では小柴が現場目線で参加しています。ヨフカシプロジェクトの主要スタッフは男性が多いですから、女性という立場からも新しい観点で意見を出せるのではないかと思っています。

――実働的なポジションは小柴さんが担当されていらっしゃるということですね。小柴さんは、ヨフカシプロジェクトのゲームのなかでお好きなタイトルというと先ほどお話いただいたように『キルタイム・キラーズ』になると思うのですが、他に好きなゲームはありますか?

小柴:『まっぷたツートンソウル』が好きですね。自分の周りにはコアなボードゲーム仲間が多いわけではないのですが、そうではない友達でもすんなりと受け入れてもらえるようなゲームです。お店などで知り合った初対面の人たちと遊んでも、ゲームを通じて仲良くなれるところもすごく良いと思っています。

渡辺:プライベートでお酒を飲みながら遊んでいただけたらしく、『まっぷたツートンソウル』は僕自身がゲームデザインした作品でもあるので、めちゃくちゃ嬉しかったです(笑)。

成田:TERIYAKI GAMESでパーティーゲームを作っていた自分たちとしても、受け入れやすいタイトルですね。

――普段TCGで遊んでいるカードゲームのプレイヤーからは、ヨフカシプロジェクトのタイトルでいうと、本格派デッキ構築の『破宮のデクテット』が支持されそうです。

渡辺:『破宮のデクテット』はゆるい『まっぷた~』の逆で、一部に熱狂的なファンがいるタイトルですね。確かにTCGともユーザー層が重なるので、今後展開していく中でブシロードのお客さんにも喜んでもらえるシリーズになるかもしれません。

成田:これまで自分たちは1000円台ぐらいまでの価格帯の商品を取り扱ってきたので、5000円を超えるボードゲームが販売の現場でどれだけ売れるのかわからない部分があったのですが、TCG関連のイベントなどでも定価8800円の『破宮のデクテット』が想像以上の売れゆきで驚いています。

TCGプレイヤーとボードゲームの親和性は間違いなく高いですよね。でも意外とボードゲームを初めて見た、初めて触れたという声も聞くので、そのあたりに市場としてのポテンシャルを感じます。

『まっぷたツートンソウル』など、過去タイトルの再販もある?

――今回、パブリッシャーがブシロードクリエイティブに変更となりました。販売元が変わるということですが、発売済のゲームの再販の予定はありますでしょうか。

渡辺:いま品切れになっていて、特に再販のニーズが高いのが先ほどの話にも出た『まっぷたツートンソウル』です。この再販は現在具体的に計画中です。

成田:販売元としても、品切れになっているものはそれだけ人気も高いわけですし、できるだけ早く追加製造したいという気持ちがあるのですが、パブリッシャーが変わるという事はパッケージの表記や商品登録などいろいろ変更が必要な部分もありますので、単純な再販という訳にはいきませんね。

渡辺:せっかくなので内容にも少し手を加えた改訂版、もしくは新版という形になるかもしれません。

成田:もちろん、可能な限りシリーズ作品がいつでもお客さんの手に入るような状況を作りたいと思っています。ヨフカシプロジェクトはIP創生という目的で立ち上がったので、その観点から見ると在庫切れの状況は良いことではありません。今は静かなタイトルも何年かあとに突然火が点いてIPとして拡大していく可能性もありますし、ユーザーさんが欲しいと思ったときに常に購入できるように努力することは大事だと考えています。

──『まっぷたツートンソウル』は品切れとのことですが、現状で在庫があるタイトルはどのような形で管理されているのでしょうか。

成田:今ある在庫品については、アニメイトグループさんから全て移管していただけたので、流通可能になっております。

コミック、アニメ、デジタルゲーム……多方向への展開の構想は?

――既存のものの展開だけでなく新たなIPシリーズについての構想もあるとのことでしたが、こちらについてもすでに動き出しているタイトルがあると考えていいのでしょうか。

渡辺:構想中のものはありますが、まだまだコンセプトワークの段階ですね。ヨフカシプロジェクトはゲームが面白ければいいだけじゃないので、コンセプト段階でじっくり検討することも大事なんです。

――それはブシロードクリエイティブさんらしさが出ているようなものでしょうか。例えば、ブシロードさんの持つIPを活かしたものであったりですとか。

成田:その路線はまったくないです(笑)。

渡辺:TERIYAKI GAMESとヨフカシプロジェクトは、今後ブシロードクリエイティブさんのなかで別のレーベルとして両立していくのですが、もしブシロードさんの自社IPをボードゲーム展開していくとなったら、そのどちらとも別にやるかもしれないですね。

成田:おっしゃる通りで、ブシロードIP関連のものは、ヨフカシプロジェクトという枠組みでやらなくてもいいと思います。個人的には、このメンバーで作ったらどんなものになるかの興味はあるのですが。

――他社の作品になりますが、ドロッセルマイヤーズ渡辺さんの原作で、アークライトのボードゲーム『ボルカルス』がコミカライズ(※5)され、連載が続いています。ヨフカシプロジェクトはIP創成が目的ということで、こちらで生み出されたキャラクターと世界観を生かしたコミックやアニメ、ノベル、門井さんのお話にも出たデジタルゲームなど、多方向への展開は考えていらっしゃるのでしょうか。

※5=コミック版『Kaiju on the Earth ボルカルス』:小学館のウェブコミックサイト「サンデーうぇぶり」にて2023年12月より連載中のコミカライズ作品。原作は渡辺範明氏、作画は『放課後さいころ倶楽部』の中道裕大氏が担当する。2024年5月現在、単行本第1巻が発売中。

