日本人初・フランス年間ゲーム大賞アスドール受賞!『ナナカードゲーム』を作った宮野華也氏にデザイン哲学について聞いてみた!

『ナナカードゲーム』(以下『ナナ』)の海外版である『TRIO(トリオ)』がアスドール・フランス年間ゲーム大賞2024を受賞し、一躍ボードゲーム界の時の人となったゲーム作家、宮野華也(みやの・かや)氏。

氏のブランド“Mob+(モブプラス)”の作品は『ナナ』に代表されるようにシンプルなルールと少ないコンポーネント、小さなボックスに収まるコンパクトなタイトルが揃い、特色のあるデザインとなっている。

今回は日本人デザイナー初となるアスドール受賞の快挙を果たした宮野氏に、これまでのゲーム歴やゲームデザインについての哲学、アスドール受賞の感想などを聞いてみた。

恩師に導かれてボードゲームと出会う

▲3月2日に行われた即売会“CONNECT”にMob+として出展した宮野氏。カンヌ国際ゲーム祭に出席後、とんぼ返りで帰国してすぐに東京でのイベントに参加した

──まずは、宮野さんのゲームについてのルーツについてお聞きします。学生時代はどのようなコンテンツに興味がありましたか?

宮野氏:一通り見てきたという感じです。テレビゲームについては『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』といった話題作を人並みにやってきました。

──特に凝っていたというものはありますか。

宮野氏:ゲームとライトノベルはかなりハマっていました。それと、コミックも自分自身は熱心だっという自覚はないのですが、おそらく一般の人よりは格段に多く読んできたと思いますね。

──宮野さんの作品では、『もしも勇者がいるのなら』のように、テイストとしてはアニメやライトノベルに近いものもあります。接してきたコンテンツがご自身のゲームのデザインにも反映されているという感じでしょうか。

宮野氏:そうですね。良い表現かどうかは分かりませんが、いわゆる“中二”と呼ばれているような要素は自分もかなり好きです。

──それでは、宮野さんとボードゲームの出会いはどのようなものだったのでしょうか?

宮野氏:今から12~13年前ぐらい(2001~2002年ごろ)だったと思うんですけど、秋口ぎぐる先生(ライトノベル作家・ゲーム作家。cosaic代表)との出会いがきっかけになりました。ゲーム作家としては『キャット&チョコレート』などを作った人です。自分は当時通っていた専門学校で秋口先生から教えを受けておりまして、その縁で恩師を訪ねた際にゲーム会に誘っていただいたんです。

これは当時から大阪市の中央公会堂で開催していた“レトロビルでゲーム会”という会だったのですが、ここで初めて本格的なボードゲームに触れました。

──ボードゲーム界への入り口は秋口さんに誘っていただいたから、ということになるのですね。では、初めてプレイしたボードゲームは何だったのですか?

宮野氏:大きな意味のアナログゲームでは、それ以前にも将棋や囲碁といったものを遊んだことがあるとは思うのですが、そういったものを除いて純粋なボードゲームということであれば、“レトロビルでゲーム会”でプレイした『ユグドラシル』が特に記憶に残っています。これは内容物(コマやカード)がたくさんあって、コンポーネントが豪華な協力型のゲームです。北欧神話の世界観をベースにしていて、自分自身がライトノベルやゲームなどで触れていて神話の物語にも興味があったので、入りやすかったということもありました。

それと、協力型のボードゲームでシステムも凝っていて、それまでボードゲームというと『人生ゲーム』などの古いゲームのイメージだったのが、しっかりと作られたとても面白いものだと感じて、そこでボードゲームの概念が大きく変わったんです。これが確か2011年ぐらいのことでした。

──そうしてボードゲームと出会い、面白いと思ったというところから、自分で作ってみよう、となった過程はどのようなものだったのでしょうか。

宮野氏:もともとはライトノベルの作家を志して秋口先生に師事したのですが、ちょうどボードゲームと出会ったときぐらいの頃には小説を書くことが難しく感じていて、「ちょっと自分には合わないな」と思うようになっていました。それでも、やはり何かを創りたいという気持ちがあった。そこで、試しにゲームを作ってみたら、ゲームを作ること自体に面白さを感じたんです。それなら続けてみようかな、と思いました。


※宮野氏と、師である秋口ぎぐる氏の共作となる『ゾンビタワー3D』。秋口氏はCosaic代表として『なつめも』などの宮野氏のタイトルの出版も手掛けている

 

