【作者直撃】『ラブレター』は“たまたまできた運の産物”!? カナイセイジ氏にゲームデザインについて聞いてみた!

ボードゲームを作った人の話を聞く【作者直撃】。久々となる今回は、日本を代表するゲームデザイナーのひとり、カナイセイジ氏の登場だ。昨年10周年を迎えた名作ラブレターを筆頭に、数多くのボードゲームを世に送り出してきたトップランナー・カナイ氏のゲームデザインにおけるこだわり、氏のこれまでとこれからについて大いに語ってもらった!

ボードゲームを作りはじめたきっかけは、“遊び”の創造とTRPGとの出会い

──カナイさんがボードゲーム製作をはじめられたきっかけは、どのようなものでしたか。

カナイ:いくつかプロセスがあるのですが、まず、子供の頃からそのような“遊び”を作ることが好きだったんです。当時は今と比べて娯楽が少ない時代でしたから、それこそ紙にすごろくのようなものを書いてみんなで遊ぶとか、あとは買い集めていたビックリマンシールを使って何か面白いゲームができないか考えるといった、そのような工夫ですね。

自分はひとりっ子で、友達といるとき以外の時間はひとりで何かしなければならない。ファミコンなどのデジタルのゲームも出始めていましたが、子供はゲームをする時間を1日1時間に制限されていたりして、ずっと遊べるわけではなかった。そういったなかで、どうにかして“楽しく過ごす”ことを考えるわけです。もちろん本を読むことで時間を使うこともありましたが、自分の場合特に(アナログの)“遊び”を作り出すことに楽しみを見出していたように思います。

──学生時代はTRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)をなさっていたそうですが。

カナイ:先ほどの“遊びを作る”ことがボードゲーム制作を始めるきっかけの半分ぐらいだとすると、残りの半分がTRPGに関するものになります。中学生の頃に始めて、大学ではTRPGのサークルに入っていました。

──TRPGを始められたきっかけは何だったのですか?

カナイ:これは世代的なものもあると思うのですが、中学生のとき、隣の席に座った人が『ロードス島戦記』の小説を貸してくれたことでしたね。当時の自分は、学研から出ていた『月刊コミックNORA』というSFやファンタジー中心のコミック雑誌に触れていたので、そういった世界観にどっぷりとはまってしまったんです。

そこから『ロードス島戦記』の物語のもとになっていた『月刊コンプティーク』誌のリプレイをまとめた本を読み、TRPGのことを知ってズブズブと……という感じでした。初めてプレイしたTPPGは『GURPS(ガープス)』で、あれは文庫でシステムが出ていて値段も安いし、手に取りやすかった。それで、近い趣味の仲間と、自分たちもやってみようか、となったんです。

こんな流れで当時グループSNEさんがやっていたようなゴリゴリの和製ファンタジーの世界観からTPPGに入りました。

▲ゲームマーケットではTRPGを体験できる特設ブースがある(ゲームマーケット2023春より)

──その後、大学生になってTRPGのサークルに入られたんですね。

カナイ:はい。そこで遊ぶだけでなく、何かしら物を作りたいという気持ちが嵩じてゲームのデザインを始めるのですが、最初に手をつけたのがTRPGのルールでした。ただ、これはあまりうまくいきませんでしたね。それでもなんとか形にして、コミックマーケットでコピー本を出したりしていました。それが1998~2000年ぐらいのことだったと思います。

当時はゲームマーケットが無かったので(※ゲームマーケットは2001年に第1回が開催)、ゲームを作ったらコミックマーケットで発表するような流れでした。自分はそこでTRPGのシステムを出したり、当時富士見書房さんが出していたフィギュアを使ったゲームの『メイジナイト』の解説本を出してみたり。自分なりに何か作って、発表しようとしていたんです。

今はSNSや動画で発信ができますし、そういった新しいメディアとの相性の良さもあって、さまざまな形でTRPGをプレイされている方が増えているのですが、当時はスマートフォンもないし、コミュニティにアクセスするのもちょっと難易度が高かった。それこそ、『コンプRPG』や『ドラゴンマガジン』などの雑誌、もしくはイエローサブマリンなどのショップに貼り出されていた募集を見て仲間を探していました。そんな時代でしたね。

