【作者直撃】『マスクメン』の作者、新澤大樹さんにインタビュー。趣味はボードゲームのルールを読むこと?

ボードゲームを作った人にインタビューをして、その人がボードゲームに触れるきっかけやゲーム制作の苦労話などを聞き出す【作者直撃】企画の第4回目です。

BROADではこれまでMasao Fukaseさんと大山徹さんと佐藤雄介さんにお話を伺ってきました。前回の記事はコチラです。

「タイムボム」はたった1時間で作られた!?ゲームデザイナー佐藤雄介氏に直撃インタビュー!

4回目となる今回のゲームデザイナーは倦怠期の新澤大樹さんです。大新さんと呼ばれることのほうが多いので、新澤さんだとピンとこない読者も多いかも知れませんね。

新澤さんは、『マスクメン』など特殊で変なタイプのトリックテイキングをたくさん作ってきた人物。ボードゲーム界ではここ数年でトリックテイキングも増えてきて、ゲームマーケットでもトリテを作る人が増えてきた印象を受けます。

そんなブームの前からトリテを作ってきた人物は現状をどう見ているのか? トリテにのめり込んだきっかけは何なのか?……などなど、いろんなことを質問しました。でも、趣味があまりにも変わっててすべての話がぶっ飛ぶほど。ホント変な人だわー。

※このインタビューは、ダイニングバー「中野のボードゲーム・フローチャート」にて行いました。

パズルを作るのが仕事

――新澤さんはおいくつなんですか?

新澤31歳です。

ーーお仕事は? ボードゲーム作りが本業ですか?

新澤:会社に入って、パズルを作る仕事をして、働いてます。

ーーパズル作り? パズルの会社なんですか! そう言えばこの前、ダイソーで新澤さん名義のパズルが2つくらい出てましたよね。『スリーブロックス』と『カードキューブ』でしたっけ?

新澤:そうですね。おかげでそういったパズルゲームのようなものを作るのもできるようになりました。

ーーそっちのパズル会社の話も興味津々ですけど。パズル作りの合間にボードゲームを作ってると?

新澤そうなります。

ボードゲームのきっかけは友人との旅行

ーーボードゲームをやるようになったきっかけって何ですか?

新澤10年ちょっと前に友達と旅行に行く機会があって。ボードゲームを持って行こうと思いまして、高円寺にあるすごろくやに行きました。

ーーボードゲームのきっかけで必ず名前が挙がるお店です)。何のゲームを買ったんですか?

新澤:まずは『カタン』。あと今となっては珍しいゲームですけど『バボーン』ですね、『百科審議官』とかを作った千石一郎さんのカードゲームで。あとは『ニムト』ですね。

ーー『カタン』があるってことは、4人旅行だったんですね。

新澤:いや……3人ですね。お店でも「3人で遊べます?みたいなやり取りしたの覚えてますね。3人カタン。

ーーそれが初ボードゲームですか?

新澤:初ですね。

ーー旅の前にお友達2人と一緒にすごろくやに行ったんですか?

新澤:いや、1人で……旅行だから何か買って持って行こうかなと。

ーーん? 旅行だからガイドブック買おう、お酒買おう、お菓子買おうなら分かるんですけど、1回も遊んだことないのにボードゲーム買おうってなります?

新澤:ん〜……なんだろう……UNO』とか旅行に持って行くじゃないですか。『UNO』でもいいんですけど、何か新しいものが欲しいなぁと。それで調べて、すごろくやに買いに行ったんです。

ーー10年前だと、当時はボードゲームがテレビとかいろんなメディアで紹介されてた頃ですかね? それで影響されたとか?

新澤:ん〜どうだろう……。

ーー元々やりたかったんですかね? 旅行が丁度いいチャンスだぞ、と。

新澤:そうでしょうね。

ーー誰かに誘われたってパターンじゃなく、自分から手を出したんですね。

新澤:飽きっぽかったり、新しいもの好きで。専門店に行くのが好きなので、変な物を買ってくることがあるんです。

ーーよく分からないもので新しいものの一つがボードゲームだったと。

新澤:そうです。

趣味はルールを読むこと

ーーで、お友達と泊まりがけで遊んだボードゲームが面白くて、衝撃受けたって感じですか?

