ゲームマーケットで売られているゲームで、もっとも多くの印刷を手掛けている会社はどこか知ってますか? 答えは萬印堂です。
そんな萬印堂の本社へ伺って、なぜボードゲームの印刷をやるようになったのか、印刷するときの注意点などを聞かせてもらい、実際に目の前で印刷もしてもらいました。
さて、同人ゲームのインフラを築いた会社の内側とは…。
棚に並んだ萬印堂印刷のゲームたち
会社2階に上がると、今回話を聞かせてくれる萬印堂の田元将司さんが出迎えてくれました。「ではコチラで」と案内された玄関の真正面にある部屋のインパクト! 大きな棚にボードゲームがいっぱい並べてあるんです。
ーーこれって全部ここで印刷された物ですか?
「そうですね。500個くらいあると思います。最近はお客様との打ち合わせや無料相談会をリモートでしているので、背景は合成ですか?って訊かれることが多いですけど、本物です」
ーーあのゲームもこのゲームも萬印堂の印刷なのか〜………。見入っちゃいますね。
すべてはゲームマーケットのカタログから始まった
ーー早速ですけど、なんでボードゲームやカードゲームの印刷やるようになったんですか?
「元々はボードゲームとは関係のない印刷をやっていまして、その昔は普通の印刷屋でした。この辺の東十条は近くに王子駅がありまして、王子製紙っていうメーカーの工場があったのでそのお膝元になります。工場の周りに紙屋さんがいっぱいあって、その周りに印刷所さんが点々とあったという町が東十条なんです。そこに萬印堂もあったと。萬印堂の大元は1958年に設立されて、ここの近所に東京1号店ができて、今の場所に移転してくるんですけど、しばらくは伝票とか名刺とか一般物と呼ばれる普通の印刷をしていました。そして……作道さんですよね」
ーー作道昌弘さん。現在は萬印堂の顧問の。
「弊社のキーマンとなるのは作道さんですね。作道さんは元々違う仕事をしてたんですけど、萬印堂を立ち上げた作道さんのお父さんが亡くなって2代目として引き継ぎました。で、作道さんが元々ゲームが好きだったんですよ。それで仕事とは関係ないところ、ゲーム会で草場純さんと出会うんです」
ーーゲームマーケットの創設者ですね。
「それで草場さんから、ゲームの印刷やらないか?という話に発展していくんです。それが2000年くらいです」
ーーどういう流れですか? 2000年だとゲームマーケットの1回目の時とか?
「その頃はまだ作道さんもゲームマーケットに遊びに行ってる程度で。2002年に草場さんからカタログの印刷をやってくれないかと依頼がありまして、ゲームマーケットに関わることになるんです。ちなみに萬印堂が初めてゲームマーケットに関わったカタログがこれです」
ーーわ! 貴重な物が……参加してるサークル1つも知りませんね。今とは規模も違うし。バネストとかメビウスとか奥野かるた店……今もあるお店だけは分かりますけど、20年前から出展してたのか〜。
「そして草場さんから、カタログやれるならゲームの印刷もできるでしょと。カタログのデザインをやっていた方の紹介で作ったゲームが遊宝洞の『伝説のかけらサーガ』です。萬印堂が初めて作ったゲームになります。それでこのゲームを見た人が出来良いね、印刷が萬印堂?ということで口コミで広まっていって、あれよあれよという間にこのような棚の状態になってます」
ーーちなみに会社としてはゲーム以外の印刷はやってるんですか?
「やってはいますが、8:2か9:1でゲームの印刷がほとんどです」
ーーここまでゲームに特化してる印刷会社って他にあるんですかね?
「ほとんど無いと思いますね。他にもゲームの印刷をやってらっしゃる会社はいくつかありますけど、そもそも日本では少ないので。最初にやったのが萬印堂になります」
ーー印刷物としての出来が良かったから、同人ゲーム作るなら萬印堂って認識が広まったんですかね?
「そこもあるんですけど、作道さんがゲーム好きだったというのが根本にあると思います。この人分かる、信頼できるというのがあって」
ーーそっか! 作るときに細かい部分も理解してくれたと。
「そうですね。当時はゲーム印刷の依頼も少なかったので完成品を一緒に遊んでたらしいので。それで、アレ面白かったね〜というやり取りがあったりとか」
ーーゲーマーが印刷やってる状況だ。今は遊んでられる数じゃないですよね?
