【作者直撃】ドイツ年間ゲーム大賞ノミネート作品『SCOUT』を作ったワンモアゲーム!の梶野桂さんインタビュー。会社の同僚はゲーム作りを知らない!?

ゲームデザイナーにインタビューをして、ボードゲームを初めて遊んだきっかけやゲーム作りの秘話などを伺う【作者直撃】の5回目です。

前回は倦怠期の新澤大樹さんで、記事は以下になります。

【作者直撃】『マスクメン』の作者、新澤大樹さんにインタビュー。趣味はボードゲームのルールを読むこと?

今回はボードゲームの賞としては最も権威のある2022年のドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres。以下、SDJ)にノミネートされた『SCOUT』の作者、ワンモアゲーム!の梶野桂さんです。残念ながら大賞受賞とはなりませんでしたが、ドイツ・ベルリンでの授賞式から帰国して数週間後のインタビューとなっています。話が興味深くていろいろ訊いてしまい、マジでBROADの過去最長の記事になっています。暇な時にゆっくり読むのがオススメです。これが世界の梶野だ!

会社の人たちはゲーム作りについて…

ーー早速ですけど、取材は結構あります?

梶野:いや、まだ2つです。

ーーこれが取材3つ目ですか〜。

梶野:毎日新聞の「まいにちボードゲーム」に短いコメント出したのと、ゲームマーケットのパンフレットに掲載されるインタビュー、そして今日のこれです。

ーーなんか一般的な週刊誌とか新聞とかが取材に来ても良さそうなのに。

梶野:う〜ん……やっぱり、知らないんだと思います。認知があまりに無さすぎるな、と。

ーーなんか、ボードゲーム業界って結局そんなもんか……。残念な話ですね。

梶野:そういう意味でも悔しいですよー。大賞獲ってたら違う景色が見れたのかなとかね。

ーーこのファミレスでも誰も気付きませんしね。世界の梶野なのに。

梶野:ちなみに今日は授賞式と同じ格好で来ました。

ーー今、お仕事は何をしてるんですか?

梶野:プログラマーです。

ーーIT関係の会社なんですね。年齢は?

梶野45歳です。

ーー授賞式でドイツには1週間くらい行ってましたよね。会社も理解あるんですね?

梶野:いや、ゲーム作ってることは言ってないです。妻と夏休みでって。

ーーえ? だって顔出して活動してますよね。SDJもインターネットで生中継されてましたよ。

梶野:知らないでしょう、ボードゲーム作ってる人なんて。

ーーえええ? 会社の人は気付かないですか? ドイツ行くって言ってたのはコレだったのか〜とか。

梶野:ならないんですねぇ〜、凄いでしょ。それくらいのものなんです。

ーーだって社内に『SCOUT!』やった事ある人が1人くらいはいるはずですよ〜。

梶野:別にバレたらバレたで。悪い事してるわけじゃないので、ドイツ獲れなかったんですよって言うだけで。

ーーボードゲーム最高峰の授賞式に立っても同僚に気付かれないのか

小学校ではゲーム部でボードゲーム

ーーボードゲームをやるようになったのはいつですか?

梶野:ドイツゲームという意味では34歳35歳のときなので……10年くらい前ですかね。

ーードイツゲームという意味では……って、含みのある言い方ですけど!?

梶野:子供の頃に『ドンジャラ』とか。小学校3年生の時には麻雀覚えてたんで、そういう意味でアナログゲームはバリバリ遊んでたんですよ。

ーー私は47歳なので梶野さんと同世代なんです。小学生の頃にファミコンの登場と同時期にボードゲームのブームってありましたよね?パーティージョイシリーズとか。

梶野:ありました、ありました! 個人的に覚えてるのはアニメの「怪物くん」のビンゴゲーム(正式なタイトル『大当たりビンゴロー』)があったんです。取手が付いたぐるぐる回る箱の中から数字が書いてある球体が出てきて1列揃えるってゲームで。

ーーあー! なんかあった!! 友達の家で遊んだ記憶が蘇ってきた! 半円みたいな欠けた部分にキャラクターが描いてあって、その出てきたタマをそのまま自分のボードに置くんじゃなかったでしたっけ?

梶野:そうですそうです!

梶野:で、カミナリが出ると即死で、ゲームから脱落なんですよ。

ーーハハハ()。そんなカミナリなんかありましたか!

梶野:子供の頃だからカミナリがめちゃくちゃ怖くて()。カミナリ出ると30分くらい放ったらかしですからね。イヤでしょ?

ーーカミナリ一発で脱落?

梶野:確かそうですよ。そのルールで遊んでたんで。

ーー酷いなぁ()その頃って他のアナログゲームもやってました?

梶野:ファミコンが出る前は遊んでましたね。あとは小学校3年か4年生の時にゲーム部っていうあいまいな部に入ってて、クラブ活動の授業にアナログゲームをみんなで1時間くらい遊ぶんですよ。そこで『ホテル王』ってゲームをやったんです、海外では『HOTELS』って名前で出たゲーム。日本ではツクダオリジナルが販売してたんですけど。それが最初の海外のボードゲームになりますね。

ーー小学生でも普通に遊べるルールなんですか?

梶野:はい。『モノポリー』をちょっとだけ難しくした感じのゲームで。ホテルが立体的なんですけど、やり過ぎてボロボロになってましたよ。なんで小学校にそんなゲームが置いてあったのか。

ーーそれはあくまでも原体験であって、それ以降は当然テレビゲームとかをメインに遊んでた訳ですよね?

梶野:そうですね、周りもそうだったので格闘ゲームやったりSNKのゲームやったり。シミュレーションゲームとかデジタルの方をやってて。

カタンではハマらず、ボーナンザでハマる

ーーボードゲームに戻って来たきっかけは何ですか?