新澤:ん〜……『ニムト』はかなりやりましたね。

ーー個人的にも『ニムト』はボードゲームを覚えた頃に結構遊びました。今もゲーム会でやるもんなぁ。数字しか書いてないのにナニこれ!って思いましたよ。

新澤:衝撃でしたね。

ーーじゃあ旅から帰って、ボードゲームを買い集めるんですか?

新澤:そうですね。買い集めました。バイトはそのためにしてるみたいな感じで。

ーー遊ぶ相手はどうしてました? ずーっと旅行に行った友達とやってたんですか?

新澤:いや、旅行に行った人は大阪と金沢に住んでて。元々高校が一緒で、大学は別だったんですよ。なので3人が東京に集まることは無いですよね。

ーーほうほう。新澤さんの家には『カタン』『バボーン』『ニムト』とか他にもボードゲームはあるけど、遊ぶ相手がいないという状況ですね。

新澤:しばらくはオープンなゲーム会にたまに行ってたんですけど、……ま、遊ばずに買い続けて。

ーーハハハ……。買い続けるんですね()積みゲー。それは買い集めるのが楽しかったんですか?

新澤:ルールを読んでるのが楽しかったですね、最初のうちはどれも新鮮じゃないですか? なので、ルールを読んで楽しむみたいな。

ーーオープン会には買ったゲーム持ち込んで積みゲーを消化してたんですよね?

新澤:月に1回行けばいいほうで、ゲームはあんまりやってない……。

ーー友達いないのか?という疑問と、購入したゲームをやりたくならないのか?という2つの疑問が同時に押し寄せましたけど。

新澤:遊びたいとは思ってたんですけど、いきなり知らない所に顔出すのはハードルが高いですし。

ーールール読むのが楽しかったんですか?

新澤:読むのが楽しかったのもありますし、遊んでないので必然的に読むと言うか。

ーー変わり者ですね〜。ルール読みって楽しいのかなぁ。買い始めた頃、ルールが凄いって思ったゲームは何ですか?

新澤:たくさん欲しかったので小箱のカードゲームを買うことが多かったんですけど、その中では『ボーナンザ』ですかね。ルールを読んだ段階では、手札の順番を変えられないとか交渉して豆を手に入れるとかがよく分からなくて。その後に遊んでみて、良い意味で期待を裏切られたなと。これは凄いと。

ーー新澤さんだから、トリックテイキングの名前が挙がるのかなと期待したんですけど。

新澤:トリックテイキングはその1年後とかに触れるようになって。

ーーなんでトリテばっかり作ってるんですか?

新澤:う〜ん……さっき『ニムト』のことを数字しか書いてないのにって言ってましたけど、まさしくそうで。カードに数字と記号しか書いてないのに面白く感じるし遊べてしまうので、ダイレクトに魅力が詰まってるかなって。

ーー心に残る衝撃を受けたトリックテイキングって何ですか? トリテを作るきっかけになる一作があるのかなと。

新澤:それでいくと『パーラ』ですね。今年の秋に数奇ゲームズからリメイク出るんですけど。絵の具をモチーフにしてて、色が混ざったり、他の人が出した色を無理矢理違う色に変えたりするトリックテイキングです。衝撃的で、この店(東京・中野のフローチャート)で夜中まで遊んでましたね。

ーー『パーラ』がトリテの原体験なんですか!

新澤:はい。


ここでフローチャートのマスターがやって来て、棚から取り出した『パーラ』を持ってきてくれました。そして「あの頃はみんなで深夜3時までやってましたよ。よくプレイするんで、ちゃんとスリーブに入れてますからね。大新さんって言うと『パーラ』を遊んでるイメージかなぁ。そこからトリテ作るようになって」とのこと。

読むルールがなくなったから自分でゲームを作る

ーーゲーム作りのきっかけは何なんですか?

新澤:まずはオープン会にもあまり行ってなくて、遊んでないのでルールを読むことが多かった、と。それでルールを読んでて、もう読んでないルールが手元に無くなったので、何か作らないと(笑)。

ーーえええ?) 読むルールが無いからゲーム作り出した?ホントの話ですか?

新澤:説明書無くなったら書くしかないですよ。

ーーそんなに説明書読みたいですか)。読むルールが無くなって最初に作ったゲームは何ですか?