──本格的なゲームのデザインは、TRPGから始めたんですね。

カナイ:中学校、高校、大学とTRPGをやってきて、何か自分の理想とするようなシステムを作りたいとなったんですけど、これが大変でした。TRPGの分野では今でもルール制作で頑張っておられる方々がたくさんいるので、こういうことを言うのは恥ずかしいのですが、当時の僕は根性が足りませんでした。

ルール的な物を作る部分まで良かったんですけど、データブロックというんですか、そこまで手が回らなかったんですね。要するに武器の攻撃力であったりとか、モンスターのデータとか呪文だとか、そういった膨大な量のデータを作ろうとした時に足踏みしてしまった。ルールや仕組みについて考えることはできたのですが、データが作れず、なかなか完成に至らなかった。現在、同人でTRPGを作っていらっしゃる方のなかには個人でそこまでやっている方もいるので、やはり能力の差という感じではありますが。

──アナログゲームの世界では、TRPGブームのあとにトレーディングカードゲームの流行がありましたが、カナイさんも触れられましたか?

カナイ:流れとして『マジック:ザ・ギャザリング』はプレイしました。そこで、やはり自分でもこういうものを作ってみたいとなって、いろいろと仕組みを考えてみたんです。トレーディングカードゲームは最初に300種類ぐらいのカードを考える必要があるんですけど、TRPGのときと同じで、そこまでの根性が自分になかったから、やはりものにはならなかった。それでも当時はかなり時間を使って考えていましたし、今だったら何らかの形で実現できるかもしれないと思うことはありますね。

──そこからボードゲームの制作へとたどり着くわけですね。

カナイ:TRPGやTCGをやっていたサークルで、合間にボードゲームをやらせてもらう機会がありました。カタンですとか、ほかにもいろいろなボードゲームをプレイして「ひとつのゲームで完結する内容で、扱うデータの分量も多くない。これなら、自分ひとりの力でも最後まで作ることができるのではないか?」と思ったんです。そこで実際にボードゲームの制作を始めました。いま振り返ってみると初期に作ったものはゲームバランスや収束性がひどかったりしましたが、それでも当時の自分の野望、野心が詰まっていて思い出深いものがあります。

それで、ある時期からコミックマーケットで発表するものを、TRPGのシステムや解説本などからボードゲームに切り替えたんです。しばらくは100円ショップで買ってきたプラスチックのケースやクリアファイルなどに印刷した紙を入れて作っていたのですが、後にゲームマーケットに出展したとき、そこでお会いした萬印堂さんに「印刷してきちんとしたコンポーネントで作れますよ」とお話をいただきました。それならやってみようということでお願いしたところ、メーカーの当時の製品と比べても遜色のないものが作れて驚きましたね。

いかにして萬印堂はボードゲームの印刷を始めるようになったのか?

──アマチュアによる同人ボードゲーム制作については、カナイさんは先駆者的なお立場で、黎明期から見てきていらっしゃると思います。現在の盛隆に、いろいろと思うところがあるのではないでしょうか。

カナイ:初期のゲームマーケットは、“都産貿”(東京都立産業貿易センター・台東館)でやっていて、年1回の開催。ボードゲーム自体がまだマイナーなホビーでプレイヤーも少なかったから、もっと牧歌的な雰囲気でしたね。それが、ビッグサイトに移る直前(2012年)は、2フロア借りてもパンパンで行列がビルの外に溢れていました。それからも規模はどんどん大きくなっていて、今のゲムマを見ると隔世の感があります。

自作のなかでのお気に入りは、やはり『ラブレター』

──ジャンルを問わず、カナイさんがお好きなゲームについてお話しください。

カナイ:まずアナログゲームからお話ししますと、いきなりボードゲームではないのですが、『マジック:ザ・ギャザリング』のようなTCGが好きです。ボードゲームでは、テラフォーミング・マーズアグリコラレース・フォー・ザ・ギャラクシー