梶野30歳の頃かな?友達に誘われて『カタン』を遊んで、35歳の時に『ボーナンザ』に会うんですよ。

ーー『カタン』には触れたけどハマらず、さっき言ってた約10年前っていうのが『ボーナンザ』ですか。

梶野:『ボーナンザ』が衝撃的で。本格的にドイツゲームやろうと思ったのはここからですね。その時に『コロレット』も遊ばせてもらって両方面白かったんですけど『ボーナンザ』が衝撃的すぎて、ホンットに面白いなぁと。

ーー『ボーナンザ』は何が衝撃的でした?

梶野:なんでこんなに難しい動きをさせるのに、なんでこんなに面白いんだろうって。あと、カードを裏返して1金にするじゃないですか。あれが凄いなって。

ーーいや〜、実は前回のインタビューが倦怠期の大新さんで、ボードゲームをやるようになってから『ボーナンザ』に衝撃受けたって言ってたんですよ! しかもカード裏返してお金にするアイデアが凄いって。ゲームデザイナーが2人続けて同じゲームを挙げてると思って()。

梶野:えー! やっぱそうなんですか。ハハハ……

ーー持ってるカードを入れ替えちゃいけない部分に衝撃受けたって話なら『SCOUT!』に繋がるんですけど、そこじゃないんですね?

梶野:もちろん並べ替えが出来ないのも衝撃でしたけどね。でも、4枚の豆をお金として裏返しにして例えば2金獲得したら残り2枚は捨て札として戻るじゃないですか?あれで枚数調整も行われているっていうのがね、もう凄いなって

ーーその部分に食いつく人って、ゲームを作る脳の持ち主なんですかね?

梶野:変わってますかね? どうやって作ったのかというアイデアに衝撃を受けたんですよ、面白さはもちろんなんですけど。あの頃の(ウヴェ・)ローゼンベルクって天才的だなって思いますよ。『マンマミーア!』も同時期に出てるんですけど、カードゲームのほうが好きですね。だからこんな素敵な感動を与えてくれるなら、僕にも何か出来ないかなって。それで作りたいって思ったんですね。

ーー『ボーナンザ』をやっていきなりゲーム作りたいと思ったんですか?

梶野:いや、その直後にゲームマーケットがあって面白そうだから行って。それからですね、作ろうと思ったのは。

ーーそれが10年前だから、ゲームマーケット2012春か秋か2013年ですかね?

梶野:初めて行ったのは2012年秋。

ーービッグサイトじゃなく浅草でやってたときですか?

梶野:そう、ギリギリ浅草でした。楽しかったな〜。めちゃくちゃ楽しかった。

ーー何か買いました? 初ゲムマは。

梶野:『ラブレター』買いましたね。まだ封筒に入ったバージョンで売ってたときです。ホントは『大商人』を買いに行ったんですけど無くて、カナイセイジさんも「え? そっち?」みたいな顔してましたけど。それで『ラブレター』買いました。

ーー同じタイミングで買ってますよ! 確かゲームマーケット2012春ですぐ売り切れて、結構話題になっての再販じゃなかったかな? 行列も出来てて。

梶野:そうですね。あと買ったのは同人ゲームじゃないんですけど『10デイズ・イン・アフリカ』です。

ーーそれも並べ替えに制限あるゲームですよね?また『SCOUT!』の影が…。並べ替え引きずってますねぇ。

梶野:言われると確かにそうですね。でも面白かったんです。妻の実家にあって、今も遊んでますよ。

ーーいろんな地域のバージョンあるし、面白いですよね。地理の勉強にもなるし。

アニソンをみんなで歌う会での出会い

ーー当時はボードゲームを遊ぶ相手ってどうしてました?

梶野10年くらい前ですけど、ニコニコ動画を見た内容を飲みながら話すという集まりがあって。

ーーなにその気持ち悪い集まり!

梶野:気持ち悪いって言うな()。

ーー掲示板とかで「あの動画面白いね」とかじゃダメなんですか?

梶野:最初はSNSで話してて、みんなで飲みに行こうよという流れですね。そこで妻とも知り合いまして。

ーー奥さんとの出会いですか! ニコニコ動画は何を見てたんですか?

梶野:ランキングが上のほうを見たり、後に初音ミクとかも出てくるんですけど、その前から見てたので。アニメの替え歌とかを組曲って言って、アニソンを繋ぎ合わせてミックスした曲を聴いたりとか。その組曲をみんなで歌う会が埼玉であるよという誘いを受けて行ってみるか、と。しかもそれは今も続いてますよ、もう14年かな?

ーーその人たちとボードゲームやってたと?

梶野:『ボーナンザ』を遊ばせてくれたのもそこの人で。その人と2人でゲームを作り出したんです。

ーー今もその人と一緒にやってるんですか?

梶野:ゲームの方向性が違って、サークル分けさせてくれって話で。

ーーちなみにその方は今もゲーム作りしてるんですか?

梶野:結婚してからは最近やってないですねぇ。

ーー結婚あるあるですよね。ボードゲームに限らず、結婚を機に趣味の集まりに来なくなったりとかね。

梶野:でも連絡取ってて、SDJノミネートのときもLINEで「あのときのおかげだよ」と送って。

ーーそういうのってホントに人との出会いで人生違ってきますよね。

梶野:いや〜、ホント。彼に会ってなかったらゲーム作ってないですからね……。ボードゲーム作るって人の集まりだらけなんですよ。それまで培ってきたスキルももちろん必要なんですけど、どんな人と会ってどんな話をして、どんなゲームを遊んでどう感じるか。その繰り返しなんですよね。だからいい人にずっと会わせてもらってるんだなって思いますね。

ーーちなみに、その頃面白かったゲームは何ですか?