新澤:『卑怯なコウモリ』ですね。

ーーこのゲームは当時この店でプレイしてます。あの頃は人狼が流行ってて『卑怯なコウモリ』も正体隠匿なのかな?と思わせる雰囲気があるんですよね、全然違いますけど。

新澤:これは『ごきぶりポーカー』を遊ぶようになって、負け決めのルールに納得いかない部分があって。脱落する事なく最後まで遊べるゲームを作ろうかなと。

ーーおお! 脱落しない『ごきぶりポーカー』が『卑怯なコウモリ』なのか! そう言われるとそうですね、カードを裏向きで出してブラフがあって。

新澤:そうなんです。

ーー『卑怯なコウモリ』が2011年の作品だから、旅行でボードゲームに触れるようになったのとゲームを作り始めたのは間もないんですか?

新澤:旅行から数ヶ月……1年くらいですね。

ーー1年くらいでルール読み切って、ゲーム作ろうと思ったんですね。

新澤:そうなりますねぇ。財源は無限じゃないので。ハハハハ……。

ーー(笑)。誰かにルール読め!って命令されてる訳じゃないんで。それがゲーム作りに移行する理由になるのかなぁ。不思議だ。

新澤:読むルールはもう無いけど、何かゲームに関わっていたいと思って作り始めたんです。

ーーちなみにその頃って趣味と言うか、休みの日は何やってたんですか?

新澤:大学に行って講義を受けて……帰ったら、ルール読んだり(笑)。

ーーホント? そんな人いませんよ〜! ボードゲームのルール読むのが趣味なんですか?

新澤:そうですね。

ーー今もルール読みますか?

新澤:今は、その頃ほどは読んでないですねぇ。今は、勉強のために読んでいる部分もあります。作りたいジャンルのゲームは事前調査と言うか、何個か読むようにしてます。

ーーじゃあ、今は休みの日って何をしてるんですか?

新澤:休みのときは、よくホテル泊まったりしてます。

ーーは? 部屋が汚いんですか?

新澤:部屋が汚いのもあるかも知れないですけど(笑)、気分変えてそこで作業したりとか。時期的にホテルが安いじゃないですか、ちょっと面白いなって思って。

ーーはぁ……。休日の過ごし方もなかなか変わってますね。

デビュー作がすぐオインクゲームズでリメイク

ーー『卑怯なコウモリ』の反響はどうだったんですか?

新澤:ありがたいことに広めてくれる人達がいて、そのとき作った100個は完売しました。

ーーそのうちの1つがこのフローチャートにあるんですね! この店も凄いな……。その後にオインクゲームズからリメイクされる、と。

新澤:はい。もうすぐに話が来て、凄いスピードで作られましたね。佐々木(隼)さんと会って、出そうと。

ーーオインクゲームズも今みたいに有名じゃない時期(2012年)ですよね。他人のゲームをリメイクする第1弾ですかね?

新澤:そうですね。

ーーそれってビックリしませんでした? 今なら大手メーカーがリメイクするのは良くありますけど、ゲームマーケットの規模も小さくて遊んでる人数も少ないのにリメイクしようって話が来るって。しかもデビュー作で。

新澤:ビックリしました。面白いと思って出してる訳ですけど、初めて作ったので製品化するところまでは考えてなかったので。それが次も作ろうというモチベーションになりましたね。

ーー認めてくれる人がいると。次に作ったのは何ですか?

新澤:『バベルの塔』ですね。

ーー『バベルの塔』は方向性がガラッと変わってアブストラクト。

新澤:あの頃小さいゲームが流行ってたんです。『藪の中』とか『ラブレター』とか。『ラブレター』は少し後だけど、自分でも小さいゲーム作りたいと思ってですね。なので10枚で作ろうと。

ーーコンポーネントの少なさありきで作ったと。でも2作目にしてカードじゃなく木製の板って変わってますよね。2作目にして素人の仕業じゃないなと。

新澤:なるほど。カードじゃなくタイルにしたいと思って、常に木片を持ち歩いてて。

ーー新澤さんの作品群を振り返ってもアブストラクトは珍しいジャンルですね。

新澤:時間を空けて『タワーチェス』は作りましたけど、そうですね。このときはいろんなものを作ろうと思っていた時期で。アイデアはあふれていたので、出せるかどうかは別の話ですけど。

ーー読むルールが無くなったから作り出したという割には、自発的に作りたいという欲があるんですよねぇ。

新澤:でもこの頃もルールブックは供給され、無くなり、作り……というサイクルは繰り返してたんですけどね。

ーー『バベルの塔』の反響はいかがでした?