――どれもゲーマー向けのゲームと呼ばれているものですね。

カナイ:そうでないもので言うと、ボードゲームをあまりプレイしたことがない人におすすめして楽しんでもらえるという点で『センチュリー』を挙げたいです。特にセンチュリー:ゴーレムはアートワークや内容物がきらびやかで、取っつきがいいですよね。

あとは、ボードゲームというより伝統ゲームですが、『麻雀』です。ランダム性の担保の仕方が素晴らしい。ただ、麻雀は遊ぶ人全員がそれなりに知識を持っていないとできないので、ボードゲームの基準で考えると遊ぶハードルがかなり高いんです。一方で、今はプロリーグのMリーグが人気だったり、スマートフォンアプリの麻雀ゲームを若い方がプレイしたりもしているので、根強さを感じますよね。

デジタルですと、これはアナログゲームの内容を含んでしまいますが、『カルドセプト』のようなデジタルカードゲームとか。まったく違う方向性で『ディアブロ』みたいなハック&スラッシュも好きです。ちょうどいま最新作が話題ですけど、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』のようなオープンワールドの探索系も好きで、熱中してプレイしてしまいますね。『スカイリム』をVRで遊んだときは本当に感動しました。

▲これまで多くのゲームを送り出してきたカナイ氏。コンパクトにまとまったカードゲームが多い

──ご自身がデザインしたゲームのなかで特にお気に入りのものはどれでしょうか。

カナイ:(自身の作品リストを見ながら)たくさん作ってますね(笑)。このなかでは、代表作と紹介されることが多いと思うのですが、やはり『ラブレター』(2012年)を外すわけにはいかないでしょう。自分で作ったものとはいえ、いまあらためてプレイしてみても普通に面白いと思います。あとは、初期の作品になりますが、製品化した第2作の『イカサマージ!』(2008年)。新版では『マギアレーナ』(2014年)というタイトルで出ています。これは自分でも結構いい感じでまとまったゲームかと思っています。

▲『マギアレーナ』(キュービストブログより)

カナイ:当時はまだ自分のなかでもTRPGとボードゲームの中間ぐらいのポジションでデザインしていて、「こういうテーマをゲームに落とし込んでみたい」とテーマ重視で作っていました。まだ創作論もなく、制作ノウハウの共有もない頃の話ですね。修行中だったということもありますが、自分で遊んで面白かったゲームをアレンジしてボードゲームにしたい、という感じでしょうか。みんな自分の好きなゲームがあるんだけど、それに対して、もっと自分好みに直してみたいというのが当時の創作動機の一つだと思います。

──ほかにお気に入りのゲームはありますか。

カナイ:『ウニコルヌスの騎士たち』(2016年)ですかね。往時のデジタルゲーム、シミュレーションRPG……『ファイアーエムブレム』『タクティクスオウガ』などからエッセンスを得て作った和製戦記物です。亡国の姫が少ない手勢を率いて大帝国に占領された王都に攻め上っていく、みたいな物語で、プレイヤーは物資をたくさん持った商人であったり、エルフの王様であったりで、自分たちも姫を助けながら帝国と戦っていく。そのような話が好きな人なら一度は夢想したであろう、ファンタジー戦記もので、仕組みとしてもかなり面白いものが作れたと思っています。カードを引いて敵の武将との因縁が決まるのですが、生き別れの兄弟だとかの設定が出てきて、シミュレーションRPGによくある、ユニットを隣接させて会話すると突然敵が仲間になったりするという、あの感じが再現できたのではないかなと。

──現在では入手できないのでしょうか?

カナイ:大箱でかなりの大作ですし、もう作れないと思っていたんですが、去年再販しました。これは売り切ったものの、なにしろ物が大きいので、残ってしまうと保管が大変なんですよね。

──Twitterなどを見ていても散見されるのですが、在庫の問題に悩まされるゲームクリエイターの方は多いようです。

カナイ:ゲームを作って売り切れるのであればいいのですが、残った分はどこかで保管しないといけないので、大箱のものは厳しいですよね。みんなが倉庫を用意できるわけではないでしょうし。