「そうですね、ハハハハ、残念ながら。でも毎日のようにお客様とメールでやり取りしたり、時には電話ですとか、誠意をもって対応するようにと心掛けてます」
ーー依頼は個人ばっかりなんですか?
「8割が一般の個人の方です」
ーーってことは、企業からの依頼もあるんですか?
「ございます。最近増えてるかな、という印象です。会社の中でゲームを用いて新人研修をしたいという方がいらっしゃって、作ったりしています」
ーーそういうのを除けば8割が個人。ゲームマーケットに向けての発注が多いんですか?
「はい!」
ーー依頼って年々増えてるんですか? 他にもライバル印刷会社も増えてるだろうし。
「新規でご依頼頂いてる方は明らかに増えてます。その分、作るのを辞めてしまった方も多いとは思うんですけど……。コロナ禍の巣ごもり需要でボードゲームをメディアが取り上げてくれたりとか、YouTuberやVTuberの方が遊んでいるところを動画に上げてくれたりとか。その辺が影響したのかは分かりませんけど、自分も作りたいと思った方が萬印堂に問い合わせして頂いたというのが多かったです」
ーー2020年から発注が増えたという状況なんですか?
「いや、弊社の売り上げという意味ではコロナ禍前が一番高かったです」
ーーゲムマも2019年秋までは回を重ねるごとに入場者も増えてましたからね(ゲームマーケット2019秋の初日の来場者が過去最高の1万6300人を記録)。
「そうですね。そこからガクンと落ちたんです。でも、新規でゲーム作りたいんですけど、というお客様はまだまだいらっしゃいます。ボードゲームの熱は冷めてないなと」
ーー直近のゲームマーケット2022春で言うと、萬印堂の印刷したゲームって何個あるんですか?
「大体、200くらいです。旧作も含めてですね」
ーーうわっ、あのイベントで売られてたゲームの200種類がここで印刷されたヤツなのか〜。
「今回は萬印堂も出展しまして、企画として2022春向けに作られたゲームと中止になったゲームマーケット大阪向けのゲームを合わせてこれだけ作りましたよとズラーっと並べたんです。そこに100個ちょっと並べまして。ただ、弊社でやってるベーシックパック(カード36枚までの50セット)の作品は並べなかったんですね、並べきれないので。それも並べれば200個くらいあったでしょうね」
「ゲームマーケット2022春」始まりました!!
萬印堂は【A26】です。
ゲーム製作に関する無料相談会や、会場限定価格でゲームパーツも販売中!今回のゲムマに向けて印刷したゲームも展示してます!
ちなみに、ロゴをリニューアルしました!#萬印堂 #ボードゲーム #ボドゲ #ゲームマーケット pic.twitter.com/ut9KTeIjVu
— 萬印堂 (@manindo_game) April 23, 2022
ゲームマーケット2日間
来場ありがとうございます❗️
ロゴマークを刷新して、今回が御披露目でした。ゲームマーケットと共に20年の節目です❗️ pic.twitter.com/eDAUM0mckx
— 作道 昌弘 (@sakudou_m) April 25, 2022
ーーそれは見ればよかったなぁ。ゲームマーケットのカタログみたいな展示ですね。それが今年作ったゲームですよね。ピークの2019年だとどれだけ作ってたんですか?