新澤:良かったですね。小野(卓也)さんがやってるTable Game in the Worldのサイト内で、ゲームマーケットの新作評価アンケートの結果も上位に入りました。

ーー少ないタイルでルールもシンプルで美しいですよね。でも2021年の『トッペン』までリメイクされてないと。大手メーカーが出しても良さそうなのに。

新澤:そうですか? あんまり作ってないので知られてないのかも。

ーー当時のゲームマーケットの新作って面白かったとかのウワサは耳にするけど、50部しか作られてないからゲーム自体見たことないとかありましたもんね。

新澤:ホントそうですねー。

ーー面白いのに埋もれてるボードゲームも多いんでしょうね。

カワサキファクトリーに影響を受ける

ーーこの次が何ですか?

新澤:『落書きプラネット』です。

ーー星座みたいに点でイラストを描いて他人に伝えるパーティーゲームですよね。これも振り返ると新澤さんのゲームの中で浮いてるんですよ。

新澤:なるほどなるほど〜。いろんなの作りたかったんですよ(笑)。『バベルの塔』はあんまり自信無かったんですけど、テストプレイ会をこの店でやったときにカワサキファクトリーの川崎(晋)さんと出会って「面白い」って言われたので出したってのがあって。その時にカワサキファクトリーはいろんなタイプのゲームを作っていたので、それで自分もいろいろ作りたい欲が湧いてきたんです。

ーー川崎さんが背中を押してくれたと。『バベルの塔』は自信無かったんですか?

新澤:自分は面白いと思ってましたけどミニマム過ぎて、世間的にはどうかなぁと。川崎さんのことは知らなかったんですけど、後で調べたら凄い経歴の人で。確か『ローマの執政官』のテストプレイをこの店(フローチャート)でやらせてもらいました。

ーーこのフローチャートも歴史がありますねぇ〜。新澤さんのボードゲーム史そのものの店ですね。ボドゲカフェで言えばJELL JELLY CAFEがまだ無かった頃の話ですよね。

新澤:出来たばっかりとか。ジェリカフェにも通うようになるんですけど。

ーー『落書きプラネット』の次に作ったのは何ですか?

新澤:『貧乏陶芸家』になりますね。

ーー出た! 衝撃的なゲームでしたよ。競りで使うのがお金じゃなく粘土ですからね。バカだなぁと。

新澤:あの頃は『モダンアート』とかオークションゲームにハマってまして。競りと聞けばとにかくやっていました。

ーーなんで粘土の重さで競りをしようなんて発想になるんですか?

新澤:コイントークンを作る費用って結構掛かるじゃないですか。自分が資金無いという皮肉ですけど、そこから始まって、その問題を解決する為に粘土でやろうかなと。

ーー製作費を抑えるというのもあっての粘土なんですか!

新澤:あとは可変性の通貨が欲しかったというのもあって。自分で割合を決められる物があったら面白そうですし。

ーーあれって何部作ったんですか?

新澤50部です。

ーーそれだけ! やってない人のほうが多いんですね。ネットで検索しても『貧乏陶芸家』のレビューはもちろん、情報もあんまり無くて。この10年間オークションゲーム作るときに真似してる人もいないっぽいんですよ。例えば、砂の重さで競りをするとか『貧乏陶芸家』を知らずに似たシステムの競りゲームを作る人がいてもよさそうなのにそういう人が出てこない。相当バカな発想なんですよ。どこかがリメイクしないですかねぇ。

新澤:リメイク作りたいですけどね。

ーー次が何ですか? 『タイムカプセル』?

新澤:それは『貧乏陶芸家』と同時にゲームマーケットで出しました。

ーーえ? 2つ同時!? しかも両方競りゲー(笑)。

新澤:とにかく出したかったので……。

ーー半年後のゲームマーケットに出すとかじゃないんですね?

新澤:そういうのはまったく考えてない時期で。今も考えてないですけど、出したいときに出そうと。このときにアートデザインの菅原さんという女性に会って、これ以降のアートワークは全てお願いしてますね。このゲームではカードのイラストを描いてもらいました。

ーーそれまでのアートワークは?