再販と在庫の問題は、ゲームを作る人なら誰もが直面していると思います。特に個人や少人数のグループで作っている方だと、もし作ったものが売れなければ大量の在庫を抱え、ダンボールで部屋が埋まる羽目になるわけで、覚悟がいる。一方で、ゲームマーケットもだいぶ先鋭化が進んでいて、人気があるところは数がはけて、売れないところは手に取ってすらもらえない、というような流れがどうしてもできてきているように思います。

──ボードゲームの人気が高まり、作家もサークルもどんどん増えていく一方で、大手がより規模拡大していく流れになってきている。ゲームマーケットに出てくる同人ゲームも、もはや商業ベースのレベルになってきています。

カナイ:ブースで目を引かなかったら見向きもされないので宣伝が重要ですし、SNSで一発バズるのを狙うとか、どうしてもそういう戦いになっちゃいますよね。クリエイターとしては辛いところですが、このあたりは文化が成熟してきて、コンテンツが無尽蔵に作り出されるようになったゆえの結果でしょう。ゲームマーケットでいえば、800以上のサークルが参加して、そこがみんな新作を出していたら、新しいゲームが800個はあるわけです。そのうえで、プロが作った商業作品もたくさん出てくる。その全部がプレイヤーの時間を取り合うわけで、最終的にはタイムパフォーマンスの問題になってくるんですよ。現代の人たちはとにかく時間がないですから、すべてを遊んでいる余裕はないので……。

タイムパフォーマンスの話をすると、これは全体的なことになりますが、娯楽の多様化が進んでいて、ゲームも映像作品あたりと同じ土俵に立たされて、比べられてしまう。実際にプレイしなくても、YoutuberやVTuberといったインフルエンサーがゲームを楽しそうにプレイする動画を見て、それだけで満足する人もいます。これはデジタルゲームによく見られることですが、アナログゲームの世界でも同様かと思います。

──長尺の動画は再生速度1.5倍で視聴されたりもしますし、コンテンツが高速で消費されていく時代です。ボードゲームは実際にプレイするという“体験”が重要なホビーかと思いますが、それでも決して対岸の火事ではないということですね。

カナイ:そう思いますね。

ゲームデザインで重視していることはプレイヤーによる“選択”

──ゲームをデザインするにあたり、どのようなことを重視していらっしゃるのでしょうか

カナイ:一言で言うと“選択”があることでしょうか。まさに『ラブレター』はその極地ともいえるものですが、プレイヤーが自分の選択について考えることと、そのためのフックがあることが大事だと思っています。選択肢として「今の時点では6ポイントぶん有利だけど、この先は変わるかもしれない」ものと、「8ポイントぶん自分が有利になるけど、相手にも2ポイントぶんの得を渡してしまう」ものなら、どちらがいいんだろう? というようにプレイヤーに選択の余地を与えて、考えてもらう。そして、その結果に一喜一憂する。そのようなことが、ゲームをプレイして「楽しい」と感じる要因だと思っているんですよね。選択の結果が印象的であれば強く記憶に残るだろうし、自分が選んだことなのだから納得もできる。そのような選択が発生する仕組みを作りたいと常に考えています。

──『ラブレター』はたくさんの派生作品が登場していることでも分かりますが、システムの汎用性が非常に高く、どのようなフレーバーを乗せても成立するところがすごいと思います。このシステムを考えたとき、手応えのようなものは感じられましたか?

カナイ:『ラブレター』の仕組みはたまたまできた運の産物で、自信があったかと言うとそうではありませんでした。ですが、ゲームマーケットの前日に新作を体験する会で他のデザイナーにプレイしてもらったとき、みんな「これはすごい!」と驚いてくれたので、このゲームはよくできているのかな? と感じましたね。結果的には非常に良かったということになります。

──カナイさんのデザインされる作品は『ラブレター』に代表されるように、カードの枚数が少なく、ワンプレイも短くて、コンパクトにまとまっているゲームが多い印象があります。

カナイ:コンパクトというと、アールライバルズなどもそうですね。周囲からは、自分がデザインするゲームはドイツのボードゲーム展示会であるエッセンシュピールに行ってからかなり変わったと言われます。自分は2008年に初めて行って、作ったボードゲームを現地の方に見せました。拙い英語でインストラクションして、体験プレイをしてもらい、気に入ってくれたら買ってもらえるわけです。買ってくれればラッキーですが、そうでないときは海外の方って感情を隠さないから、つまらなそうに「OK, Thank you」って言ってどこかに行っちゃう。