門井:もちろんやりたいと思っています。ブシロードさんはいろいろなメディアで発信していらっしゃるし、IPを活かした展開のノウハウに期待してプロジェクトに加わっていただいた面もあります。これまではIP創生を目標にしつつも「まずはボードゲーム制作をがんばろう」という段階だったのですが、ここから先はむしろ外への展開が重要になってきますね。もちろんボードゲームも作りつつ、他のメディアでの展開を充実させるということが今後のフェイズの課題になりますね。

――既存のタイトルですと、例えば『まっぷたツートンソウル』はテーマソングとミュージックビデオがありましたし、ヨフカシプロジェクトのIP自体が最初から多方面に展開しやすいように考えられているものだと思います。ファンとしても、何かしらの拡がりを期待したいところなのですが、もし取り掛かるとしたら、どのタイトル、どのメディアからお考えでしょうか?

●『まっぷたツートンソウル』 MV – ヒゲドライバー

門井:ヨフカシプロジェクトのIPは、良くも悪くも「まだ知られていない」状態です。知名度的に脂がのっている状態であれば急いで展開したほうがいいのですが、現在の知名度は高くない。ですから、ゆっくりとIPを育てていってもいいかと思っていますね。

先ほどデジタルゲームの話もありましたが、デジタルはひとつ作るとなると億単位の資金と年単位の時間が必要です。それをいきなり実現するのは難しいですから、どこかに展開するとしても、まずはコミックなどで橋渡しして繋げていくことになるでしょう。コミックは、いまWEBやアプリなど媒体も拡張され勢いがありますから、その波に乗せていきたいと考えています。

もちろん、例えばマーダーミステリーなら舞台でやってみたりですとか、いろいろなアプローチがあるとは思います。最初にメディアありきではなく、あくまでもそれぞれのIPや世界観にとってベストなメディアを選んでいくという感覚ですね。

ヨフカシプロジェクトは、IPごとにそれぞれ異なるゴールを見据えて作っているものです。例えば『天魔楼大戦』であれば将来的に対戦型のデジタルゲームにできるといいよね、というイメージが企画当初からありました。一方で、すべてのシリーズのゴールをデジタルゲームに定めているというわけではありません。

渡辺:構造的にアナログでしか成立しないゲームもありますからね。このあたりの理解の共有度が高いのが、このチームの良いところです。

ここから先が面白い! これからのヨフカシプロジェクトに期待

──それでは最後に、BROAD読者のボードゲーマーやヨフカシプロジェクト作品のファンに向けて、皆さんから一言お願いします。

門井:ここ半年ぐらいヨフカシプロジェクトとしての動きが表に出ていなかったので「終わったのか?」と思っていた方もいらっしゃったと思うのですが、それは違うよ!という発信ができて良かったです。

ブシロードクリエイティブさんが加わり、新しい座組で新しい挑戦をしていきますが、もちろん従来タイトルも引き続き盛り上げていきますし、これまで応援してきてくださったファンの方々にも新しいお客さんにも応えていきたいと思います! 楽しみに待っていてください。

成田:ブシロードクリエイティブとしては、渡辺さん、門井さんの開発やプロデュースをしっかりサポートしていきたいという気持ちです。まずは流通。これまで欲しいものが欲しいときに買える、という面が少し弱かった印象がありますので、そこの強化をしっかり図っていきたい。従来のボードゲームの流通を飛び越えたところでやってみるチャレンジですとか。海外展開も現地メーカーによるローカライズだけではなく、自社でどこまでできるかなども含め考えていきたいと思っています。

次にメディアへの展開の強化。メディアミックスを仕掛けるということもそうですが、純粋にもっとメディアへの露出を増やす。例えば、ヨフカシプロジェクトのタイトルについてはテレビCMをしっかりと打っていきたいですね。ボードゲームのテレビCMというのは現状珍しいので、CMを打つことによるビックリ感がありますし、ビジュアルで興味を持ってもらって、そこから「ジャケット買い」しても期待に応えられる作品を揃えていきたいです。積極的にアニメ枠にCMをうっていく事で、アニメファン層にリーチしたいですね。

渡辺:しばらくヨフカシプロジェクトとして新作発表が出来なかった期間、実はブシロードクリエイティブさんと今後の展開について色々相談していました。僕らもファンの方々を待たせてしまっているという焦りにジリジリとしながら、「あれもやりたい」「これもやりたい」と企画のタネを植えてきた感じです。今ようやくブシロードクリエイティブさんという新しいパートナーを発表できて、ここから先がまた面白くなるよ! と言える状況になりましたし、僕ら自身も楽しんで取り組んでいますので、ぜひ期待していただきたいですね。ボードゲームにはまだまだ未開拓の可能性があるはずです!


ヨフカシプロジェクトのタイトルは、これまでの作品で提示されてきた世界観やキャラクターに加え、練りこまれたゲーム性や魅力的なアートワークがファンから高い評価を得てきた。今回新たにブシロードクリエイティブが加わったが、販路やプロモーションの強化が図られる一方で、制作体制に変更はないとのことだった。

今後は、ボードゲームの新作発売、再販・新版発売はもちろん、テレビCM放映も含めたプロモーションの増加や、コミックをはじめとする多方面への進出が考えられるという。これからのヨフカシプロジェクトの展開に期待したい。

ⓒKonami Digital Entertainment
集英社