新澤:自分で。『卑怯なコウモリ』とかイラストも自分で描きました。『バベルの塔』のロゴは版画なんですけどそれも自分でやっています。

ーーそんなところまで1人で……

ゲームが飽きた人に提供するゲーム作り

ーーこんな機会ないので制作順にゲーム作りの話を訊きますよ。次は?

新澤:やっと『ルイス』ですね。さっき言った『パーラ』に出会ったので。

ーーやっとトリックテイキングが出ました。『ルイス』って自分のカードは裏側の色だけが見えてて、他人からは色も数字も全部見えてるというトリックテイキングでしたっけ? 随分トリッキーな変わったルールですよね。

新澤:トリッキーですよね……。あ、思い付いたのは『ルイス』が先ですけど、ゲムマで出したのは『ドイス』が先でした。

ーーいずれにしても両方変わったトリテですね。初めて作るんだし、もっと分かりやすいトリテでも良さそうなのに。

新澤:なんでしょうねぇ倦怠期というサークルの方針が、ゲームに飽きた人に提供するゲームを作ろう、倦怠期に陥ったときに提供するゲームを作ろう、だったので……。

ーー普通に飽きた人はウチのを遊んでくれという狙いがあったと?

新澤:そうですね、狙い通りになってたかはわかりませんけども。

ーー『ドイス』なんて、よく作りましたね。トリテ初めて作る人が数字と記号をバラバラにしようって思わないでしょ。あんなアイデアの似たゲームって他にあるんですかね?

新澤:あるらしいんですけど、どれも数字と記号を同時出しなんですね。『ドイス』みたいに次も片方が残るというのは無いみたいで。

ーーどういうときにゲームのルールって思い付くんですか?

新澤:ん〜……つねに考えています。

ーーそうですよね、このインタビューでみんな同じ事言うから訊かないようにしてるんだった。ずーっとゲームの事を考えてるんですよね。愚問でした。

:だからどういうときに思い付いたかってのに縛られないようにしています。

ーートリテに関してはどういう発想なのでしょう? 他のゲームと比較して得点方法が違うとかのレベルじゃなく、斜め上のアイデアで視点が違うんですよね。

新澤:なんなんですかね、日頃ルールを読んでて問題意識高まって、ここはこうしたいとかの蓄積の結果なんですかね。得点システムを考えるよりはゲーム自体の構造を破壊する。良く言えば、今までにないものを作ると言うか。

『マスクメン』誕生秘話

ーー次は何ですか?『JELLY!』ってこの辺ですか?

新澤:そうです、そうです!

ーー JELLY JELLY GAMESの第1弾ですかね。これはどういう流れで作ることになったんですか?

新澤JELLY JELLY CAFE7色でゲームを作りたいから作ってよ、みたいなことを白坂(翔)さんに言われまして。数字は入れたくないので、色だけで遊べるルールを7種類、という。

ーーお題というかイメージだけは決まってたんですね。オインクの佐々木さんも新澤さんの凄さに気付くのが早かったですけど、ジェリカフェの白坂さんの審美眼と言うか選球眼も凄いですよね。この時点でトリテとしては『ドイス』と『ルイス』しか作ってない人にゲームを作らせようと考えたわけでしょう? 下手するとその2つが出る前の依頼ですかね。何が評価されての依頼だったんですか?

新澤:この頃渋谷のジェリカフェによく通うようになって。さっき言ったアートワークやってる人が働いてたのもあって。白坂さんがお店にいらっしゃったので、話すようになったんです。

ーー昔は白坂さんがドリンク作ったりしてましたよね。

新澤:そうそう作ってました。

ーーいろんな話をする中で、ゲーム作ってるならウチで作らない?って話になるんですか?

新澤:そうですね。

ーー JELLY JELLY CAFE渋谷本店も新澤さんの歴史に欠かせない店じゃないですか! だから『タイムカプセル』とか新澤さん作の古いゲームが置いてあるんですね。

新澤:そうですね、店に持って行って、ゲーム置いてたので。

ーーでも一気に7つもルール作るの大変じゃないですか?

新澤:いろいろ作りたい時期だったので。でも、7つ全部作った訳じゃなくて、2つは白坂さんが作ってるんです。

ーーその中で自信があるルールはどれですか?