梶野:『アクワイア』ですね。

ーーあれは何回やっても面白いですね。

梶野:あれは唯一無二です。ホント面白い! 株ゲームが好きなんですよ。

ーー株ゲームの何が魅力ですか?

梶野:価格の上がり下がりを見極めて、抜け出す緊張感が好きなんです。ある程度の運に左右されて翻弄されながら、どう制御していくかというのが無いとゲームは面白くないですよ。

絵は描けないけど同人活動への憧れ

ーーさっきちょっと言ってましたけど、ゲームを作るきっかけは何ですか?

梶野:ゲームマーケットのおかげです。同人の創作活動に憧れがあって。漫画は買うのも読むのも好きで。でも、絵も描けないし、文章も書けないし、ストーリーも作れないから「何も出来ないなぁ。僕はこのまま何も出来ないまま終わっていくのかなぁ」と思ってたんですけど。それがゲームマーケット行ったらルール作って売ってる人達がいるじゃないですか!「やっていいんだ!」って。それでゲームマーケット2012秋に行った瞬間に絶対ここに出るって思って、絶対ゲーム作るって決めました。元々同人活動をやりたいのがあったので爆発したんですよ、「何か物が作れる、出展出来るぞー」って。

ーー梶野さんにはオフ会があるじゃないですか。そこは何かを発表する集まりではないんですか? ニコニコ動画用に動画作ろうよ、とか。

梶野:ならない。そっちは創作活動とかではなく、今あるものを楽しむという集まりで。動画の話も最初のうちだけで、もはや普通の友達でただ飲んでるだけで楽しいですから。

ーーゲムマに出展してる人たちを見てかなりのショックを受けたんですね。

梶野:帰り道で妻に「僕はゲームマーケットに出る」って…。まぁ、言ったところでゲームが出来るわけじゃないんですけどね。

ーーアイデアも無いんでしょ()。

梶野:そうなんです。ただ、ここにブース出したい。ここに立ちたいってだけで。

ーー奥さんもそういうゲームマーケットに付き合ってくれる人なんですね。ちなみにボードゲームはやる人なんですか?

梶野:そんなに好きじゃなかったんですよ。18時間とかやる人に比べたら全然ですけど、普通にボードゲームを遊んでましたね。今も年に23回は向こうから遊ぼうって言ってくれますし。ゲーム作りとかにも協力的で凄くありがたいですね。ゲームが出来てテストプレイを月に34回とか開いてたりゲーム会に行ってたときは「ちょっと多過ぎない?」と言われて、月2回までになりましたけど。

ーー月2回はOKなんですね()。あんまり変わってないけど。奥さんはゲーム会には一緒に行かないんですか?

梶野:一番最初にゲーム会を開催した時に人が少なかったので参加してくれてました。

ーーサクラとして(笑)。めちゃくちゃ良い人じゃないですか!

梶野:そうですね、ありがたいですね。結婚して良かったなと思いましたよ()。

ゲムマ当日の夜中まで印刷していたデビュー作

ーーそれで最初に作ったゲームは何ですか?

梶野:『Welcome!』です。

ーーえ? 英語の説明書も入ってるんですか?

梶野:遊んだ人が面白いって言ってくれて、説明書を英訳したいと。それで後々やってもらったんです。最初はもちろん日本語だけでしたけど。

ーー『Welcome!』はいつのゲームマーケットに出したんですか?

梶野2013年の春です。

ーーえええっ! アイデアも無いのに出展するって決心して半年後!?

梶野:丁度仕事を変えるタイミングで時間があって。

ーーこれは遊んだことないんですけど、どんなゲームなんですか?競り?セットコレクション?

梶野:どちらかと言うとバッティングですね。市長になって企業を誘致するというテーマで企業のカードをたくさん集めたら勝ちです。企業は6色あって、山札から3枚ずつめくられていくんです。めくられたカードは色ごとに分けて、それを各々が賭けたカード枚数で割り算した数だけ企業のカードが貰えるという流れですね。割り算なので、例えば赤のカードが沢山めくられても、みんなが赤に賭けているとカードが1枚も貰えなかったり。割り算の答えと余りでゲーム作ってみようかなと思って。これには『ボーナンザ』の裏返しのシステムが使われていて、企業のカードを裏返すと得点になっていて、残りは捨て札に行くので再び出てくると。

ーーデビュー作にしてなかなか独創的ですね。

梶野:そうですね。似たものも見たこと無いかなぁ。

ーー取っ掛かりと言うか、どこからアイデアが生まれたんですか?

梶野10年前だからアイデアの源は覚えてないですけど、この頃は常に考えてはいたので。ただ、印刷コストとアートワークのコストの都合でカードは6種類。その代わり枚数は何枚でもOKというのを自分の中で決めて、その制約からゲームを作っていったんです。株ゲームが好きだったから、みんなで割り振るのが良いんじゃないかなぁと。

ーー割り算が丁度合ってたんですね。

梶野:場にカードが増えていくから、数が多い色は価値が高いのでみんな狙っていくんですよね。でも、みんなが狙っていくから割られちゃって価値が下がっちゃうと。それを株に出来ないかなって思って。

ーー6種類のカードでそこまで表現出来るとは

梶野:今、6種類のカードでゲーム作れって言われたら難しいですね。

ーー『ボーナンザ』を遊んで半年でこれを作ったんですよね。ゲームやりまくってました?

梶野:当時ですか……。うーん、やりまくったかな? 蒲田で「ミスボド」っていうゲーム会があってよく行ってましたから、いろんなゲームやらせてもらいましたよ。

ーー「ミスボド」は私もよく行ってました! 参加者が多いから部屋の数も多くて、規模が大きいゲーム会でしたね。どこかですれ違ってたんでしょうけど。

梶野:当時は100人規模でしたからね。

ーー『Welcome!』は何個作ったんですか?

