【インタビュー】コアなゲーマーの琴線を刺激し続けるテンデイズゲームズ。店長の田中誠氏に、海外ボードゲームのあれこれを聞いてみた!

海外ボードゲームの輸入販売や日本語版へのローカライズを行っている、東京都三鷹市のボードゲームショップ、テンデイズゲームズ。店長の田中誠氏は、あまたのゲームをプレイしてきたコアなゲーマーとして知られる。今回は、独自の視点でドイツのみならず、さまざまな国のゲームを日本に紹介してきた田中氏に話を聞いてきた。

(取材地:東京都三鷹市・テンデイズゲームズ店舗)

人生の岐路に立ったときショップ開店を決断

──田中さんとボードゲームの出会いはどのようなものでしたか。

田中氏:私が子供の1980年代から90年代にかけては、パーティージョイなどのボードゲームがおもちゃの1カテゴリーとして普通のおもちゃ屋さんで売っていて、シミュレーションゲーム(ウォーゲーム)のブームの影響もまだ残っている時代でした。

当時の自分はデジタルのゲームもよく遊んでいて、パソコンゲームの雑誌などを読むとアナログのゲーム、特にTRPGなどが紹介されていたんです。田舎のホビーショップでもツクダホビーやバンダイのシミュレーションゲーム、それとTRPGなどは売っていたので、そこで買って遊んでいると、ちょうどその頃が海外のボードゲームが日本に入って盛り上がってくる時期で、触れるうちに興味が深くなっていった……という感じです。

その後、『カタン』(コスモス/ジーピー他)の日本語版が出たり、『スコットランドヤード』(ラベンスバーガー/ブリオジャパン他)がいろいろなところで販売されているのを見かけたりで、常に身近なところにボードゲームがあったとは思うのですが、当時の私はまだハマるというところまでは行っていませんでした。

──深くボードゲームにハマった時期はいつごろでしたか。

田中氏:ネットが普及してきて、実際に自分の家に入ってきた1998年から1999年ぐらいのことですが、そこで情報が入ってくるようになり、ボードゲームを買う手段も一気に増えて、環境が整ってきたんです。

ボードゲームは、当時の地元(新潟県十日町市)でバスケットボール仲間と練習のない日に5人で遊ぶのにちょうどよかった。ボードゲームを遊ぶ環境が充実していたところにボードゲーム自体が手に入りやすくなったので、それでどっぷりハマるようになったっていう感じですね。

──当時はどのようなゲームをプレイされていたのでしょうか。

田中氏:『カタン』ですとか、『アクワイア』(アヴァロンヒル・ハズブロ/ホビージャパン他)などはよくやりました。いわゆるドイツゲームでは、『レーベンヘルツ』(コスモス/メビウスゲームズ)など。『プエルトリコ』(ラベンスバーガー他/メビウスゲームズ・Engames)は発売された当初、一大ブームになっていたのでかなりやりましたね。あとはその時々の年間ゲーム大賞の作品を中心に買っていました。1990年代から2000年代前半ぐらいの話です。

──そんな新潟で生まれ育った田中さんが、どのような流れでボードゲームの販売をするようになったのでしょうか。

田中氏:自分は音楽活動をしていて、その仲間に誘われる形で2004年に上京しました。ただ、音楽で食べていくなんて考えていたわけではありません。一方でボードゲームはずっと好きでしたから、上京してからは自分から面識のない人にもどんどんコンタクトを取り、ゲーム仲間を増やしていったんです。さらに、当時盛り上がっていたSNSのMixiで知り合った若い子と休みの日が合ったということもあって、水曜日に秋葉原のイエローサブマリンでゲーム会を始めました。

このとき、自分で買ったゲームを遊んだり、勧めていたりしたらいろいろな人に喜んでもらえたんですね。当時はもう自分で個人輸入を始めていて、送料を浮かせるためにまとめ買いをしていたのですが、海外から購入したゲームを興味のある人に譲ったりもして、これもすごく喜んでもらえた。それで、このようなことを仕事にできたらいいな、と思うようになったんです。

そんななか、勤め先の量販店から転勤を打診され、さらに個人的なことで結婚を考えるという、人生の岐路にたつような出来事が立て続けに起こりました。結婚して、仕事も転勤となったらゲームをする環境がまた大きく変わってしまいます。それなら、もうここでゲームを仕事にするしかない。妻に挑戦させてくれといって頭を下げ、2009年4月にネットショップを始めました。