そのような展示会で自分のゲームを直接プレゼンするとなったとき、とにかく多くの人に触れてもらうために、ある程度短くて、さっと遊べるゲームのほうが向いていると感じたんですね。ですから、意図的にコンパクトにしているというよりも、そのような体験をした結果としてコンパクトなゲームを作るようになったのかな、思っています。

──『ラブレター』は2014年のドイツゲーム賞に入賞されていますが、そのときはどのようにお感じになられたでしょうか。

カナイ:ドイツのゲーム賞はふたつあって、まずドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres)というのが、箱に赤いポーンのマークを載せられる賞。もうひとつがゲーマーの人気投票みたいな感じのドイツゲーム賞(Deutscher Spielepreis)で、『ラブレター』が入賞したのはこちらになります。ゲーマーが選ぶ賞は重いゲームが選ばれやすいので、そこで評価されたということは純粋にうれしかったです。一方で、年間ゲーム大賞は推薦止まりだったので、うれしい反面やっぱりちょっと残念でした。

コラボ作品は、ファンが違和感を感じないようにデザイン

──カナイさんはアニメやコミック原作のタイトルを多く手掛けられていらっしゃいます。原作付き作品をデザインするにあたり、オリジナル作品の制作法と変えている部分はありますか。

カナイ:もとになるアニメやコミックがあるのなら、可能な限り原作を拝見して、その雰囲気をどうやって生かすかということを考えています。イラストだけ使ってゲーム部分はどんなものでも良いとなったら、原作ファンがプレイしたときに「このキャラクターはこういうことしない」という感想が出てきてしまいかねません。そうならないように、ファンの視点から見ても納得感のあるものにしたい、ということを常々考えています。

それと、原作ファンの皆さん全員がボードゲームに慣れ親しんでいるとは限りません。(ボードゲーマー的に面白いと感じる)複雑なシステムを乗せたとしても、その内容が難しすぎると、遊んだ人にとって楽しい体験にならない可能性があります。なるべく分かりやすいものにしたほうがいいというのは、原作付きのゲームのデザインでいつも感じています。

──先ほど話が出ましたが、特に『ラブレター』は『宝石の国』や『おそ松さん』など多くの映像作品や漫画とのコラボが実現しています。これも『ラブレター』の汎用性の高さによるものかと思います。

カナイ:最低8人のキャラクターがいれば、ラブレターの8種類のカードを表現できますから、そういう意味では比較的コラボしやすいかもしれませんね。『宝石の国』ではカードのキャラクターが登場人物になるわけですが、性格であったり、能力、強さであったり、そのような個性をどのように元となるカードに当てはめていくか。そういったところを考え合わせながら作りました。これは、この後に出す『ラブレター』のコラボ作品すべてにいえることです。

──一方で、2022年の『モンスターイーター』では、故・鈴木銀一郎氏の傑作カードゲーム『モンスターメーカー』をオマージュしつつ、原作コミック『ダンジョン飯』のテイストを入れてリデザインしたものとなっています。もとになるゲームとして『モンスターメーカー』を選ばれたのはなぜだったのでしょう?

【先行プレイ】話題の『ダンジョン飯』ボードゲーム『モンスターイーター』を、原作&『モンスターメーカー』ファンがプレイしてみた!

