シンプルなルールでジレンマたっぷりの高いゲーム性を実現! ミヒャエル・シャハトのゲーム7選

ドイツボードゲーム界の重鎮のひとり、ミヒャエル・シャハト氏。彼のゲームは無駄をそぎ落としたシンプルさとインタラクション性の高さ、対決の軸がはっきりしたタイトなデザインが特徴です。多作ぶりでも知られており、そのなかにはドイツ年間ボードゲーム大賞を受賞したタイトルも含まれます。

今回は、ミヒャエル・シャハト氏の作品から7作をセレクトしてご紹介しましょう。

動物園経営を扱ったシャハトの代表作

ズーロレット

2007年にドイツ年間ボードゲーム大賞を受賞したタイトル。プレイヤーは動物園の経営者となり、さまざまな動物を集めて客を呼び込みます。

手番では、場にある動物タイルを引いてトラックに置くか、トラックを引き取ってそのラウンドの手番終了とするか、お金を使ってアクションをするかを選択します。動物がたくさん乗ったトラックを引き取ることができればそれだけ動物園がにぎやかになりますが、個人ボードに開始時3つある檻にはそれぞれ1種類ずつの動物しか入れられません。檻に入りきらなかった動物は外の小屋に置かれてマイナス点になってしまいます。

檻の埋まり具合によって加点があるため、うまく同種の動物を集めていけるかがコツ。どのトラックに動物を乗せるか、いつトラックを引き取るか。他人が動物を乗せているトラックに邪魔な動物を加えて妨害したり、早いタイミングでトラックを引き取ったりすることも可能で、プレイヤーは手番ごとにシビアな選択を迫られることに。かわいい動物たちが登場するほのぼのした印象とはまったく違う、かなり辛口のゲームなのです。

さまざまな拡張に加え、キッズ向けの『ズーロレット ジュニア(ズーロレット ミニ)』や2人専用の『ズーロレット デュエル』、7人まで遊べるロール&ライトの紙ペンゲーム『ズーロレット ダイス』、舞台を水族館に移した『アクアレット』など、派生作や姉妹作もたくさん登場しています。

ズーロレット 概要】
メーカー: アバッカスシュピール/ジーピー
プレイ人数:2~5人
対象年齢:8歳~
プレイ時間:30~60分

 

美麗なアートワークと魅力的なテーマで描く中世欧州世界の作品群

王と枢機卿

中世ヨーロッパ、北イタリアを舞台に宗教の派閥間闘争を扱ったタイトルで、マジョリティ(陣取り)のメカニクスを持つゲームを代表する名作。プレイヤーは教会の派閥争いと枢機卿の最多得票争いのふたつのマジョリティを競います。

手番では、手札を使ってボード上に修道院もしくは枢機卿のコマを配置し、自勢力を拡大していきます。前半は修道院による派閥争い、後半はそれに加え枢機卿の得票争いが展開。二重のマジョリティを並行して争うインタラクション性が高いゲームですが、ルールはシンプルにまとめられています。

プレイ人数は3~5人。のちに2人用拡張セットが発売されました(ゲームフィールドの日本語版は、2人用ルールや追加ボードなどの拡張が最初から同梱)。時代と舞台を変えたシャハト自身によるセルフリメイク作品『Iwari(イワリ)』『Chaina(チャイナ)』も登場しています。

王と枢機卿 概要】
メーカー:ゲームフィールド
プレイ人数:3~5人
対象年齢:10歳~
プレイ時間:60分~

 

パトリツィア

パトリツィアとは貴族階級のことを指す言葉。プレイヤーは中世イタリアの建築家となって貴族の塔を高く高く建設し、名誉を得ていきます。

ボード上には10の都市があり、それぞれ塔のコマが置ける総数が決まっています。これらの都市は、開始時に獲得点数を示すチップを大小ふたつと、補充用の山札が配置されます。

プレイヤーは手番に手札をプレイし、カードと同じ色の都市に指定された数の塔のコマを配置。すでにコマがあるスペースに建てる場合は上に積み上げます。さらに都市ごとの山札からカードを手札として補充します。この補充用のカードは表向きで配置されているため、誰がどのカードを補充したかは分かるようになっています。

都市に置かれた塔のコマが総数と同じになったら得点計算。ふたつの塔それぞれについて、置いたコマの数が多いプレイヤーが得点を獲得します(同数の場合は、より上の階層にコマを配置していたプレイヤーの勝利)。

また、使用したカードに書かれた貴族の顔イラストを3つ揃えるごとに追加でポイントが得られるため、これも重要な加点の要素となります。全員の手札がなくなったらゲーム終了。獲得した点がもっとも高いプレイヤーが勝者です。

無駄のないルールとゲームデザイン、高いインタラクション性はシャハトの真骨頂。ルネサンス期の芸術を想起させる美麗なアートワークや、高く積み上がっていく塔の見映えも魅力的な一作です。元版発売は2007年。コロコロ堂の日本語版は拡張2種を同梱しています。

パトリツィア 概要】
メーカー:コロコロ堂
プレイ人数:2~5人
対象年齢:10歳~
プレイ時間:30分~60分

 

ハンザ

舞台は14世紀の北欧・バルト海沿岸。プレイヤーは商人の連合体ハンザ同盟の一員となり、大きな利益を得て盟主の座を目指します。

ボード上には、沿岸の都市をめぐる乗り合いの交易船が1隻存在しています。手番では、交易船の移動や、交易船が停泊している都市での商品の仕入れ、販売所の建設を実行。販売所がある都市であれば、商品を売却して勝利点を得ることもできます。