「600近かったはずです。その年は開催ギリギリまで対応してました。納品遅れるんじゃないかと、嬉しい悲鳴でしたけどギリギリまで仕事してた記憶はあります」
ーー1年で600種類! ここだけで600ですもんね。他の印刷所に頼んでる人もいる訳で、全体だといくつあるのやら……。個人的にボードゲームに触れるようになった2009年頃って、すごろくやの丸田さんが「ドイツが本場で、ドイツでは年間300タイトルも新作ボードゲームが出てる」って言ってるのを見て驚いたんですよ。もう日本は超えてるんですね。
「我々が携わってるのは同人ゲームが多いので。ドイツの300というのは売れてる物でしょうから。氷山の一角、売れてる物の頂点がそれだけあって、その下にはもっともっとあるんじゃないですかね」
ーードイツでも下のほうがそれだけ盛り上がってるのか、日本だけ異常なのかは分かりませんけどね(笑)。
「同人というもの自体が日本の文化の一つだとは思うんですけど、我々の様な会社があるから実現できてるのかなぁとは思いますね」
ーー間違いなくこの20年間アナログゲーム界を相当支えてきた会社ですよね。
3枚だけホログラム印刷にしたいという依頼に…
ーー1枚1枚違うカードを印刷するのが大変なのに、少数でも作ってくれるとかよくやるなぁと(笑)。大量に作るんじゃなく、個人ですからね。
「いやぁ〜、おっしゃる通りなんですけど。ただ、同人と呼ばれるゲームって1つ1つが作品なんですよね。個人の方が作られた1つの芸術で、それを世に出したいという強い気持ちや込められた思いがありますので、我々もしっかり応えなきゃいけないと。せっかくだから良い物を作ってあげたいというところから、データが来たものをただ作るのではなく、ここはおかしいので直したほういいですよとかご案内して」
ーールールとかにも口出しするんですか?
「いや、さすがにそこは。ルールに関しては基本ノータッチです。我々が受けるのは(ルールが)完成したものですね。ゲームができたので最終的に印刷してください、というところから我々はタッチしますので」
ーー印刷のプロとしてのアドバイスをする、と。
「はい。ゲームを作るのは結構費用が掛かるので、手元に戻ってきた物が残念な物だとその人もしょんぼりしちゃうと思いますので。そういった気持ちは分かるので、できるだけそういうのは避けたいという気持ちで。プロの意地と言いますか」
ーー具体的には、この色味はダメだよ……とかですか?
「そうですね。例えばですけど、この色の表現が難しいという場合は、この色でどうですか?とか」
ーーそれは相談の段階で言うんですか?
「はい。最終的には金額に跳ね返ってくるので。今まで印刷頼んだことない一般の方ですと金額に驚かれたりしますので、妥協案というかこちらの方がお安くできますよとか、ルールに触れない程度にご案内する場合もあります」
ーールールに関わることもあるんですか?
「カードが100枚のゲームを作りたい、と。枚数が多いのでお値段も高くなりますよね。ルールを変えれば減らせますねとか」
ーー安くするための提案かぁ。
「ルール以外であれば、カードの厚さが弊社では3パターンあるので、ワンランク落として薄いのにすれば安くなりますよとか。あとは、トレーディングカードゲームを作りたいという方が100枚中3枚だけホログラムが入ったキラキラしたカードを作りたいと。それはメチャクチャお金掛かるんでやめたほうがいいですよ(笑)って止めたりですね」
ーーここでホログラムの印刷ってできるんですか?
「HPには載せてないですけど、そこは印刷屋なのでできますね。ホログラムは個人の方が作られるには金額がまったく見合わないので、儲かったらやりましょうと止めたことはあります」
ーーゲームで印刷するものはカード、ボード、説明書、チップ、箱。これ以外の印刷ってあるんですか?
「ほとんどそれで全部ですかね。ここにサンプルを置いてます」
ーー打ち合わせで見せるためにサイズとか書いてあるんですね。ハート型のチップもあるのかぁ。萬印堂でこんな形もやってくれるんですか!
「はい。ここにある物はお客様からこういうの作れないかなぁとご相談頂いて、それで実際に作った物をラインナップとして加えています。それでやっていたらいろんな物ができてしまって。円形だけでも1、2、3、4……え〜っと8種類ですか」
ーーここに無い形もお値段次第では作ってくれるんですよね? 例えば星型とか。
「余程複雑な形じゃなければ……。例えば単純な物で、楕円形が欲しいと言われれば作れます」
ーー逆にできないことを注文したくなりますね。最近多い注文とかあるんですか? 流行りみたいなのは。
「ダブルレイヤーです。ボードが2段になって段差があるタイプの。増えてきてますね。もちろん弊社でもできます」
ボドゲ好きなら思わずテンションが上がる「ダブルレイヤーボード」。萬印堂でも作れますよ!
形状や大きさ等、ある程度は自由に作れますが、くり抜く大きさや幅に制限はあり、費用は通常のボードよりも結構お高めです。
ご検討の際は、ぜひご相談ください!#萬印堂 #ボードゲーム #ボドゲ pic.twitter.com/iNMC42OuUF
— 萬印堂 (@manindo_game) May 30, 2022
ーーボードやチップ以外だとどんな打ち合わせになるんですか?