新澤:う〜ん、「カラーノビルティ」ですかね。トランプの大富豪なんですけど、数字はないので色の順番と枚数で強弱が変わるみたいな。それが後々『マスクメン』が出来るきっかけのルールになります。

ーーえっ!? 『マスクメン』の元になるルールが『JELLY!』に収録されてるんですか?

新澤:そうですね。オインクゲームズの佐々木さんから強さが変わる大富豪は面白いということで、別の仕組みで強さが変わる大富豪を作ろうということで形になりました。 強さが変わる『マスクメン』唯一無二の仕組み、じつは佐々木さんのアイディアで、僕はもっと細かい枚数のアイディアとかを出したりしてました。

ーー知らなかった! 『JELLY!』があったから『マスクメン』が生まれたのか……。新澤さんの中で名刺代わりになる、最も売れたゲームが『マスクメン』になるんですか?

新澤:そうです。多分一番売れてるはずです。

トリテばっかり考えてた時期

ーーその次に作ったのは何ですか?

新澤:ん〜なんだろう……。

ーー2人対戦の『ルアシェイア』とか?

新澤:あ、そうですそうです!

ーー自分でも覚えてないんですね。一旦トリックテイキングからは離れて2人対戦のカードゲームを作ったと。

新澤:そう言われると確かに一回離れてますね。でも、その頃に『アメリカンブックショップ』を作り始めてましたけどね。

ーーゲームマーケットでの発表がそういう順番だけど、同時進行でいろいろ作ってるんですね。ずーっとトリテには魅せられてた?

新澤:最近落ち着いてきましたけどね。またオークションゲーム出そうかなと思っています。

ーーその数年が新澤さんの中でトリテブームだったと?

新澤:そうですね。JELLY JELLY GAMESから『CATTY』が出たのも(2015年)ですし、オインクゲームズから『マスクメン』が出たのも。ありがたいことに話を頂きまして。

ーーその2つは『卑怯なコウモリ』みたいにリメイクじゃなく、イチから一緒に作りましょうって依頼なんですよね。当時、そんなゲームデザイナーって他にいました?

新澤:どうだろう……。いたのかなぁ。(白坂さんと佐々木さんと)知り合いだったというのも大きかったのかな?

ーーいやいや、知り合いだからゲーム作ってくださいとはなりませんよ。実績がないと。

新澤:そっか。そうかもしれないですね。

ーーその次に作ったのは何ですか?

新澤:もう順番は覚えてないですね。

ーー同時進行ですもんね。たぶん『ジンバブエトリック』とか『タイムパラトリックス』とかトリテばっか作ってた時期ですかね。

新澤:あと『セブンセグメントトリックス』とか『カウントアップ21』とかトリテばっかり考えてましたね。

ーーゲームマーケットでトリックテイキング作ってる人って他にも結構いたんですか?

新澤:ん〜、当時は作ってる人いなかったんですよ。『ルイス』作ってる時はゲームマーケットで23サークルとか。

ーーこんなにトリテが増えたのは何がきっかけなんですかね?

新澤:やっぱ『スカルキング』とか『ザ・クルー』でしょうね。

ーーこれだけ増えると他のサークルのトリテってチェックしますか?

新澤:しますします!

ーー例えばですけど『ザ・クルー』を見て、悔しいとか嫉妬したりするもんですか?先にやられたとか。

新澤:いや、頑張らなきゃなぁとかですよ。

ーー新しいって意味では操られ人形館の『キャット・イン・ザ・ボックス』は悔しかったりしました?その手があったか、みたいな。

新澤:う〜ん……そうだな……常時(次人)さんは毎回良いなぁって思ってます。同じタイミングでトリテを出すことが多くて。お互いで面白いねって言い合ったりして。『ルイス』出した時も操られ人形館は『とりっく&でさーと』出したり。勝手に刺激もらってますけど。

資源を少なくする発想で生まれたゲーム

ーー最近の新澤さんの作品だと、『サーオボロス』が個人的には凄いゲームだなぁと思ってるんですけど。オークションゲームは『タイムカプセル』と『貧乏陶芸家』しか作ってこなかったですよね。

新澤:トリテを考えることが多かったんで。

ーーなんで急にオークションゲーム作ったんですか?

新澤:第2次競りブームで、自分の中で。たまたまアイデアがあったんです。

ーー競りで言った数字をカードの上に木製コインを置いてチェックしていくってアイデアはどこから来てるんですか?