──宮野さんがこれまでプレイしてきたゲーム(ボードゲーム、アナログゲーム全般)のなかで、お好きなものについてお話しください。

宮野氏:やはり『ドミニオン』ですかね。ちょうど自分がボードゲームと出会った頃に流行が始まったゲームで、自分も個人で輸入してプレイするぐらい熱心にやりました。当時日本語版がすぐ品切れになってしまったこともあって、ドイツから個人で輸入している人がたくさんいたんです。あの頃は今では考えられないほどヨーロッパからの送料が安かったということもありました。最近の作品ですと、デッキ構築系に偏ってしまうようですが『グレートウエスタントレイル』は非常にいいゲームだと思いましたね。

──いま名前を挙げていただいたゲームはゲーマー向けの本格派で、宮野さんがデザインしているライトなゲームとは少し傾向が違うように感じます。それでは、ご自身がデザインしたゲームのなかで特にお気に入りのものはなんでしょうか。

宮野氏:自分のなかでのお気に入りになると、最近出した『ねこポーカー』ですかね。そのほかですと……ここで『ナナ』を出すのはその趣旨にそっているか微妙なところですから、いったん外すとして、そうなると『ドンクラーヴェ!』。これはいまでもプレイした方から好きだと言っていただけることがたびたびあるゲームなので、機会があればリメイクのような形でまた触れることができるといいな、と思っています。

ゲーム制作開始からプロデビュー、現在に至るまで

──宮野さんが最初に出版したゲームは2012年3月のゲームマーケット大阪で出した『タートル&バニー』で、これは“モブゲームス”の出版となっています。いま話に出た『ドンクラーヴェ!』は2016年で、この時期からブランド名が現在の“Mob+(モブプラス)”に変わっているのですが、どのような経緯があったのでしょうか。

宮野氏:モブゲームズは自分がゲーム制作をはじめたときに使っていたブランド名です。2015年に『ギャンブラー×ギャンブル』(グループSNE/cosaic)という作品で“グループSNE ボード/カードゲームコンテスト”という公募ゲームコンテストで大賞をいただき、宮野華也としてプロデビューという形になったので、いったんモブゲームズとしての活動を終えました。

──過去の宮野さんのお言葉で、「ゲーム作家のプロになりたい」という発言があったのですが、それを叶えられたということですね。

宮野氏:そうですね。プロになりたいということは、ゲームを作り始めた当時から言っていた気がします。

ただ、プロになった直後は知名度もあまりなく、出版社に持ち込んでも断られたりで、なかなかゲームが発表できなかった。それで、もう自分で出すしかない、と考えるようになりました。このときモブゲームズを復活させても良かったのですが、心機一転といいますか、これまでの活動にプラスをして新しいスタートを切るということで、ブランド名を“Mob+”としたんです。

プロのデザイナーとしては大先輩になりますが、自分はカナイセイジさん(『ラブレター』『モンスターイーター』など)をお手本というか、参考にさせていただいている部分があります。Mob+というブランドを持ったのも、カナイさんほどの人が“カナイ製作所”というご自身のブランドを持っているのだから、自分も持ちたいと思ったからですね。

──2016年前後は発表した作品が少なく、少しが制作ペースが落ちているように見受けられます。この時期はプロとしてゲーム制作一本でやられていたとのことですが。

宮野氏:その頃はモブゲームズでの活動を終えて、プロとして専業でやっていた時期です。発表作が少なく見えるのは、世に露出しない企業案件のタイトルを作っていたからですね。大学の特別講義に使う教材みたいなものでした。期間中は実質的に一本だけを1年ぐらいかけて作っていて、これはエネルギー問題をテーマにした作品だったのですが、売ることを考えたものではなかったです。ゲームはレガシー要素を強めた形のもので、1度きりのプレイを想定してリプレイ性を担保しない作りでしたし、商品化しにくいものでした。

ゲーム制作の概念は“そのゲームのベストな形に近づけていく”こと

──確かに、現在宮野さんが制作されているゲームとはかなり方向性が違うように思います。Mob+の紹介では、ご自身のゲームを「遊びやすくて少し変わったゲーム」としており、最近の『ねこポーカー』や『いぬポーカー』、もちろん『ナナ』もそうですが、少ないカード枚数、短いプレイ時間でルールもシンプルにまとまっているものが多いようです。宮野さんはゲームをデザインするにあたり、どのようなことを重視しているのでしょうか。