「例えば『ボブジテン』シリーズがすべて入る箱を作りたいというご相談がありまして、斜めに見せるこのような形はどうでしょうかと私が提案しました。キュッと詰めればまだシリーズが続いても入りますし」
「ボブジテンすとれーじ」
その名の通りボブジテンシリーズが最大12個入る収納箱。 pic.twitter.com/VQv3gTdeja— つかぽん@たちまちB13 (@Tukapon00) April 15, 2022
ーー『ボブジテンすとれーじ』ですね。箱を売るっていう今年のゲームマーケットの中でもかなり変な企画でしたけど、入れ方のアイデアを提示するのか〜。なるほど。
「他には『モンスタートレーダーBG』ですと、お客様から紙タイルを綺麗に収めたいということで。それで私がこのような形を提案しまして、サイコロも真ん中に置けるように仕切りを工夫しました。この仕切りも大変でした」
ーーみんなのわがままを叶える結婚式のウェディングプランナーみたいですね(笑)。
遊んだボードゲームは数個?
ーー田元さんは個人的にボードゲーム結構やるんですか?
「私は正直言うと……全然やらないんです」
ーーえ、えっ??? ここにあるゲームやってないんですか?
「ほとんどやったことないです」
ーーえ〜〜〜っ? そんな……。
「私はずっと印刷業界にはいるんですけど、ボードゲームは知らずに数年前にここに来まして。なので印刷の知識だけで働いてる感じで、いろんな苦労を体験しながらやっているところです。で、相談する側の気持ちも分からなきゃいけないので勉強中でございます」
ーー会社の人と遊ぶという暇は無いんですか?
「その機会は設けました。入社後にゲーム会をやりたいとお願いして、作道さんが持ってきたゲームをやりましたね」
ーー何のゲームですか?
「『ザ・クルー』をやりました。社員でプレイしたんですけど、最初のミッションもクリアできませんでした(笑)。『カタン』とか『カルカソンヌ』といった有名どころもまだプレイできていないです」
ーーそうなんですか。それ聞くと、あれ?そんな人に相談してて大丈夫なのかと思っちゃいますけど(笑)。
「皆さんもそうなると思います(笑)。でも、そこは知識でカバーしています。あとは相談会で知識は蓄えて、と。もちろん、時間を作って実際にプレイすることもしています」
ーー田元さんってどういう立場、役職なんですか? ゲーム知らなくて大丈夫なのかと気になって。
「営業です。お客様とやり取りすることが多い立場になります。なので、当然このゲーム知ってるよね?という感じで言われて、名前は知ってますとかで対応しています。もちろん知らない物は知らないと伝えますけど。この後ろに並んだ中で遊んだのはまだ数個です」
ーーアハハハ。確かに世の中のゲームを全部遊ぶのは無理ですからねぇ。でも、打ち合わせしてて、完成したらこれ遊びたいなぁとか思わないんですか?
「思いますね。でも完成した物がここにあればいいんですけど、一部のパーツは他で発注してたりとか結構あるんですよ(笑)」
ーーそっか!箱しかないパターンもあれば、カードだけ萬印堂に頼んだとか。
「そうなんです。面白そうと思ってて前に実際あったのが、中身は全部揃ってて説明書だけ無い(笑)というのが……。説明書は時間掛かるから最後に自分達でやるよ〜と言われまして」
ーー打ち合わせして、印刷して、面白そうと思っても遊べないのか…。ちなみにゲームマーケット2022春で打ち合わせした中で気になったゲームって何ですか?
「キャットタワーをテーマしたゲーム(Ultimate Cat Tower)があったんですけど、クリップを足場にしてヒモでネコのなわばりを作ってという。これは他と発想がまったく違うなぁと思ってましたね。打ち合わせでは、こうやって柱を立てたらいいんじゃないですかとか提案させて頂きました」
ーーなるほど、ボードゲームを遊ばないからこその視点もあるんでしょうね。
昔のボードゲームも再現できる
ーー印刷してるところを見せて頂きたいんですけど。
「1階でやってますので降りましょう」
ーーいろんな種類の段ボール置いてるんですね。何に使うんですか?