――まずはネットショップから事業を開始したのですね。

田中氏:妻からは条件として3カ月間の成果を数字で提示されて、これはギリギリ達成できなかったのですが、頑張りは認めてもらえて続けることができました。それから新居探しで三鷹の不動産屋さんに行っているとき、何気なく物販の商売を考えているという話をしたら、実際に物件をいくつか見ることになったんです。今のこの店舗を紹介されたときにピンとくるものがあって、強い縁を感じた。

そこでちょっと思い切って、2010年8月に店舗のほうも始めました。本来なら始める前にいろいろと細かい計算をするものだと思うのですが、そのようなことよりもまずここでお店を出してみよう、という気持ちが先に立った感じでした。

パブリッシャーとしてドイツ以外の国のゲームに着目

──テンデイズゲームズ様が、パブリッシャーとして海外ボードゲームの和訳付き輸入版や日本語ローカライズ作品の販売をはじめた経緯をお話しください。

田中氏:自分がお店を始めた当時は、日本で知られていないゲームのなかに「これは紹介しなければ!」と思うものがたくさんありました。自分だけでなく、たくさんのゲームファンの皆さんがもっといろいろなゲームを知りたい、遊びたい、と考えているところに、日本に入ってきていないメーカーのものがまだまだあったんです。

その頃、ドイツの周辺諸国(フランスやポーランドなど)のゲーム出版社が活発になってきたんですよ。それまで輸入されるゲームは、ほとんどがドイツの出版社のものだったのですが、それ以外の国にも面白いゲームがたくさんありますから、それを紹介してみたいという気持ちが強くなりました。タイミングも良かったですね。

──英語圏以外の海外メーカーとは、どのように交渉をしたのでしょうか。日本語の解説書を付ける際も、ご苦労されたのではないかと思うのですが。

田中氏:英語でやりとりをしていれば、それほど困ったことにはならなかったです。自分は海外の取引先にコネクションがあるわけではなかったですから、いろいろ探して、大手の問屋だけでなく、小さくて問屋もショップも兼ねているようなところを見つけて連絡してみて、というところからやっていました。

個人輸入の延長に近い形でしたが、現在は購入数が多くなっているぐらいで、今も感覚としてはあまり変わっていないです。ただショップの販売価格で買っても商売になりませんから、そこは頑張って、卸をしているお店や問屋を見つけるようにはしていました。

ローカライズについては、いまはいろいろな方にお願いできるようになりましたが、始めた当時は自分と妻のふたりで翻訳することが多かったです。

──最初に日本語ローカライズ版を発売した作品は?

田中氏:『K2』(リベル/テンデイズゲームズ)です。もともと非常に好きなゲームだったこともありますが、先ほどお話ししたように、当時ドイツ以外の国に注目していたところでポーランドのゲームが盛り上がってきていて、そのタイミングで『K2』が出た。これがドイツ年間ゲーム大賞にノミネートされ、世界的なスマッシュヒットとなって熱量を感じるところがありましたし、先方からの打診もいただいて、それならうちも勝負をかけてみようと。

『K2』はポーランドのメーカーのゲームですが、“ドイツゲームらしさ”みたいなものが詰まっていると思います。難しくはあっても家族同士でも遊べるレベルですし、あとはやはりテーマの再現性。私はこれがドイツゲームの魅力の一つだと思っているのですが、その部分はよくできたタイトルですから、うちがローカライズするということについては自分としては自然なことで、迷いはなかったですね。むしろ、いまこれをやらなくてどうするんだ、ぐらいの気持ちでした。

▲その登山はクライマーにとって最難関といわれるパキスタン最高峰への挑戦を扱った『K2』。腕自慢のゲーマーたちをうならせた高難度タイトルがテンデイズゲームズ最初のローカライズ作品となった

──先ほど翻訳などをご自身でされていたとおっしゃっていましたが、『K2』でもローカライズの作業をされたのでしょうか。

田中氏:今はきちんとできる外部の方にお願いしていますが、当時はDTPができるデザイナーさんを知りませんでしたから、私がやるしかなかった。向こうのメーカーが指定してきたDTPソフトがCorelDRAW(コーレルドロー)というものだったのでこれを買ってはみたものの、操作が分からないし、使い方をまとめたサイトも見つかりませんでした。

──出版やデザインの業界でDTPソフトというとAdobe社のInDesign(インデザイン)を使うことが多いですし、CorelDRAWはそれほど名前を聞くソフトではありませんね。