カナイ:これは当時のアークライトの担当者の希望として『ダンジョン飯』『モンスターメーカー』のコラボがやりたいという話が先にあったんです。自分も『ダンジョン飯』は好きでしたし、ダンジョンに潜って進んでいくという点も『モンスターメーカー』の世界観に近いものがありますからアレンジもしやすい。「それなら意見を出してみましょう」ということで、3つぐらいのシステム案を出したもののなかから決まったのが製品版のもとになっています。

──『モンスターイーター』は『モンスターメーカー』を見事に現代風にしたものになっていると感じます。特に、モンスターを他人に押し付けるという行為が相手にもメリットがあるようになっていたり、食料を入手する「調達」というアクションを設けたりといったところは、手詰まりにならないようにする配慮がありますね。

カナイ:今のボードゲームは、一人だけ大きく負けたり、集中攻撃されたりして、途中でプレイをやめてしまいたくなる人が出ないよう、お助けのルールを作る流れになっていますよね。ゲームデザイナーはこれを(プレイヤーを守るという意味で)“ガードレール”と呼んでいるのですが、このあたりは時代の変遷やプレイヤーの志向の変化に対応したものだと考えています。

──原作ありのゲーム化の中では、『ラブレター』派生作品や『モンスターイーター』と違い、いちからシステムを作っている作品もあります。例えば、2020年の『Dr.STONE ボードゲーム 千空と文明の灯』がそうですが、どのようなにデザインしたものなのでしょうか。

カナイ:これも、まず原作ありきということで、あの漫画の序盤の骨子である、身近にあるものを組み合わせて何かを作り出すことを重視しました。その辺に生えている草から料理を作れたりとか、何かと何かを混ぜたものが実は近代でよく使う物品になったりとか。そのようなことを伝えるのが『Dr.STONE』という漫画で、説明されている“科学”の楽しさを、プレイした人や子供たちにも知ってもらいたいという気持ちがありました。原作ファンや読者に向けて、その部分を大事に仕上げていきましたね。

──なるほど、このゲームは“物を作る”ことを軸にしてゲームをデザインされたわけですね。

カナイ:あくまでも原作準拠ということからは外れずに、できることをやっていった感じですね。

──原作付きの作品をデザインするうえで難しい部分や、苦労などはありますか。

カナイ:話しにくいこともたくさんあるのですが、版権などの問題で、できることとできないことが出てくるんです。特に、原作、漫画、アニメ、デジタルゲームというように複数の媒体でメディアミックス展開していると、それぞれ個別に権利があったりするので、使いたいと思う内容があってもできないことがあります。デザインする側としては、ファンの方がプレイしたときに「これは違う」と思ってほしくないので、なるべく原作と齟齬がないように作りたいのですが、簡単にはいかないこともあるのが難しいところですね。

▲『Dr.STONE ボードゲーム 千空と文明の灯』 (C) 米スタジオ・Boichi/集英社・Dr. STONE製作委員会 (C)2020 Arclight,ink.

カナイ流・アナログゲームが成功するための形とは?

──今後はどのようなゲームをデザインしていきたいとお考えですか。

カナイ:最近は自分も忙しくて、自分のオリジナルのタイトルに対して時間を使っていける状態ではないということがあるんですが……。

自分がデザインしたいゲームという話とは少し離れますが、最近はアナログゲームが成功するためのテンプレートのようなものがあると感じています。大別すると3パターンあると思っています。

まずひとつは“見る”体験が非常に強いということ。これは特にitoはぁっていうゲームなどが該当しますが、テレビ番組や動画で芸能人やインフルエンサーの方がプレイされている。それを見て興味を持つ人がいるわけです。他人が遊んでいるところを見るだけでも楽しいし、自分たちでやっても楽しい。どこかで「見る」ことができる、「見て内容がわかる」というのが、非常に強い武器で、人気が出る条件になっていると思います。

──一般受けしやすいパーティーゲームは、インフルエンサーが勝手に宣伝してくれて、それがさらなるヒットに繋がるわけですね。ほかの“成功する形”とはなんでしょうか。

カナイ:次はゲーマー向けのヘビーゲームの傾向なんですけど、300枚、400枚くらいの大量のユニークカードを用意して、とにかくそれらをプレイヤーに評価、選択させるゲーム。与えられるカードの組み合わせが多岐にわたるので、その状況の中で最善を尽くすプレイをする、というタイプです。これがいま流行しているように見えます。

そうすることで毎回違う展開を楽しめるし、毎回(TCGの)パックを開ける、あるいは環境を分析するような楽しみもあるし、私が重視しているとお話しした“選択”の要素も常に入ってくる。これを2~3時間くらいのスパンでプレイする。既存のゲームでいえば『テラフォーミング・マーズ』ですとか、最近流行っているアースあたりでしょうか。これが売れるパターンというか、ゲーマーなら絶対に好きになるシステムというところで、形やテーマを変えながら色々作られています。

あとは、さらにTCGに寄せたもの。今回のゲームマーケット(2023春)でも2人用のTCGライクなゲームがかなり出ていたので、そういうのが好きな方が多いという状況のなかで、さて自分だったらどんなものを作ろうか、と考えているところです。

──TCGの要素を取り入れたボードゲームが流行する、もしくは、もう流行している?