新澤:カワサキファクトリーの川崎さんの影響もあって、あまり資源を多く用意しないでなんとかしようと。川崎さんの『カルタゴの貿易商』とか物品と点数が同じ物で、さっき言った『ボーナンザ』もお金と豆がカードの裏表で同じですけど、なるべく少なくするというのを意識して作りましたね。

ーーそれって制作費を抑えるため? 少ないと何が良いんですか?

新澤:結果的に制作費は安くなりますね、第一には考えてないですけど。あとは複数意味を持たせると、2択しかなくても別のことを考えた上で2択を選ぶじゃないですか。2択を考えているようで、実は3つ考えているっていうのが好みで。

ーー……ん〜、まったく理解出来てませんけど笑)。

新澤:『セブンセグメントトリックス』で言えば、棒は予想にもなるし、点数にもなるし、自分の数字を書き換える物にもなると。点数を与えない為に棒を使って巨大な数字にするとか、勝ちたいから単純に数字を大きくするとか、棒を使って数字を変える結果は同じでも考えるパターンはあるのが好きなんです。

ーーその点は『サーオボロス』もそうですね、他の人に数字を言わせない為に大きな数字を言ったり、自分で数字を埋めたいから言ったり。

新澤:そうですね。単純に言いたいから言うってのもあるし、落札する為にも数字を言うし。

ーーコンポーネント少なくって言ってましたけど、『サーオボロス』はもっと木駒の数を減らせるでしょ。

新澤:確かに(笑)。数じゃなく種類数ですね、減らそうというのは。カードに書かれた数字って建物を建てる資源として見ることも出来て、普通なら木材や石があるわけですけど一元化しようと思って。一元化するけど種類は増やしたいので、数字が種類数なんです。

ーーうわ!『サーオボロス』のカードに書かれた数字はリソースなのか! 数字が全て揃ったら、そのカードが建物として完成ってイメージか〜。表面上は単なる数字だけど、木材とか石とかレンガなんですね。なるほど。

作ったゲームは約30タイトル

ーー今もいろんなジャンルのゲーム作りたいって欲はあるんですか?

新澤:そうですね、ありますね。年によってアイデアを出す年、そのアイデアを順番に作っていく年に分かれてるんですよ。2年分のアイデアを翌年とその次の年に完成させて出している感じです。

ーーアイデアがボツになることもあるんですか?

新澤:まるっきりボツというのは無くて、ずっと寝かせていつか役に立つだろうという感じですね。まだ一つ足りないとか調整が上手くいってないとか。似た物が世に出ちゃうとボツです。

ーーこのトリテブームはヤバいじゃないですか!

新澤:出てないのを作ればいいかなと。

ーー新澤さんって今までボードゲームいくつ作ってるんですか? 情報サイトでも全て網羅されてないんですよ。

新澤30個くらいじゃないですか?

ーーリメイク含め30くらい?でもゲーム作り始めて10年ですから結構なハイペースですよね。

新澤:半年ごとにゲームマーケットは必ず出て、1個は新作を出そうとやってたので。

ーーさらに2つ同時に発表することもあって。あと、ボドゲーマとかに載ってないけど作ったゲームもありますよね?

新澤そうですね。『ペアーズ』で切り絵のデザインのハニーハッターデッキでバリアントルールを書いたりとか。

遊んで面白くなくても読んで面白いゲームもある

ーー遊ぶ視点でもお答え頂きたいのですが、ここ数年で面白かったゲームは何ですか?

新澤:『プロジェクトL』とか。重いのだと最近じゃないけど『ツォルキン』ですかね。最近のって覚えてないですね……。最近あまりボードゲームやってないのもあって。

ーー遊ぶ欲は無くなっちゃいましたか?

新澤:う〜ん、読む欲はあるんですけど(笑)。

ーー確かに『プロジェクトL』面白いですよね。それって遊んで面白かったんですか? ルール読んで面白かったんですか?

新澤:読んで面白いなぁと思いました。

ーーそもそも読んで面白いって何ですか?

新澤:さすがにボードゲーム慣れてきたんで、読めばゲーム内容が分かりますよね。それで、コレとコレの組み合わせは面白そうだなって感じる時は読んでて面白いですね。結局遊んであんまり面白くないけど、説明書が面白いってこともあるので。

ーーそんなのありますか! 読む方が面白いとか達人の域ですよ!