「ゲーム遊ばれるなら分かると思うんですけど、箱の大きさがゲームによってバラバラですよね。さらに作る個数も様々ですから、お客様にお届けするときにちょうどいい大きさの段ボールに入れるためにこんな感じになってるんです」
ーーなるほど、大きい箱に緩衝材ばっかり入ってても困りますしね。では印刷見せてもらえますか?
「せっかくなので、去年データを送ってもらったものを」
ーーうわ! 私の作った『ボックスのかんじ』ですね。お恥ずかしい。わざわざすいません。
ーー凄ぇ! 切られてない状態のカードだ〜。カードの形に裁断するのはどこなんですか?
「他の会社にお渡しして、ここに戻ってきます」
ーーこの1台ですべての印刷をやってるんですか?
「もう1台ありますけど実際に稼働してるのはこの1台です」
ーーこの場所でいろんな名作が印刷されたと思うと、感慨深いなぁ。それにしても去年送ったデータなのにまだ萬印堂にあるんですね。
「去年ですから、そりゃあ当然ですよ。弊社で印刷したゲームのデータはすべて残してますので」
ーーは? 全部データ残してるんですか!
「基本的には残してます。20年前に作った物とかはパソコンで開けないんですけど、なんとか掘り起こして作りましょうかと最近も話をしました」
ーーそんなことができるとは! さっき言った通り、個人的にはボードゲームを遊ぶようになって13年くらいで、それ以前のゲムマは知らない訳です。ウワサで「あのゲーム面白かったんだよ」とか「(今は無い)あのサークルが作るゲームが毎回面白かった」って話は聞くんですよ。それも萬印堂に印刷を頼んだサークルならデータは残ってるんですよね? この記事を読んでもう一回作ろうかなって人がいるかも知れませんね。
「そうですね。昔ゲーム作りやってた方で今のブームを目の当たりにして、またやろうと思った方とか。萬印堂で印刷したというのであれば、過去のデータをお探しして作ることは可能かも知れませんね」
ーーそれって凄い話ですね。さっきから名前が挙がってる草場さんっていろんなボードゲームを保管してらっしゃるんですよね。それのデータ版・デジタル版ですよ、萬印堂は。
「草場さんがやってらっしゃるのはアナログゲームゲームミュージアムですね。我々も何かしらの形でご協力できないかなぁと話しているところなんです」
今夜8時からアナログゲームミュージアム準備会の会議です。関係各位には宜しくお願いします。
— 草場純 (@kusabazyun) October 28, 2021
ーー印刷したゲームはいくつか置いてあるだろうとは思ってましたけど、萬印堂って想像してた以上の資料館でもあるんですね。
「そういう意味では資料館かも知れませんね。でもデータなので何かあった時にバーンと一気に消えてしまう事もあり得ますから。永続的にあるかは別の話ですけど、今ならデータはあるので作りたい方はご連絡頂ければ復活できるかも知れません。1回だけゲームマーケットに出て数十個ゲーム作って終わってしまったサークルもありますし、何とか光を当てたいなぁと思ってるんですけどね」
ーーまさか20年前のデータが残ってるなんてみんな知らないでしょ。
「こちらからやりましょうと話を持ち掛けるのも違うのかなと」
ーーHPにちょっとでも書いてあれば、依頼あるかも知れないですけどね。
「ただ、印刷機が違うので同じ色が出せるとは言えませんし、まったく同じ表現ができるとはお約束できないので。でもキャラクターが違っても中身が一緒ならゲーム性は変わらないので、そういう意味ではゲームを再現できると思いますね」
タイムラグには訳がある
ーーさっきカードを印刷してもらいましたけど、去年初めてカード印刷をお願いしまして。てっきり同じカードの束がいくつか届くのかと思ったら、そのまま箱詰めすればいい丁合されたセットになって届いたのが驚きだったんです。カード130枚くらい入ってるゲームだったんで覚悟してたんですけど。あれは印刷機が特別な仕様なんですか?
「いや、あれは1枚1枚並べて重ねます」
ーーえ! 人力なんですか?
「人力の場合もあれば機械の時もあります。ロットが小さいものは人力です」
ーーロットが小さいって何個のことを言ってるんですか?
「弊社では100個200個は小さいロットですね」
ーーそれを人がやってたのか……申し訳なくなってきた……。
「我々がやる場合もありますし、協力会社に依頼する場合もあります」
ーー萬印堂って社員は何人なんですか?