梶野3個です。

ーーえっ?

梶野:プリンター使って手刷りで、最初は5個作ろうと思って当日の夜中まで作業してたんですけど間に合わなくて3個でしたね()。正確には4個なんですけど、1つは試遊で回さなきゃいけないんで。

ーー試遊がどうのって話じゃなく、スケジュールに無理があるんですよ!

梶野:そりゃそうですよ。その通りその通り! そもそも諦めようと思ってたんですよ。

ーーわざわざブース出して3個だけですか

梶野:でもその3個が、カワサキファクトリーの川崎さんに遊んでもらう機会があったんです。ルールの校正をやっているかゆかゆさんが紹介してくれて。それがTwitterで多少なりともみなさんの目に触れたんですよね。「これイケるな」って思って150個くらい今のバージョンで作って、川崎ボドゲフリマに持って行って80個くらい売って。それで評判になって次のゲームマーケットに持って行くって感じです。だから、めちゃくちゃツイてますよ。

ーーいやいや、最初のゲームマーケットってスケジュールどうなってたんですか?

梶野:スケジュールなんか考えてないですよ。

ーー出るぞと心に決めて、半年後のゲムマに応募をして。ルールも考えなきゃいけないし、デザイン決めなきゃいけないし、テストプレイもしなきゃいけないし、印刷もしなきゃいけないし。やること多いのにある程度の予定は無かったんですか?

梶野:ルールは1週間前までに出来てたんですけどデザインが全くで…。名刺のデザイン本みたいなのを買って、これがいいかなって決めて。写真を加工して自分でやってますからね。

ーーちなみに3個って誰が買ったんですか? 覚えてます?

梶野:さっき言ったかゆかゆさん。あとは『ヴァンパイアレーダー』を作ったかぼへるの金子(裕司)さん。それと「ゲームマーケットに初めて参戦するんです」って人が、今回初出展の人から買うぞって決めてたみたいで僕のところを選んで買ってくれたんです。それはハッキリ覚えてますね。

ーー変な人同士が出会ってますね()。

梶野:そうですよね! 訳分かんない()。

次のゲームを作るのがしんどかった……

ーーで、最初の半年間は物凄い熱量なのに次のゲームまではちょっと時間が空いてますよね?

梶野1年とかですかね。それは『Welcome!』を増産したかったのと、ゲームが思い付かなかったのと、遊びたかったのと。

ーーそれってゲームマーケットに1回出て燃え尽きたのか

梶野:落ち着いちゃったんでしょうねぇ。

ーーそんな印象ですよね。目標のゲムマに出て、『Welcome!』も増産するくらい好評で。満足しちゃったんですかね?

梶野:そうですね、次のゲーム作るのがしんどかったです。ある程度いったから超えなきゃいけないと。

ーーそうですよね、デビュー作でこの出来なら次は…って期待する人も多そうですよね。

梶野:僕もそう思ってたんですよ。勝手に圧を感じてたんですけど、実際はどうだったのかなぁ。う〜んイラストレーターの長谷川登鯉さんが近所に住んでて会ったりして、こういうゲームを作る人がいるとは思ってくれてたみたいですけど、期待はしてなかったかなぁ()。まぁ、遊んでつまんなかった人もいっぱいいるでしょうし、プラスの意見だけ汲み取って次のゲームのやる気に繋げていった感じで。

ーーで、次に作ったのが何ですか?

梶野:『Futures!』です。2014年になります。先物取引の仕組みが面白いなぁと思ってゲームにしようって思ったんですよね。

ーー価格の上がり下がりのシステムが好きなんですね。

梶野:そうですね、相場が変動してそれによってお金を稼ぐゲームが好きなんです。だから株ゲームはまた作りたいですね。

ーー先物取引というなかなか渋いテーマで、内容も心理戦が加わった独特の株ゲームで。このシステムはどういう発想なんですか?

梶野:下がることを予想してお金を手に入れるって他の株ゲームではないと思ったんですよね。価値が高くなるから安いうちに買って、高くなったら売り払うだと普通の株ゲーですよね? そうすると価格が上がった株って誰にも目をつけられないじゃないですか。これがイヤだなと思ったんです。それが下がることを予測して下がった分だけお金が貰えるってなればその株が活きるじゃないですか。そこが面白いなぁと思ったんですね。だから『Futures!』は3商品しかないんですけど、上がり下がりで6種類あるのという見方も出来てお金の稼ぎ方として面白いなぁとシステムから作っていきましたね。

ーー先物取引っていうテーマが先ではないんですね。

梶野:株ゲーム作ろうと思って、いろんな株ゲームを調べて先物取引が面白いと思ってゲームにしようかなと。

ーー反響のほどはいかがでした?

梶野300個作って半分くらいは残ったので、そういう意味ではあんまり……。でも、Table Game in the Worldのゲムマ新作アンケートでは8位に入ったのでそれなりに評価して頂いて。他のゲームよりも『Futures!』のほうが好きって今も言ってくださる方もいますね。でも印刷所と上手く連絡取れなくて箱も薄くてベコベコで申し訳ないゲームだなって、もっとなんとかしてあげられたなって思いますね。

このアイデアは自分でも会心の出来でした

ーー次の作品は?

梶野:『Bidders!』です。『Futures!』の1年半後なので、これは2015年秋のゲームマーケットですね。

ーーテーマもしっかりあって、システムとしても新しいものを作ったなというゲームですよね。

梶野:どの辺がですか?