宮野氏:簡単に言うなら、「僕にとって面白いか」ということと、「システムが美しくまとまっているか」ということが基本だと思っています。ただ、先ほどのエネルギー問題のゲームのように、企業案件を受けた場合はクライアントの要望をきちんと反映するゲーム作りもしています。

ゲーム制作の哲学ということでしたら、概念的な話になりますが「そのゲームの理想の形を目指す」というところがあります。そのゲームの可能性を見出すと言いますか、より良くなる道を模索していくという形で考えていく。ゲームにはもともとベストな理想の形があって、テストプレイを重ねていくと良いところや方向性が見えてくるから、そこを伸ばして少しずつベストな形に近付けてあげる、という感じでしょうか。これは他の作家さんとは違う感覚なのかもしれません。

それと、こだわりは可能な限り捨てていくという考えもあり、「こうあるべき」「こうするべき」というような考えはできるだけ排除していくように心掛けています。

──ゲーム制作のペースについてもおうかがいします。宮野さんは多くのゲームを制作していらっしゃいますが、基本的にはゲームマーケット開催に合わせたタイミングで新作をリリースしていく感じでしょうか。

宮野氏:あまり良くない気もしますが、基本的にはゲームマーケットに合わせてしまっていますね。イベントに合わせて出すと、(販売数などの)効果が目に見えて違うというのは感じているところです。

現在ゲームマーケット大阪が開催されていないこともあって、(大阪在住の)自分としては少しペースがつかみにくい状況が続いています。本来ならもっと多くの作品を出せると思うのですが、このあたりは現在調整中ですね。

──作品によって違いがあるとは思いますが、ゲームの1本ごとの制作期間はどれぐらいですか?

宮野氏:作り始めてからリリースまでということでしたら、システム部分に1~2カ月、アートワークなどを考えるとおおよそ3カ月。製造の期間が余裕を持って見て2カ月とすると、おおよそ5~6カ月ぐらいですかね。

──最近のXでの宮野さんのお言葉で、ゲーム作りについて手応えを感じているといったような趣旨の発言がありました。以前と比べると、ゲームを作るうえでのプロセスが分かってきて、先ほどお話ししていた「もともと存在しているベストな形に近付ける」ということについても、ゲームが出来上がっていくまでの流れを掴んだという感覚でいらっしゃるのでしょうか。

宮野氏:ゲーム作り自体を楽しんでいる部分もありますし、流れを掴んだり見極めたという感覚はなくて、常に模索しています。無意識化ではそのようなことが起こっているのかもしれませんが、手応えを感じているというより、単に最近は調子がいいな、という感じですね。自分は感覚派なんです(笑)。

──ゲームのアイデアはどのようなときに思いつくのですか。

宮野氏:思いつきや閃きが落ちてきやすいのは、頭が空っぽの状態で手だけ勝手に動いているとき。例えばシャワー浴びてるときなどは、考えがまとまりやすいですね。

他にアイデアが出て来るのは、インプットがあったときです。例えば、最近『イレブン』という佐藤雄介氏(『タイムボム』ほか)のゲームを遊ばせてもらったんですけど、強い刺激を受けましたね。非常にシンプルなのですが、とても面白いし、新鮮味がある。

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宮野氏:じゃあどうして面白く感じるのか、どんなことをしているのか。自分もこのような概念でゲームを作ってみたい。それで、その場で『イレブン』のカードを使って、別のルールや遊び方を考えてみたりして。やはり面白いものとの出会いがトリガーになりますし、インプットからアイデアが出て来ることもよくあります。

──宮野さんのゲームの特徴として、シンプルにまとまっているということがあると思います。いわゆる“軽いゲーム”が多いのですが、そのあたりもゲームデザインにおけるこだわりでしょうか。

宮野氏:単純にコストパフォーマンスという概念になってしまうのですが、重いゲームは作るのが難しく、制作にかかる元手が必要で、そのうえ売るのも難しい。個人的には重いゲームも好きなので、いつか作ってみたいという思いはあるのですが、単純に「ゲームを作るプロになりたい、ゲームで飯が食っていきたい」ということを考えると、より現実的な選択をしているということですね。

もちろん重いゲームを作って生活されているゲーム作家さんもいらっしゃると思うのですが、とにかくいろいろと大変で、自分のなかでは選択肢に入らない。ですから、こだわりというより、軽めのゲームを作っているほうが生活していくという意味では成り立ちやすいからそうしているという感じですかね。

──Mob+の作品のなかでも、近年の作品は『ナナ』を筆頭に『ねこポーカー』『いぬポーカー』など、アートワークをデザイナー・イラストレーターの別府さいさんがご担当されているものが多くあります。どのような経緯でお願いしていらっしゃるのでしょうか。