田中氏:仕方ないのでアメリカのAmazonで英語のガイドブックを取り寄せてイチから勉強して、苦労しながらなんとかやった感じです。もうあのときのガッツはないかもしれないですね。後にも先にも、CorelDRAWを使ったのはそれっきりでしたけど(笑)。

──『K2』は自分がやらなくてどうする、ぐらいの勢いだったとのことですが、テンデイズゲームズ様がゲームをローカライズする際の選別の基準はどのようなものでしょうか。例えば、9月以降発売予定の『ドーフロマンティック ボードゲーム』(ペガサス・シュピール)はテンデイズゲームズでのローカライズが決まったあとでドイツ年間ゲーム大賞を受賞しました。田中さんのゲーマーとしての目利きが活かされたケースかと思いますが、ノミネートされた作品がいくつもあるなかで、なぜこの作品を選ばれたのですか。

田中氏:純粋に自分のアンテナに引っかかったもの、自分が面白そうだと思ったもの、自分が日本の方に遊んでほしいなと思ったものですとか、「これはちょっと新しいぞ」「見どころがあるぞ」と感じたものを判断して選んでいます。『ドーフロマンティック ボードゲーム』の場合は、今回たまたまそれが当たったという感じですね。

まだ見ぬ良作を見つけ、情報共有することに楽しさを感じる

──田中さんの目利きの力に関しては、ユーザーであるゲーマーからの信頼が厚いと思います。ご自身がゲームをたくさんプレイされていて、膨大な知識があり、理解が深い。テンデイズゲームズさんのサイトのゲーム紹介のテキストを読んでも、その内容の濃さと厚さを感じます。

田中氏:サイトのゲーム紹介については、かつて出版社がイコールで情報発信者だったという時代があって、自分自身もそのようなものに触れてファンとして楽しい気持ちがありましたから、ぜひやりたいと思っていたことでした。いまは全部はやっていませんが、当時は他社のタイトルも含めて書いていましたし、メーカーさんからもらった広告のテキストは使わず、できるだけ自分で感じたことでメリット・デメリットの両方をあげていました。そこはこだわっていましたね。

──ゲーマーが好きなゲームに対する嗅覚の鋭さがすごくて、例えば『テラミスティカ』『オーディンの祝祭』(いずれもフォイアーラント)といったタイトルはゲーマーから「好きなボードゲーム」として名前が挙がっているのをSNSなどで何度も見かけているのですが、どちらも国内ではテンデイズゲームズさんの取り扱いでした。

田中氏:そのあたりは運もあります。自分は純粋に好きだと思ったものを選んで入れているだけで、それ以上ではないし、それ以下でもない。作品自体の持っている魅力が何よりも重要だと思いますね。

『テラミスティカ』については、うちが世界で初めて問い合わせを送ったメーカーらしいんです。フォイアーラントは当時まだ新興の小さなメーカーだったのですが、『テラミスティカ』のルールを見た瞬間に「これはすごいゲームだ」と思ってすぐに連絡しました。向こうも、こんなに早く海外から反響があるとは思っていなかったと言っていました。こういったことも運だとは思うのですが、それでユーザーからの反響があったりすると、やはり手応えを感じますよね。

最近は「これ、いいな」と思って手を挙げてもよそで話しが進んでいたりすることも多くなりました。私は話題になってからやるということにはあまり興味がなくて、できれば次に来るものを皆さんと体験して一緒に興奮したい、というところがあるので、ビジネスだから仕方ないとしてある程度割り切ったとしても、個人としては割り切れない部分があります。それなら次の『テラミスティカ』になるようなゲームを探したい、という方向に気持ちが向きますし、やはりそれが楽しいじゃないですか。

▲田中氏の“目利き”の力が最大限に発揮された『テラミスティカ』。全世界のメーカーに先駆けてテンデイズゲームズがコンタクトを取ったという

──新しいものを見つけていくということですね。

田中氏:そうです。例えば、シモーネ・ルチアーニというイタリアのデザイナーがいて、いまは認知される存在になっていますよね。ですが、イタリア人デザイナーの作品として『レオナルド・ダヴィンチ』(アバッカスシュピール他)が出たときに、「イタリアのゲームが面白い」と言ったりしていたものの、なかなか注目されなかったんです。私自身もイタリアのゲームを推すようになって、その後にルチアーニやダニエレ・タッシーニの人気が出てきたときはうれしかったし、楽しかったですよ。