ーー2つの同時競りゲームは他にもあるかも知れないですけど、片方の価格を下げると片方の価格に影響があって、両方の価格が連動してるってのが面白いなぁと。

梶野:良かった〜、そこですよね。バッチリです()ありがとうございます。これはですね、競りゲーム自体がゲームの基礎になりうるシステムだなぁと思ってまして。それを信じて競りゲー会とかに行ってたんですよ。

ーー競りゲーム限定のゲーム会!

梶野:ホントに競りって面白いのかなと思って、そこでいろいろ遊ばせてもらって。クニツィアさんのゲームやって「やっぱおもしれぇわ!」って。特に『ハイソサエティ』とかキレキレで良いですよね、クニツィアさんでは『メディチ』より『モダンアート』よりも好きです。それでどんな競りがあるか分かったんで、いろいろ組み合わせて競りゲームを作ってみようと。

ーー競りのジャンルに決めうちしたんですね。

梶野:そうです。それで競り上げと競り下げが面白いなぁと。同時競りまではすぐに出来たんです。それで『Bidders!』では競り下げたお金がもう片方に移動するんですけど、そこに至るまでが時間掛かりましたね。このアクションだけで、2つに影響するって分からなくて。思い付いた時は自分でも会心の出来でした。ノートにめちゃくちゃ嬉しく書いてますからね。これは素晴らしいアイデアだと思って。面白さをちゃんと引き出せる仕組みになってると思ったし、競り下げる時に「こいつにお金が行くのか」と思いながら下げたり。

ーールール読む限りは単純なんですけどね、隣にお金が移動するだけなんで。時間掛かったんだろうなぁと。

梶野:ホント時間掛かりました。産みの苦しみがあったゲームですね。こねくり回しましたから。

ーーこれは何個くらい世に出てるんですか?

梶野:最初150個作って完売で。トータルで500個くらいですかね。

ーーこれは好評だったわけですね。

梶野:さっきのTable Game in the Worldのゲムマ新作評価アンケートで2位になって。

ーー個人的にもそれで「ワンモアゲーム!」という名前を知ったんだと思います。

梶野:ゲームやる人の多くがそうなんだと思います。『Bidders!』がボードゲーマーに認知される最初のゲームだったかなと思っています。

ーー今回調べてて知ったんですけど『Bidders!』は海外でリメイクされてるんですね。

梶野:日本の面白いゲームをアメリカで売りたいっていうニンジャスターゲームスという会社がありまして、頼まれてた方が日本のゲームをいくつか送った中に『Bidders!』が含まれてて。面白いという事で声が掛かったんです。それで「テーマとかは苦手なんで変えていいですよ」って話をして。去年キックスターターで目標達成して『REPUTATION』というタイトルでリメイクされました。SFで、宇宙というか他の惑星の話になってますね。

『支離滅裂』に呪われたんですよ

ーーで、次が?

梶野:『SCOUT!』ですね。

ーーやっと来ました。これは2019年ですね。今までとは全く毛色が違うゲームですけど。

梶野:『支離滅裂』っていうカードゲームにめちゃくちゃ感動したんですよ。手札を並び替えられない……あ、また出てきた()。手札からカードをプレイした時に、残った手札がくっついてペアになるというのが凄いと思って。

ーーはいはい。カードを出すことで、離れてたカードがペアになったりという。

梶野:そうそう! そんなルールが2010年代に出てくる事に感動したんですよね。本当に天才的なデザインだなと思って。で、ゲーム作ろうと思った時に『支離滅裂』にとらわれすぎて、もう呪われたんですよ。だから商品にならなくてもいいから一度作ろうと。

ーー『支離滅裂』のパクリみたいなゲームをとりあえず作ろうと。

梶野:そうです。最悪、単なるパクリになったら知り合いに遊んでもらって終わりにしようと思って。そこから脱却しないと次のゲームは作れないと思って。最初は『スクラッチ』というタイトルだったんですけど、相手が出したカードをスクラッチして手札に加えるというのは最初からありました。

ーーボードゲームやる人には「『SCOUT!』は、大富豪と『支離滅裂』が合体したみたいなゲームだよ」って説明してました。だから『支離滅裂』がベースにあるゲームなのは分かるんですけど、逆さまにすると違う数字になるカードじゃなくてもゲームは成立しそうですよね?

梶野:『オーレ』っていうカードゲームを遊んだ時に、110までの逆さにもなる似たカード構成のテストキットを作ってたんですね。何かのゲームのアイデアになるんじゃないかなと思って。これで『支離滅裂』をやってみようと思ったんですね。

ーーじゃあ、スクラッチというアクションの時にどちらの向きで手札に加えるかという2択の悩みはすでに出来上がってたんですね?

梶野:ありましたけど、全然まだ荒かったですよ。地盤は出来てたんですけどね。

ーーそこまでいけば完成は早そうですけどね。

梶野:でも最初のテストプレイはピンと来なかったんです。自分でも「あんまり面白くねぇなぁ〜」と思ってて。でも、その時に倦怠期の大新さんが「これいいよ。全然大丈夫だよ」って何度も言ってくれて。

ーーへぇ〜。ちゃんと面白さを見抜いてくれてたんですね。

ーーちなみに前回の大新さんのインタビューだと、2作目の『バベルの塔』が自信無かったけどテストプレイ会でカワサキファクトリーの川崎さんに褒められて発表する事にしたって言ってましたよ。

梶野:やっぱそういう他人の意見は大事ですねぇ。

ーー完成形の『SCOUT!』とはどんな違いがあったんですか?