宮野氏:基本的には、別府さいさんが人気のイラストレーターさんであるということがあります。別府さんにお願いすることで、より多くの方に手に取っていただけるようになるということですね。もちろん、自分にとって仕事のやり取りが非常にしやすい方ということも大事です。

▲タイトルやボックスは似ているが、ゲームの内容はまったく違う『どうぶつポーカー』シリーズの2作。アートワークはいずれも別府さい氏によるもの

宮野氏:初めてお願いしたときは別府さんの人気が上昇してきていたときで、周りから良い評判を聞いていましたし、そのうえ京都でご活動されているので大阪の自分にしてみると同じ関西ということで、お願いしやすかったということがありました。このとき誰に頼んでいいのか分からないアートワークの仕事が出てきて困っていたのですが、別府さんに相談して引き受けていただいたというのが最初になります。本当に器用で、そのようなことも含めていろいろとできる方なんです。

自分はイベントの直前に突発的にゲームを作って発表するという奇行をすることがちょくちょくあるのですが、そんなときも別府さんが「良かったらイラスト書きましょうか?」と言ってくださったりですとか。とてもありがたいことです。

知らぬ間に海外で旋風を巻き起こしていた『TRIO』

▲宮野氏の代表作となった『ナナ』。同作の海外版がアスドールを受賞した『TRIO』となる

──では、続いて今回の核となる質問になります。先日、日本人デザイナー作品として初めて宮野さんの『TRIO』(『ナナ』海外版)がアスドール・フランス年間ゲーム大賞2024を受賞しました。宮野さんの作品について、これまでの海外での出版事情はどのようなものでしたか。

宮野氏:海外でのゲームの出版というと、Mob+のゲームでは韓国版の『ナナ』、続いて『ウケセメっ!』が出たのが最初になりますね。Underdog Games(アンダードッグゲームズ)という韓国のパブリッシャーからお話をいただいて実現したことでした。

韓国での『ナナ』はアートワークも変えずに現地版として出したので、『ナナ』『TRIO』として出したCocktail Games(カクテルゲームズ)の場合とは違うケースになります。

──そうなると、Mob+として実質的に初めて海外進出したタイトルがさまざまな国でヒットし、今回の受賞に繋がったということになるでしょうか。

宮野氏:そうですね。カクテルゲームズはフランスだけでなくいろいろな国のパブリッシャーと繋がりがあって、それで世界中に販売しているという感じだと思います。

──カクテルゲームズからの出版が決まり、アスドール受賞までの経緯はどのようなものだったかお話しください。

宮野氏:フランス出身のボードゲーマーのヤニックさんという方がいて、この人が日本の国産ゲームをフランスに売り込むということをされているんです。ヤニックさんはあくまでただのいちボードゲーマーのはずなのですが、そこまで熱心に活動されているのですから、日本のゲームをすごく面白いと思ってくれているんでしょうね。自分のゲームがフランスに紹介されたのも、その方の活動の一環ということになります。それでその後もいろいろあって少し発売までに時間がかかり、カクテルゲームズから1年後ぐらいに出るということになりました。

自分自身は日本国内での活動に専念しているつもりだったので、自分のゲームが出版されるということに対してあまり興味を持っていませんでした。ですから「出したいなら勝手にどうぞ」という感じでオファーが来たら全部受けているような形だったのですが、ヤニックさんから丁寧に説明を受けて、契約してはいけない内容もあるんだな、ということまで含めて今回学んだ部分が多くありましたね。

──これまでは海外での出版を考えていなかったということなんですね。宮野さんのゲームでは、例えば最近の『いぬポーカー』『ねこポーカー』には英語ルールが付いていますし、カード自体にも言語依存がないので、海外出版を意識してゲームを作っているのかと思っていました。

宮野氏:言われてみると確かにそうなのですが、作る側としてはそれほど意識したわけでもありませんでした。海外の方がゲームマーケットで自分のゲームを買ってくださることがあるので、対応することで買ってもらえるにこしたことはない、ぐらいでしょうか。言語依存がないのは、単に自分がテキスト依存で特殊効果バリバリ、みたいなゲームがそれほど好みのデザインではないということがあります。

多言語版ということについては、『ナナ』を出すとき自分に「絶対に英語ルールを入れろ」と強く言ってくださった人がいて、ゲーム自体はいいものができたと思っていたし、「そんなに言うなら付けておこうか」ぐらいに考えていました。発売後にショップの人から「宮野さんのゲームは英語版マニュアルが付いているので海外からの客にも勧めやすい」という話を聞いて、良かったのかな、と。日本のゲームへの注目度も上がっているそうですし、英語マニュアルを付けることは今後もしていこうと思います。

──では、実際に欧州でカクテルゲームズから『TRIO』が発売されたときに、どのような反響がありましたか?