出版社としてはすでに人気になっているタイトルに手を挙げていくのがいいかもしれませんが、まだ見ぬ良作、まだ知られていないデザイナーを皆さんと一緒に見つけて、情報を発信したり共有したりしていく、ということのほうが楽しいという気がしますね。

▲ゲームマーケット2023春の特設ステージでは、シモーネ・ルチアーニ氏のトークショーが開催された。田中氏(写真左から二人目)も『暮しとボードゲーム』の河上氏と共に登壇し、コアなゲーマーならではの質問をルチア―ニ氏にぶつけた

積極的に情報を発信し、ゲーム発売時にユーザーがじゅうぶんに購入を検討できるようアシストしたい

──田中さんがお店をはじめてからの、日本のボードゲーム事情の変遷について、大きな変化を感じたことがあればお願いします。

田中氏:やはりファン層の拡大が一番大きなことですよね。

──どこかのタイミングで流れが大きく変わった、ということはありますか。

田中氏:それによってゲームの見方が変わってファンも増えたという話なら、いろいろなことがあります。日本なら、震災の影響で電源を使わないボードゲームが注目されたり、感染症の影響で家で過ごす時間が長くなったためにボードゲームがプレイされて人と人の繋がりが再確認された、みたいな話はできるんですけど、私自身はそこに理由付けみたいなものはしていなくて、こういったことがちょっとずつ重なってファン層が拡大していったと思っているんです。年々遊ぶ人が増えていって、どこかで停滞することもなく、ずっと増えている印象です。

ただ、近年は出版している側としてもやや飽和状態な面がありますし、ファンの方にも疲弊感が見えていると思うんです。数字上では明確に停滞が見えてきたわけではありませんが、業界の人間としては今のうちから危機感を持たなければいけない気がしますけどね。本当に毎月たくさんタイトルが出ていて、「まだこれ遊んでないけど、また新しいゲームが届いたぞ」みたいな感じになっていますから。

私としては、選択できる環境は非常に大事だと思いますが、今現在、実際に皆さんが本当の意味で選択をしてるかっていうと、少し違う気がしています。「新作が出て売り切れそうだからとりあえず買っておこう」ではなく、一回遊ばせてもらったり、ネットで情報を色々吟味して、というように遊んでもらいたいですね。

──ユーザーのなかには、テンデイズゲームズさんのゲームなら外さないと考える人もいると思います。

田中氏:100%誰にでも合致するゲームはないと思います。それでも、うちのゲームを買っておけば間違いないのでは、と言ってくださるファンの方も多いですし、そのような声に応えられるようなラインナップを出しているつもりです。ただ、それがユーザー自身が考えて選択するということに繋がっていないのであれば、こちら側が襟をたださないといけないことかという気がしますね。

──先ほどの話のように「売り切れるから買っておこう」ということは実際ありますし、メーカー側もボードゲームは簡単には再販できないため、仕方ない部分があるかと思います。

田中氏:買い物体験としてはあまり良くないですよね。行き過ぎると、プラモデルや一部のTCGのように高額転売がはびこってしまいますし。それは嫌ですから、できる限り発売時にすぐ検討できるようなヒントをこちらから出して、売り切れる前にじゅうぶん吟味したうえで購入できるよう、情報をシェアしていきたいと思っています。

──テンデイズゲームズでYoutubeのチャンネルもやられていますし、田中さんご自身も『暮しとボードゲーム』のポッドキャスト『夜な夜なBGA』をはじめとするメディアへの出演、ムック『本当に面白いボードゲームの世界』などへの執筆など、積極的に情報発信をされているのもそのためですね。

田中氏:そうですね。

テンデイズゲームズ(Youtube):https://www.youtube.com/@tendaysgames
暮しとボードゲーム(X):https://twitter.com/krstbg

仲間と共有する“ゲーム体験”を大事にしてほしい

──現在のトレンドなどから推測し、今後の世界および日本のボードゲーム界はどのような動きになるか、予想していらっしゃることはありますか。

田中氏:予測というのはなかなか難しいのですが、希望として常に言っていることとしては、ユーロゲームの復権。かつての“ザ・ドイツゲーム”というようなゲームの人気が戻ってほしいですし、ゲーム情報をチェックする時はそのような流れがどこかにないかな、と思いながら見ています。