梶野:覚えてないなぁ。なんだっけなぁ……。チップも無かったし、ダブルアクションのマーカーも無かったし……と言うか、逆にダブルアクションしかなかったですね。だからダメだったのかも知れないですね。

ーーまだダメだけど『支離滅裂』とは違うし面白いって本質を見てた人がいたんですね。

梶野:そうなりますね。何が良かったのか後で連絡してみますかね()。

ーー今頃になって()。

梶野:だからテスト段階を知ってる人は、最初はそんなでもなかったのに凄くバケたゲームだって言う人もいっぱいいて。

小沢健二がツイッターで『SCOUT!』を紹介

ーーゲームマーケット2019秋でミュージシャンの小沢健二さんが『SCOUT!』をTwitterで取り上げてたのが話題になりましたけど、あれはどういうことなんですか? 話題になってからじゃなく、ゲムマ2日目で購入したってつぶやいてて。

梶野:小沢さんがゲームマーケットに来たは良いけど、どれが面白いか分からないと。それでフォロワーの中にゲーム詳しい人がいると思ってDM送ったらしいんです。それが双子のライオン堂の田中さんという方で、「オザケンからDM来た!どうしよう」みたいな。

ーーフォローしてるだけなのに本人からボードゲームの質問が届いたんですか()。オザケンって人も面白い人ですねぇ。

梶野:それで双子のライオン堂は倦怠期の『アメリカンブックショップ』とかを出版してるので大新さんに質問して、それで大新さんが『SCOUT!』を挙げてくれたみたいで。

ーーおぉぉ!! こんなところで繋がるんですか! テストプレイの時に唯一評価してた人ですからね。まさかねぇ。あれ以上のプロモーションないですよ〜。

梶野:あんなプロモーションないですよね。

ーーそもそもなんで小沢健二さんはゲムマなんかに来てたんですかね?

梶野:結構ボードゲームやられる人みたいですよ。

ーー知らなかったー。

プレイヤーの嫌がることは省けるなら省く

ーーこれだけ評価されてるゲームだから言っちゃいますけど、『SCOUT!』を初めて遊んだ時は「チップとかでごまかしてるんじゃないか?」って思ったんですよ。美しいルールなんだけど面白い風に仕上げているだけなのかな?って。

梶野:ふむふむ、なるほど。プレイヤーが沢山のカードを出す意味を付けるために、取られたら1点のチップをあげることにしたんです。そうしないと5枚とか出しても得がないから、みんなチマチマ出してカウンター待ちで強い手を作るしかなかったんで。

ーーあと、他人にカードをスカウトされたのに1点貰えるの?って疑問もあるんですよ。スカウトした人はカードを得るんだから、その人が1点を支払うならスッキリするんですけど。

梶野:そこはスカウトに制限を加えたくなかったんですよ。1点払うくらいなら普通にプレイしちゃうってなるので。プレイヤーが嫌がらないバランスにしたかったんです。

ーーあれが誰も損してないんですよね。なんじゃこれ!と思って。

梶野:『ボーナンザ』もお互いが得するウィンウィンのゲームじゃないですか。ルーズがあるとプレイヤーってイヤがるんですよね。それを省けるなら省いた方が良いって考えを持ってるので。もちろんゲームの種類によっては、誰かが得して誰かが損する競りゲームとかありますけど『SCOUT!』はそういうゲームとは違うので。

ーースカウトされた人は1点、スカウトした人はカード増えて、場はカードが1枚減ってるから出しやすくなって。みんなハッピー。

梶野:不思議ですよね〜。ホントはね、チップ無しでカードだけのほうがいいんでしょうけども。チップ1点とか忘れやすいし。でもそれをすることによって、全員がウィンなのは補って余りあると思ってます。カード取られたら「まいどありっ!」って言いながらチップ取るアクションはやらせたいんです。

ーールールに書いてないけど、スカウトされるとなんか「ありがとうございます」とか言っちゃいますもんね。それにしても中央から1点取れるって大胆ですよね。

梶野:でも中央から得点を得るってその頃の流行りかもしれないです。選択肢として何かを支払うならそのアクションを選ばないってのを無くしてるんですね。プレイヤーがイヤがらないようにしてると言うか。そこはすぐ思い付いたんで、よくあったシステムなんだと思います。

ーーで、梶野さんの作ったゲームを振り返ると『SCOUT!』は珍しくノンテーマですね。何故ですか?

梶野:そもそも僕はテーマ後付けなんです。『Welcome!』は株ゲーム作りたいと思ったのが先だし、『Futures!』は先物取引をゲームにしようとしてて。『Bidders!』は、2つの板挟みで国庫のお金を減らさないように、というシステムとテーマは同時に作ってた感じですかね。この頃にテーマが大切だと思うようになってたんですね。

ーーいやいや、大切と思ってるのに『Bidders!』の次に作ったのがテーマ無いですよ(笑)。

梶野:『SCOUT!』はテーマ要らないんですよ。システムで勝負出来るゲームだから。

大賞獲れなくてしっかり悔しかった

ーー今後についててすが、今は新しいゲーム作ってるんですか?

梶野:『SCOUT!』を売る事に専念してたんでね。広めるとか。思った以上に大変で作ってる暇はなかったです。卸先を探したり、在庫を置く倉庫を探したり、物流会社と連絡取ったりとか。何から何まで全部1人でやらなきゃいけないので。

ーーゲームデザイナーからゲームの営業マンになったんですね。

梶野:ホントそう! 全部1人ですから……

ーー会社員として働いてるんだから、仕事終わりとか休みの日に本業の合間にやってるんですもんね。しかも同僚は正体知らないし。

梶野:そうですそうです、大変でした。

ーー物理的に時間は無いとしても、ゲーム作りたいという欲はあったんですか?