「8人です」
ーーはぁ〜…扱ってるゲーム数から考えると想像つかない大変さですね…。印刷よりそっちがメインのような。さらにチップやコマ入れたりですもんね。
「なので、発注頂いてから納品されるまで少しタイムラグが空くんですよね。1ヶ月くらい待ってもらったと思うんですけど、どうしてもそれくらい時間が必要なんですよ。箱があってカードがあってチップがあってボードがあって説明書があって、それを別々に印刷して箱に詰めるので」
チラシ印刷とは違うボードゲームの印刷
ーー田元さんは以前他の印刷会社で働いてたと言ってましたよね。
「チラシとかポスターとか普通の印刷会社でした」
ーーそちらの印刷にはそちらの苦労があったとは思うんですけど、カードの印刷って大変じゃないですか?
「まったく毛色は違いますね。分かりやすい例で言えばトランプですよね。裏面が全部共通ですから、ちょっとでも1枚の印刷が違えば何のカードか分かってしまう。カードゲームの印刷で一番大変なのはそこですね。全部同じじゃなきゃいけない」
ーー普通に遊んでるとありがたみもなく、それが当たり前になっちゃってますけどね。
「例に挙げるのは失礼ではありますけど、大量に売られている雑誌とかって100冊並べると印刷がズレてて違うんですね。スピードが重視なのでクオリティはそこまで求められてない印刷なんです。こちらは1つの作品なので、ゲームとしてはすべて同じでなければいけないというこだわりがあって、それを仕上げるというのは同じ印刷でも全然違うものですね。良い物を作ってあげたい…というのは最低限の部分になります。そのゲームが面白いかつまらないかはゲームデザイナーに委ねますけど、これは印刷悪いから良くないねって言われるのは作者にとっては違う話ですから」
ーーゲームマーケットも大きくなって、萬印堂以外にも印刷してくれる会社も増えましたよね。この会社のウリって何ですか?
「お客様との近さじゃないかなと個人的には思います。週末に無料相談会をやって、直接ここまでお越し頂いて、これがいくらになるとかこうしたら良い物ができるのではないかとお話をさせて頂いて。その後ご依頼頂いた後、これではデータがマズイぞ……となればこちらから連絡してアドバイスしますし。そういうコミュニケーションを細かく取るというのが武器なのかなと。しっかりやらなければならないと認識しています」
ーー依頼する側としては、萬印堂ならゲームのことを分かってくれるでしょって安心感がありますよね。経験と実績はあるんだから、と。
「ありがとうございます。それが……さらに値段までうまく反映できれば良いんですけどね。やっぱり萬印堂は高いってイメージを持たれてるかな、と」
ーーそうなんですか? 他は新規参入だからここよりは安くしようと思ってるんですかね。
「それもあるかも知れません。実際に弊社より安い印刷屋さんはあるんですけど、そこは大量にやるところなんですね。しかも届いたデータをそのまま印刷してたり、なんてこともある訳です。そうするとミスがあったときにそのまま表現されてしまう。我々の場合はミスを見つけたら止めて、お客様に「大丈夫ですか? 修正しますか?」と返して、了解もらってから作業を進めるというのをやってます。値段だけじゃなく完成品を見て判断して欲しいという思いはあるんですけど、なかなか難しいですよね」
ーーちなみにチラシ印刷の時って、そこまでやってました?
「いえいえ。その辺はまったく違う物の印刷として認識してます」
ーーはぁ〜、気を遣いますね。
「そうですね。ホントいろんなお客様がいらっしゃいますので、動きも様々で。連絡してすぐ返事のある方もいらっしゃれば数日後に返信ある方ですとか。対応も大変ですけれど、やりがいもそこに感じていますね」
ーーそこまでやってだから、ゲームマーケット後は達成感ありそうですね。
「完売したと聞けばお客様と一緒になって嬉しくなりますね。お客様の中には100個用意したけど1時間で完売しちゃって、やることなくて2日目はただ座ってたという話もありましたけど。でも完売は嬉しいですね」
ーーゲームマーケットあるあるですね。もっと作っとけば良かったのにって言われるヤツ。そういう人はすぐに印刷して再販するんですよね?