宮野氏:『ナナ』を国内で出したのが2021年、『TRIO』はそれから1年ぐらい時間がかかって2022年に発売したのですが、その時点での周囲からの反響というものは、ほとんどなかったです。日本でも『ナナ』『TRIO』になって海外で出たことを知っている人は少なかったでしょうし。一部の好事家の人がわざわざフランスから輸入したという話を聞きましたが、他に反響のようなものは聞かなかったですね。現地からの声もまったく届きませんでした。

──現地でフランス年間ゲーム大賞を受賞するほどの反響を得ているということは、宮野さんの耳には入っていなかったのですね。では、賞にノミネートされた段階で初めてそのことが知らされた、という感じなのでしょうか?

宮野氏:そうなります。ただ、フランスのPhilibert(フィリベール)というボードゲームの通販サイトの売り上げランキングでずっと1位を取り続けている、という話だけは聞いていました。そのことにしても、自分にしてみるとあまり現実味がある感じではなかったんです。

▲フィリベールで販売中の『TRIO』。アスドール2024受賞の表示が見える。2024年3月25日時点で発売から1年近く経っているが、売り上げランキング3位に入っていた

宮野氏:それが、年末年始ぐらいに突然「フランスに来ないか?」みたいな話が出てきて、こちらは「自費でいくなら嫌だ」とずっと言っていたのですが(笑)、そこは当然向こうが持つよ、と。何のことかと思ったら、賞をもらうかもしれないという話で、そこで初めて『TRIO』がフランス年間ゲーム大賞にノミネートされるということを知ったんです。

──これまでのフランス年間ゲーム大賞のタイトルはいくつか日本にも入ってきており(例:2020年大賞『オリフラム』、2022年大賞『アクロポリス』など)、『TRIO』がその仲間入りを果たすということは大きなことかと思います。実際にカンヌ国際ゲーム祭に出席して、現地での盛り上がりや、歓待を実感されましたか。

宮野氏:現地では「歓迎してくれているな」と感じるぐらいで、いまいち自分の中ではピンときてはいなかったですね。自分自身にそのような経験がほぼなかったので、どれだけ歓待を受けても、それがどんなにすごいことなのかということが実感としてなかったんです。

──サイン会が盛況だったということでしたが。

宮野氏:あれは日ごとに時間があらかじめ決まっていて、その時間はサインをしてくれと言われていたんです。ですから3日間ずっとサインをし続けていたのですが、その時間帯は人が途切れずに来てくれたので、これが日本ならこうはいかないだろうな、と思いましたね。

フランス年間ゲーム大賞2024、宮野華也氏による『TRIO』(日本版タイトル『ナナ』)が受賞!【追記あり】

アスドール受賞は「宝くじに当たったような感じ」

▲3月23~24日に大阪で開催されたイベント、Board Game Business Expo Japanでのひとコマ。ちぃたんのハンマーがアスドールのトロフィーを襲う!(宮野氏のXより)

──受賞したことについての周囲の反応はどのようなものでしたか?

宮野氏:やはり有識者の方々から「すごい」と言っていただけたのはうれしかったです。アスドールを取ったことがどれだけすごいことなのか知っている方からは祝福してもらえるのですが、実際にはあまり国内で知名度がある賞ではありませんから、よく分かっていない人は「何か賞を取ったんですか? おめでとうございます」ぐらいの反応でしたね。

──ご自身のご感想はどのようなものでしょうか。

宮野氏:宝くじに当たったらこんな感じなのかな、みたいな(笑)

──面白いゲームを作ったからこその受賞ですから、ご自身の力が評価されたということかと思いますが。

宮野氏:ほめていただけるのは非常にうれしいのですが、結局どれだけ面白いものを作ったとしてもそれがきちんと評価してもらえるかどうか、ということとはまた別の話だと思います。今回は『TRIO』が特別に高く評価していただけたということですから、これで自分が天狗になるようなこともないでしょうし、誰よりも普通の感覚で受け止めているという感じです。