梶野:無かったんですよ。自分の最高傑作が出来たって信じて疑わなかったですから。これSDJいくと思ってたんですよ。

ーー個人的にも『SCOUT!』を入手してからは、日本を代表するカードゲームだと言って周りに紹介しまくってましたよ。

梶野:だから、これ以上のゲームは出来ないんじゃないかって思って。そしたら実際にSDJにノミネートされて。でも、結果的に大賞は獲れなかったじゃないですか。めちゃくちゃ悔しくて。それを晴らすべく作ってますよ。

ーーそれってこの数週間の話でしょ。急にですか?

梶野:表彰式でドイツ行く前に、SDJにノミネートするくらいのゲームを1個作れたんだから、さらにチャレンジするべきだと思って。

ーーノミネートで燃えてきたんですか?

梶野:そうですね。ノミネートされて、大賞獲れるかなぁという不安とここまでやれたんだからまだ作れるだろう、もう1個作れるんじゃないかって。それで大賞獲れなくて、より燃えてます。

ーーSDJにこだわり過ぎると、プレッシャーで自分を追い込みそうですけど……。

梶野:もうSDJいけなくてもいいんです。一度はそこまでいったんだと自分を信じてみよう、と。多分ね『SCOUT』は僕の人生で唯一SDJにいけたゲームなんじゃないかと思ってます。過去の作品を超えるために、トライする。多分無理だろうけど、やる……チャレンジすべきだなって。

ーーまだ作ると。このインタビューで「どんなときにゲームのルール思いつくんですか?」って訊くと、みんな常に考えているからって答えるんですよ。でも梶野さんの場合、常に考えてなさそうなんですよ()。

梶野:酷い言い方だな()。でも、そうですねそうですね。作り始めるとずっと考えてるんですけど、作り始めるまでが長いんですね。

ーーそれを言いたかったんです。だって『SCOUT!』を売りながらも生粋のゲームデザイナーであればついついルールを考えてしまう、知らず知らずテーマやシステムのことを考えてるのかなぁと。

梶野:そういう意味では生粋のゲームデザイナーではないんですよ。『SCOUT!』はそんな中から産まれた金の卵です。『Bidders!』や『Futures!』を認めてくれた人もいるし、その人達を足蹴にする訳じゃないですが『SCOUT!』は段違いにメジャーになるゲームだと思ったし、これ以上のゲームを作ることは出来ないだろうって最近まで思ってたので。でも、大賞獲れなくてしっかり悔しかったので。僕は思い付いちゃう天才型じゃないんでしょうね。作ろうと思って考え出して、そこでのチョイスが僕のデザインなんでしょうね。

ーー競りゲーム作ろうと思って『Bidders!』完成させて、『支離滅裂』みたいなのを作ろうと思って『SCOUT!』を生み出して。何かのきっかけでアレンジしたり考えるのが上手いんでしょうね。

梶野:そうだと思います。キレのあるアイデアに出会えたら良いんですけどね。別のゲームに変換したりとか、何かと何かを繋ぐアイデアが好きで。2つのアイデアを繋ぐシャープな線を引けた時が良いアイデアだと思います。『Bidders!』の2つの競りのお金が動く仕組みとか、『SCOUT!』の場のカードが1枚減って弱体化するとかが僕の持ち味なんじゃないかなと。

ーー創作活動って0から1を生み出す人って凄く評価されるけど、110に膨らませるのが上手い人ってあんまり評価されない気がして。梶野さんって110にするのが凄く上手い人なのかなと感じました。

梶野:そうだといいですけど。0から1はなかなか出来ないですよ。それは天才です。

来年のSDJ審査員が『SCOUT』を絶賛

ーー最後にSDJの授賞式の話を聞かせて下さい。Twitterでは現地の様子を発信してましたよね。

梶野:今、日本でゲーム作ってる人たちに知って欲しかったんですよ。

ーーこれ訊いていいのかな。旅費ってSDJが出すんですか?

梶野:これはハッキリ書いといてください。夫婦共々、オインクさん持ちです!

ーーええっ! オインクゲームズの佐々木(隼)さんは何を考えてるんですか!

梶野:出さなくて良いんですかとは訊いたんですけど「いい、これはお祭りだから」って。

ーーお祭り無料なんてルールは無いですよね?凄いなぁ。梶野さんのTwitterを拝見すると、授賞式の前日に前夜祭があったそうで。

梶野:ミュージックホテルって言ってピアノがあったり、ビートルズのポスター貼ってあったりお洒落なホテルで。そこのロビーとは別にイベントスペースがありまして、そこに審査員とノミネートされた人と会社の人とかが集まってお話ししたりとか。そこで飲んだり食べたりするんですけど、僕と佐々木さんは『カスカディア』の作者に直撃して「正々堂々戦いましょう」って言って、向こうも「負けないよ」とか、「ルールとテーマどっちが先に作ったの?」とかの話をして。『トップテン』の作者とも、初めて作ったボードゲームらしくて「最初のゲームでノミネートは凄いね。プレッシャー無い?」「それは君もでしょ」「me too! me too!」なんて話もして。

ーー毎年やってたのかな? 堅苦しい雰囲気じゃなく、交流してくださいって感じの飲み会ですかね。

梶野:そうですね。あれがあったおかげで、相手の顔が見えてるのでSDJが獲れなかったときにリスペクト出来たんです。だから前夜祭は凄く良いなぁと。

ーーそっか。当日いきなり初対面だと気持ちは違ってくるかも知れないですね。

梶野:ここまで来るの大変だったんだろうし、大賞獲りたいって思ってるんだろうし、皆同じなんだなって。あとは前夜祭では審査員とも審査員長とも話をして。大賞の投票は当日なので、前夜祭の段階では大賞が何なのか誰も分からないんですよ。

ーーええっー! 数日前に投票してるんじゃないのか〜。自分が審査員ならそんな飲み会行きたくないけど()。

梶野:そうですよね()。人柄とか知っちゃったら。

ーー審査員って何人いるんですか?