「ほとんどのお客様がそうなりますね。その中でも本当に売れる物にバケる方もいらっしゃって。そういう方だと海外の印刷所に依頼したりとか」
ーーそれは本当にヒット作だ。
「はい。そういう萬印堂を卒業された方は沢山いらっしゃいます」
ーー萬印堂卒業とか言うんですか! アイドルグループみたいな(笑)。でも小ロットだけじゃなく、大きいロットも作れるんですよね?
「やれるんですけど、大量になると今は海外の料金には負けてしまいます。物価や人件費の違いもありますから。今は円安もあって状況は違ってきてますけど、それでもまだ向こうの方が圧倒的にお安いです。我々も負けないようにするために、いろいろと検討中です」
同人誌専門の大手印刷所が廃業の現実
ーー個人が作ろうとしてるアート作品をミス無く完成のお手伝いをするというやり方って、依頼数が少ないから可能なんですかね? これ以上増えたらどうなるんですか? 2019年超えが来たら。
「今はそこが怖いと思っているところで……。人を増やしてというのもあるでしょうけど、今はそこまではいかないので。印刷機を新しくしたので少しでも早く印刷したりなど対策はしています」
ーー先程お金の話も出てましたが、世間的には2022年は値上げの年ですよね。萬印堂としては値上げはどうですか? 紙もインクも高くなってるのかなと。
「化粧箱は少し前に値上げさせてもらってます。この後も避けるのは難しいだろうな、というのが正直なところです」
ーー作るなら今のうちですね。
「そうですかね。値上げしてもそこを還元できるように、ゲームを作って頂きたいと思ってますので。早割キャンペーンですとか、クラファン支援キャンペーンもやってますし、初めて作りたいお客様がいらっしゃればお金の部分で負担を減らせるように支援は頑張ります」
ーー印刷してくれるだけでアナログゲーム界を支援してる会社なんですけどね。萬印堂が無かったら日本のボードゲームどうなってたんだろう。他の会社が印刷やってただけかも知れませんけど、このクオリティを保てただろうか……。
「じつは同人業界はここ数年、同人誌を専門でやってた大手の印刷屋さんがいくつか廃業してまして」
ーーそうなんですか? コミケに出す漫画の方の印刷所が……。
「その煽りは少なからず萬印堂にもあったんですけど、なんとか耐えることができて。あとはさっきも言いましたけど、巣ごもり需要でボードゲームをメディアが取り上げてくれたというのがありましたので、そこはホント救われた部分ですね」
ーーボードゲームをやっていたからこそ、と。パッと棚見ると『ワンナイト人狼』も『街コロ』も萬印堂が作ったんですもんね。
「『街コロ』はドイツに持って行った時も弊社印刷で、日本国内流通は全て弊社でやらせてもらってます」
ーー海外版は海外の印刷所なんですか。
「そうですね。世界中で販売されていますけど、日本のは弊社で製造しています」
ーー最近イラストに力を入れた同人ゲームも増えてきてインパクトあったり注目を集めたり。それはそれで良いんですけど、箱とかカードの印刷の質が良いってのもこだわりの一つです。もし『ワンナイト人狼』とか『街コロ』が萬印堂じゃなく粗悪な印刷所のゲームだったら見向きもされなくて、ちゃんと評価されなかったかも……とか考えちゃいますね。
「可能性としてはなきにしもあらずですね。でも大前提はゲームの本質だと思いますので、我々が援助できればと思います」
ーー本日はありがとうございました!
萬印堂のプロ意識をまざまざと見せつけられた取材でした。たかが同人ゲームという考え方にはならなかったから、依頼者が減ることなく長年続いているのかな、と。日本のボードゲームも数年前からゲームの賞を獲ったりして世界に羽ばたいてますが、こういう会社があるからいろんな人がボードゲームを気軽に作れる地盤を固めてくれたんですよね。裾野を広げた立役者。
萬印堂では現在ゲームマーケット2022秋に向けて、6月20日から早割Aの受付が始まっています。本来の見積り額の15%OFFになるキャンペーンです。その後は7月19日から早割B(10%OFF)の受付もあります。
その他いろんなプランやパックがあるので、自分でゲームを作ろうと思ってる人は萬印堂での印刷を考えてみてはいかがでしょうか。
詳しくは萬印堂のサイトをご覧ください。