賞をいただいたのは確かにありがたいことだったのですが、自分自身がそれで何か変わるのかというとそうでもない。ただひとつだけ、この職業を長く続けていくことができそうだな、とは思いましたね。

──そうおっしゃられますが、アスドール受賞は他の日本人デザイナーの誰もなしえていないことで、これで大きな冠を得たことは確かだと思います。

宮野氏:このことについてはこれまで自分も他の皆さんと同じ立場でしたから、毎年海外の賞のノミネート作品発表を見て「今年も(日本人の作品が)ノミネートされてるんだな」と思うぐらいだったところが、気が付くと自分の作品が受賞しているという。やはり今でもピンときてはいないんですけどね。

これからも「自分がその瞬間に出せる面白いゲーム」をリリースしていく

──今後はどのようなゲームをデザインしていきたいとお考えですか。

宮野氏:大きな賞をいただきましたが、だからといって別に何も変わらないと思います。コンセプトにしている「遊びやすくて変わったゲーム」というのも、自分がそれを意識して作っているわけではなくて、皆さんから見てそう映るだろうな、という感じで考えたものですし。

自分がその時その瞬間に出せる「面白いと思っているゲーム」を作っていくだけなので、過去のゲームを今見るといろいろと物足りないと感じることがあるのですが、それはその時の自分の最高値だったということで、あまり気にせずにこれからもやっていくという感じですね。

──宮野さんのゲームデザインはシンプルでカードの枚数が少ないという点で、先にお話しに出たカナイセイジさんの作品にも通じる部分があると思っておりまして、お手本にしていると聞いて納得するところがあったのですが。

宮野氏:ゲームデザインのスタイルについては、自分とカナイさんは真逆だと思っていて、というのも、カナイさんはテキストが好きだと思うんですよね。

自分のゲームがシンプルだったり、カードの枚数が少なかったりするのは、おそらく初期に触れていたユーロゲームからの影響を受けているものです。『スカル』ですとか、ミヒャエル・シャハト氏(『王と枢機卿』『ズーロレット』など)のソリッドなゲームシステムあたりの影響を強く受けていて、自分ではユーロ寄りのデザインをしているつもりです。

あとは、凝り固まらないようにすること。固定観念を可能な限り捨てていく。だからといってそればかり意識するわけではないですし、今後も変わらずにゲームを作っていくのではないかと思います。

──2作続いた『どうぶつポーカー』シリーズは今後も新作が出るのでしょうか。

宮野氏続けていきたいのですが、『ねこポーカー』『いぬポーカー』については同じゲームなのではないかと聞かれることがたくさんありました。ルールはまったく違うのですが、タイトルやコンポーネントが似ていて、ボックスも並べると犬と猫が向かい合うようになっています。よく似ているので同じゲームで絵だけ違うと思われてしまったようですね。

『どうぶつポーカー』シリーズはいったん時間を置いて、秋ごろに新しいものが出せるといいと思っています。

──最後に、宮野さんのゲームを遊んでいる方や、ボードゲーム好きな方に向けて、メッセージをお願いいたします。

宮野氏:どうぞそのまま、これからもボードゲームを楽しんでください、とお伝えしたいです。ゲーマーの方でも、「すごいのはゲームを作り手であって、自分はただの消費者」とおっしゃる人もいますが、そんなことはまったくない。ゲームを遊んでくれて、評価してくれて……皆さんがボードゲームに熱意を注いでくれるからこそ、自分たちのようなゲームを作る側の人間が成立するのです。

遊ぶ人と作り手のどちらが欠けても存在しませんから、どちらがすごいとか偉いとかはなくて、「これが好きで、面白いから遊んでいるんだ」と、ぜひ胸を張ってプレイしていただきたいと思います。


いかがだっただろうか。宮野氏は日本人のゲーム作家として初めてアスドール・フランス年間ゲーム大賞を受賞したという快挙に浮かれることなく、プロのゲームデザイナーとして“食っていく”ことに主眼を置いて、地に足をつけて活動していく意識が強いのだと感じた。

紆余曲折を経ながらもプロのゲームデザイナーになるという目的を達成し、ゲームを出し続けて今回の受賞に至った宮野氏。まだピンときていないと話しつつも、「この職業を長く続けていくことができそうだと思った」というコメントに重みと実感がこもる。

小さくて、軽くて、プレイ時間が短いMob+の「遊びやすくて少し変わった」ゲームは、これからも我々を楽しませて続けてくれることだろう。今後もデザイナー・宮野華也と彼の送り出す作品に注目していきたい。

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