このゲームのキモは、1隻の交易船にすべてのプレイヤーが乗り合いしているところ。交易船を進めるのは手番プレイヤーしかできませんが、各人で手持ちの商品や販売所がある都市が違うため、プレイヤーごとに次に行きたい都市が変わってきます。そのため、交易船は全プレイヤーの思惑によってあっちに行ったり、こっちに来たり……と、なかなか進路が定まりません。

他プレイヤーの意志を汲み取り、うまく相乗りしながら利益を上げていくことが重要。手持ちのお金、商品、販売所の位置と数、勝利点など全プレイヤーのすべての情報が公開されるなかで、先の先まで読み切ったプレイが求められます。すべての要素が絡み合い、有機的に作用する緻密なゲームデザインが光るタイトルです。

ハンザ 概要】
メーカー:ゲームフィールド
プレイ人数:2~4人
対象年齢:10歳~
プレイ時間:60分~

 

短時間でプレイ可能、ただし中毒性バツグンなライトゲームたち

コロレット

元版発売は2003年。『ズーロレット』の元となったカードゲーム。カードには色とりどりのカメレオンがあしらわれています。

ゲームは全9色のカラーカードを使って行います。プレイヤーは手番にカードを山札から1枚引き、場にある列に並べます。もしくは、すでにあるどれかの列のカードをすべて引き取ってラウンド終了とします。引き取ったカードは色ごとに並べ、集めた枚数が得点に。ただし、プラスになるのは3色目までで、それ以上の色数を取ってしまうとマイナスになってしまいます。

カードを多く集めないと高得点は期待できませんが、色数が増えてしまうとそれだけマイナス点を被ってしまう。色数を絞りながら枚数を集めていきたいものの、プレイヤー同士が邪魔しあうため、そう簡単にはいきません。短い時間でプレイでき、極限までシンプルなルールながらもジレンマが詰まった悩ましいゲームです。

コロレット 概要】
メーカー:メビウスゲームズ
プレイ人数:3~5人
対象年齢:8歳~
プレイ時間:30~60分

 

ラッキーナンバー

1~20の数字が書かれたクローバー型のタイルを、4×4のマスがある個人ボードに置いていくタイル配置ゲーム。

プレイヤーは場にあるタイルから1枚を選び、ボードに配置するか、すでに置いてあるタイルと入れ替えます。ただし、タイルは縦横の両方の列すべてにおいて昇順に並べていかなければなりません。

ルールはこれだけなのですが、ジレンマたっぷりで手番のたびにタイルの選択や配置場所に頭を悩ませることになるはず。ひとりでもプレイ可能なのがうれしいところで、なかなかうまくいかないじれったさがあり、何度も挑戦したくなる中毒性が高いゲームです。

プレイ人数5人まで対応し、ずれにくい階層式のゲームボードを採用した豪華版『ラッキーナンバー デラックス&アクセス』も発売されています。

ラッキーナンバー 概要】
メーカー:ケンビル
プレイ人数:1~4人
対象年齢:8歳~
プレイ時間:~30分

 

ウキヨエ

19世紀末のヨーロッパ。プレイヤーは美術商となり、当時流行していた浮世絵を集めて個展を開くことを目指します。

『ウキヨエ』は、6人の絵師の実在する浮世絵をあしらった7種70枚のカードを使ったゲームです。プレイヤーは手番にまず山札もしくは捨て札からカードを引いたのち、手札から複数枚の同じ絵のカードを場に出すか、1枚を捨て札にするか選びます。

カードを出す際に、すでに他のプレイヤーが同じカードを出している場合は、その枚数を上回っていなければいけません(出すことができると、先に出していたプレイヤーのカードは捨て札となります)。場に6人の絵師の作品が出るか、山札が切れるとゲーム終了。カードごとに定められている得点を獲得します。

どの絵のカードを集めるか、どのタイミングで、何枚の組で出していくかの判断が悩ましい。少ない枚数で出すと他のプレイヤーに後から重ねられてしまう可能性がありますし、かといって出さないと得点になりません。得点が高いカードは枚数も多いのですが、絵柄ごとのカード総数は分かるようになっているので、カウンティング(すでに出ている枚数の計算)がキモとなってきます。

2003年の2人用カードゲーム『クレイジーチキン』のテーマとアートワークを変更してリメイクし、ゲームマーケット2025春で先行発売されたタイトル。佐藤敏樹氏のディヴェロップによりさまざまな部分が改訂されており、4人までプレイできるようになっています。

ウキヨエ 概要】
メーカー:さとーふぁみりあ
プレイ人数:2~4人
対象年齢:10歳~
プレイ時間:20分


シャハト氏のゲームは、そのほとんどが1時間未満でプレイできるライトなゲームで、ルールも理解しやすいシンプルなものです。しかし、ケンカ上等の高いインタラクション性とプレイヤーを悩ませるジレンマにより、彼の作品には独特の空気感が漂います。

美しいコンポーネントも魅力のひとつで、シャハト氏自身がアートワークやボックスアートを担ったタイトルもあります。

氏の作品は名作揃い。ボードゲームカフェやプレイスペースに置いてあること多いので、プレイする機会はたくさんあるでしょう。まだ未体験という方は、ぜひとも遊んでみてください。切り詰めたゲームデザインの美しさと、ジレンマの苦しみを存分に味わうことができるはずです。