梶野:審査員が10人と審査員長で11人。年によって変わるそうです。前夜祭には来年審査員をやる人が来てましたね。しかもその人が「『SCOUT』は物凄い良いゲームだ。日本も好きなんだよ」って。

ーーなんでその人は今年じゃないんだよー()

梶野:ハハハハ、今からねじ込めーって思いましたけど。

ーードイツ行く前に、ノミネートされた『カスカディア』と『トップテン』は遊びました?

梶野:『カスカディア』はやりました。あの……あまり好きではなくて……。これに負けるのかとは思っちゃいましたね。ま、冷静な判断はまだ出来てないかも知れませんが。だから僕はもう1回『カスカディア』を遊ぶべきなんですよ。

ーー『カスカディア』は面白いゲームですけどね。個人的にはSDJって初心者を取り込みたいのかパーティーゲームが多過ぎません?って疑念があるんで、個人的な感想としてはここ数年は「え?」と思ってますよ。

梶野:『SCOUT』はコロナの影響もあって発売が1年遅れたんですよ。もし去年だったらノミネートされてたかどうかも分からないですし。

ーー1年前の大賞は『ミクロマクロ:クライムシティ』(ノミネートは『ロビンフットの冒険』『ゾンビティーンズ:進化の鼓動』で、ストーリー形式など1回しか遊べないゲームが評価された年)ですかね。

梶野:今年だからノミネートされてたのかなって。そういう意味では運が良いし『トップテン』も『SCOUT』もどれが大賞獲ってもおかしくなかったと思いますよ。だから実力で負けたって思ってないんです。

ーー前夜祭は無事に終わって、翌日授賞式ですか。

梶野:前夜祭でオインクの社員さんがスマホを失くすという事件がありましたけど()

ーーそれはどうでもいいですけど。前夜は眠れました?

梶野:朝4時に起きました。眠れるわけないか〜と。授賞式は午後6時なのに長い一日でしたね。

ーー夕方まで何してたんですか?

梶野:リハーサルがあって。その後に授賞式をするホテルにチェックインしなきゃいけなくて。佐々木さんが結構良い部屋取ってくれたんですけど、そんなのゆっくり見る気にもなれなくて。妻ははしゃいでましたけどね。

ーー奥さんは凄いメンタルの持ち主ですね。授賞式はどこでやってたんですか?ロビーとかですか?

梶野:ロビーとは別にホテルの12階ぶち抜きのイベントホールがあって、結婚式とかがやれるようなデカい所で。あとはネットの中継用のちゃんとした立派なTVカメラが設置してあって、ディレクターとかADもいて。中継のリハーサルでマイクを手渡される時に「ヨロシクオネガイシマス」って日本語で言われてビックリしましたね。毎年その国の言葉で言うようにしてるんでしょうね。

ーーへぇ〜。毎年SDJは写真や動画がアップされてるんですけど、そんなに規模が大きくなさそうなんですよね。どれくらい人がいるのか会場が広いのかも分からないし。

梶野:そうなんですよ、わからないですよね。去年はコロナで縮小とかだったのかは知らないですけど、今年はちゃんと立派な感じでしたよ。取材の人も多くて、プレスの人に写真撮られたりTVカメラで撮られたり。

ーードイツではニュースになるイベントなんですね。

梶野:みたいですね、地方紙も来てましたしね。あとは凄い立派なマイクを持ったポッドキャスターが来てましたね。

ーーポッドキャスターって肩書きを聞いたことないですけどね。日本だと「ほらボド!」のmomiさんが取材に来たみたいな感じですかね。

梶野:そうそう! そんなイメージで(笑)。ドイツ語を英語に訳して、英語を日本語に訳してもらって。それで喋りましたね。

ーー授賞式で『カスカディア』が大賞に選ばれて以降のことって覚えてます?

梶野:覚えてます覚えてます、だって妻が泣き出しちゃったんだもん、覚えてますよ。僕より先に泣かれちゃったらねぇ。

ーー昼間はホテルで、はしゃいでたのに……

梶野:そうそう。なんて浮き沈みが激しいんだって。僕が泣きたいのに。でも当日はプレスの対応とかあいさつをしたりとか写真撮ったりとか、やらなきゃいけないことがあったので、翌日と翌々日の方がメンタル的にきましたね……。負けたんだって……。でもその日は部屋に戻ってからオインクさんが「『SCOUT』やりましょう」って言ってくれて。楽しかったなぁ〜…。あれはオインクさんの優しさですよ。

ーーへぇ〜、授賞式の夜にみんなで『SCOUT』やったんですかぁ〜。なんか良い話だな…。

梶野:ちなみに、2回やって2回とも僕が負けました。

ーーなんでだよ! オインクの人たち手を抜かないんだ()。


2時間以上のインタビューとなりましたが、梶野さんが自分のことを運が良いと何度も言ってたのが印象的でした。ボードゲームにハマったのも、同人活動が実現したのも、奥さんが創作活動に協力的な人物だったのも、SNSでゲームが取り上げられたのも確かに運が良いという見方は出来ますね。

その積み重ねがすべてSDJノミネートに繋がっているようにも思えるし。誰しも「もしあのとき……」という別の展開や違う人生を思い描くことはあるでしょうけど、そんなのは妄想の中の話。だからこそ「もしSDJを獲っていたら」ではなく、獲らなかったからこそ作られる次回作を気長に待ちたいと思います。今回のSDJが、この先の傑作のためのノミネート止まりだとしたら本当に運が良い人じゃない?

SDJの最終ノミネートとして3作品に残ることが、そもそも快挙。大賞を逃したから慰めを言うわけでは無く、マジで2022年の日本のビッグニュースの1つです。

改めて『SCOUT』のSDJノミネートおめでとうございます!