カナイ:これは僕の所感なので、もちろん違うと思う方もいると思うのですが、私は先ほど挙げたようなゲームシステムは楽しいと感じますし、TCG自体もさまざまな楽しさをもつものですから、作る立場としても、工夫しがいがあるところですね。このカードが強い、このカードが弱い、でも、このカードとこのカードを組み合わせたら強くなる。そのような仕組みや組み合わせを考えることが楽しい。だから、TCGの誕生以来追求されてきた楽しみが、いまボードゲームの方にもだいぶ入ってきていると感じます。ドミニオンあたりは、完全にTCGの文脈で作られたゲームですし、それが先ほど話した人気の出るパターン……プレイヤーに楽しんでもらえるパターンのひとつになっているのではないでしょうか。

そのような文脈があるなかで、それをコンパクトな形で楽しめないだろうか、という部分がゲームを作るうえでの一つの軸になってくるかと思います。今までコンパクトなゲームをたくさん作ってきたのは、これまでのゲームがもつ楽しさをうまくコンパクトな内容としてまとめられないかな、と考え続けてきたからというのもあります。コンパクトにすれば予算的にも作りやすいですしね。これが今後デザインしていきたいゲームは、という質問の答えになるでしょうか。ただ、予算的にやりやすいこともあって、この分野は最近ライバルが多いですね。

──もうひとつの“成功する形”とは?

カナイ:最後に、中量級の成功例としてのパターンです。これはカスカディアのように、ゲームの勝利点条件などの組み合わせで毎回違うプレイングをさせる。実際にプレイヤーが行うのは簡易な選択で、終わるときには自分だけの箱庭ができていて勝敗にかかわらず満足感がある、というものです。

──自分のプレイの結果として、箱庭のような何かの完成形が手元に残るというのは楽しいですよね。

カナイ:これはファミリーでも遊びやすい内容のものです。キングドミノや、先ほど名前が出た『センチュリー』などもこの範疇ですね。

──最後に、カナイさんの近況とこれからについて、それからカナイさんのゲームをプレイしているゲーマーの皆さんに向けてひとことお願いいたします。

カナイ:最近は新作発表していませんが、水面下ではたくさん動いていて、作っては調整して……という状態なので、今後もご要望がある限りはひたすら頑張っていきたいなと思っております。年内に発売できるものもあるはずですし、発表できるものもあります。ご期待ください。

デザイナーとしては、とにかく楽しい時間、没頭する時間を過ごしていただきたい、と思って制作に取り組んでいます。そうなっていれば本当に嬉しいですし、そのようなゲームを作り出せるようこれからも精進を続けますので、今後の活動にも注目していただければと思います。

▲『ラブレター』でお気に入りのカードは?との問いにカナイ氏は魔術師、大臣のカードをセレクト。「大臣の自爆がいいアクセントになったと思います」とのこと

終わっての感想

日本の同人ボードゲーム界を黎明期から知るカナイ氏。今回はボードゲームとデザインについて、氏から濃密な話を聞くことができたが、いかがだっただろうか。

最後にカナイ氏は、今回の取材でひとつだけ話していないことがあったと付け加えた。それは今後のボードゲームのデザインにおける“AI”の利用について。すでにゲームマーケットにはAIによるデザインを取り入れた作品が出展されており、カナイ氏はどのような形であれ、AIの波はボードゲームのデザインにも影響を与えてくるのではないかと語った。

これからのゲームマーケットやボードゲーム界の推移を見守りつつ、今後のカナイ氏の発表するゲームのテーマや、その変化にも注目していきたい。