新澤:新しい試みをしようとしてる、それを感じられる説明書が読みたいです。

ーー新しい試みに惹かれるんですね。例えばですけど『宝石の煌き』って遊ぶと面白いし、初心者も入りやすいし良いゲームだとは思うんですけど、シンプルな拡大再生産だから新しさは無いですよね? そういうのって説明書読んでるときに心ときめかないんですよ。そういうことなのかなぁと。

新澤:そうですね。遊んで面白いのと読んで面白いのって違うのかなぁと思っていて。『サーオボロス』は自分では新しいと思ってるんですけど、そういうのを作ってるので新しいのを作ってる説明書は面白いなぁと。

ーー『サーオボロス』の新しさに気付けよと(笑)。でもあのゲームって遊ばなくても、インストしただけで満足出来ますよ。ルール説明がすでに面白い。

新澤:あー、なるほどー。

ーー新しいことやりたいんですか?

新澤:そうですね、飽きっぽいところもあるので。

ーーゲーム作りは飽きてないですよね?

新澤:なので、ゲーム作りが合ってるのかなぁと思います。もし、いろんなジャンルが許されてないとやってないかも知れないです。

ーー自分のゲーム遊んだ人に何って言われるのが嬉しいですか?

新澤:う〜ん……面白いいや、新しいって言われるのがいいかな。

ゲームを作り続ける理由

ーー今後ですけど、何か予定はありますか?

新澤:『アメリカンブックショップ』の新版と『カウントアップ21』をリメイクした『シンデレラのダンス』が出ます。

ーーあとは海外メーカーからは何かのリメイクが出るんでしたっけ?

新澤:『タイムパラトリックス』のリメイクで『ゴーストオブクリスマス』がもう出てますね。

ーーすみません、発売済みでしたか。

新澤:クリスマスキャロルがテーマで、カードを出す3ヶ所が過去・現在・未来になってて良く出来たリメイクだなぁと。

ーー海外メーカーからのリメイクってこれが初めてになるんですか?

新澤:オインクですけど『マスクメン』の海外版があって、『CATTY』をリメイクした『9lives』が今年出てます。

ーー新澤さんってあんまり宣伝に積極的じゃないイメージなんです。多くの人に遊んでもらいたいとか、制作費回収したいって思いはないんですか?

新澤:制作費の回収は出来ればですね。と言うか、あまり考えなくなりましたね。ゲームを多くの人に遊んでもらいたいと言うよりは、分かってくれる人がいればいいなぁってくらいです。

ーー長年ずーっとゲームを作り続けてるのは何故ですか?

新澤:なんでですかね。面白いと感じてくれる人がいるからですかね。

ーーこうして今までの作品を一つ一つ振り返ってみると、人狼ブームとか協力ゲームがウケたりとかレガシー系とか世間のボードゲームの流行りはありましたけど、新澤さんはほとんど影響受けてないですよね?

新澤:自分のブームには流されてるかも知れないですけど。長く遊べるゲームを作りたいなぁとか思ってやってるので。

ーーなるほどー、本日は長々とありがとうございました!


なんとも芯の部分をはぐらかせるのような雰囲気の人で、冗談でごまかされた感はあるんですよね。読むルールが無くなったからゲーム作り始めたってのは、照れ隠しでしょう。絶対に何かあると思うんだよなぁ。じゃないと大変で面倒なボードゲーム作りはここまで続かないですよ。とにかく不思議な人だ。

倦怠期のゲームは入手困難な作品も多いですが、ボードゲームカフェとかに置いてあったりするので一度は遊んでみてください。今なら『マスクメン』『ルイス』『すべてがちょっとずつ優しい世界』『スリーブロックス』などは普通に購入できます。もし新澤さんのゲームが未経験なら、ボードゲームの価値観がちょっと変わるくらいのアイデアに触れることができるでしょう。ボードゲームのルールオタクだけあって、どのゲームにも「え!」という驚きが隠れているんです。

今回の取材場所のフローチャートならデビュー作からかなりの数のゲームが置いてましたよ。まさか『貧乏陶芸家』が遊べるなんて……。ここまで新澤さんのゲームを置いてる店は特殊ですけどね。