現在流行している本格的なストラテジーゲームは、どんどんボリュームが増して、肥大化しています。確かにそのほうが遊び応えがありますし、私も好きではあるんですけど、その一方でちょっと寂しさを感じることがあります。60分前後で年齢関係なく、みんながそれなりに熱く盛り上がれるような昔のゲームを懐かしく思うんです。それほど長いプレイ時間でなくとも、勝ったときにしっかり達成感、満足感が得られるような、そんな体験ができる当時のドイツゲームのようなものが、どこかでもう一回勢いを取り戻してほしいという希望があるので、そこは常に注目していますね。

8月19日に弊社から発売した『テラノヴァ』(コスモス)は『テラミスティカ』のルールを少しスマートにしたものなのですが、このようなゲームが出てくるというのは、私としてはいい流れなのかと思います。ドイツ年間ゲーム大賞の『ドーフロマンティック ボードゲーム』にしても、かなり緩めのゲームです。協力型なので、いわゆる“奉行問題”(あれこれ指示するプレイヤーが出てくる)が発生するのですが、このゲームはシステム的にそれを解決しようとはしていません。勝ち負けや成功失敗があると奉行問題がクローズアップされがちなので、ゲーム自体を緩くすることでシビアに結果を問う形にはしていないのです。

最近のトレンドには逆行していると思いますが、私としては好みの流れで、コスモスのような大手が『テラノヴァ』のようなゲームを出すというのは、また私の好きな頃のドイツゲームが遊べるようになるのかな、という期待もしています。

──田中さんの推しのゲームをいくつか挙げていただけますでしょうか。

田中氏:私がファンの方にお勧めする際は購入できるゲームを優先しますので、いま売っているもののなかから挙げますと、最近では『ティチュー』(ファタモルガナシュピーレ/ジーピー)を再評価しています。2対2で組んでペアで大富豪をやるようなカードゲームなのですが、これがとてもよくできているんです。カードの出し方の自由度が高く、手札のマネージメントも大事ですが場の流れを読むことも重要だし、カウンティング的な要素も大きい。やればやるほどいろんな表情が見えてきます。BGA(ボードゲームアリーナ)にもありますし、Steam版、アプリ版もあるので、興味がある方はぜひ遊んでみてほしいです。

▲ティチュー(JELLY JELLY STORE通販ページより)

少し重ためのゲームでいうと『ブルゴーニュ』(ラベンスバーガー他/メビウスゲームズ)。最近豪華版のクラウドファンディングがあって私も購入したので、久しぶりにやったら、やはり非常に面白いゲームでしたね。

あと、国内デザイナーの最近の作品ですと『ナナトリドリ』(アークライト)が良いと思いました。大富豪に近い、いわゆるゴーアウト系ですが、あれだけシンプルなシステムで流れを読むことの大事さ、押し引きがうまく表現されています。難しい話を抜きにしても、軽く遊べるカードゲームとして良かったです。

──最後に、テンデイズゲームズ様のゲームをプレイしているアナログゲーマーの皆さんに向けてひとことお願いいたします。

田中氏:まずはゲームなんだから、みんなで楽しく遊びましょうということですね。それともうひとつ、最近話しているのは、ゲームを通じて何を体験したかが非常に大事だということです。ゲームというと、どうしても面白いか面白くないか、勝ったか負けたか、といったことで語られることが多いですよね。

でも、私はその「面白いか面白くないか」「勝ったか負けたか」ということを、そこでゲームを遊んだみんなが共有できたという“ゲーム体験”の方が価値があると思っているんです。もちろん面白いにこしたことはないのですが、たとえつまらなくても、その事実をそこにいた仲間で共有できたことが貴重な体験になります。

よくできたゲームだ。いやここがダメだ……なんて話をするのも面白いですし、つまるところ、誰かとおしゃべりしたり、あれこれ話し合うのも、そこでみんなで一緒に遊んだからこそ得られることです。ゲームを遊ぶということだけではなく、そこから一歩踏み込んでそこから得られる“ゲーム体験”を良いものにするよう、皆さんで楽しんでいただけたらうれしいですね。


いかがだっただろうか。パブリッシャーも兼ねたショップの店長という商業的な立場にありながらも、いまだコアなゲーマーとしての視点を持ち続ける田中氏。今後もその目利きの力を発揮し、ユーザーの琴線を刺激するゲームを日本に持ってきてくれるはずだ。テンデイズゲームズが紹介するゲームに注目していこう。

テンデイズゲームズ:https://tendaysgames.shop/
タナカ マコト(X):https://twitter.com/tanakama