【ゲムマ2023春】設立宣言が行われた“ゲームの博物館”アナログゲームミュージアムとは何か? 代表理事の草場純氏大いに語る!

ゲームマーケット2023春の2日目、5月14日(日)14時00分より、西2ホールに設けられた特設ブースにて、“一般社団法人アナログゲームミュージアム(以下「AGM」)”の設立宣言とトークショーが行われた。

AGM代表理事の草場純氏によると、AGMは「簡単に言えば、アナログゲームの博物館、図書館のようなもの」とのこと。その設立のもっとも大きな趣旨としては、これまで出版されたゲームと、これから出版されるゲームをできる限り納めて情報を登録し、ゲームの分類や分析に役立てようという目的があるという。

▲代表理事の草場純氏による、アナログゲームミュージアムの設立宣言

草場氏は、AGMについて、すでに用地と建物を神奈川県大磯町に確保していると語った。ただし、これは草場氏個人が所有する民家を充てたもので、立地や広さの問題から一般公開するまでに至らず、現在はゲームマーケットの出展サークルより提出された見本のゲームや、有志から提供されたゲームを収めて保管・登録する資料館という形で運営されているそうだ。

さらに草場氏は、将来的な目標を話した。都内のアクセスのいい場所に用地と建物を確保し、ゲームの収録や展示・閲覧に加え、ゲーム大会の開催や、大会のために遠方から来る人が宿泊できるような施設にしたいとのこと。

続いて、『アナログゲームミュージアムの活動と展望』として、AGM運営メンバーによる発表が行われた。日本図書館協会認定司書の高倉暁大氏、元図書館員でゲーム制作者でもある伊藤稔氏、大阪国際工科専門職大学講師の福田一史氏の3名が、現時点での活動内容について説明した。

▲日本図書館協会認定司書・高倉暁大氏は、データベースとしてアナログゲーム目録の必要性、有用性について解説

▲目録に必要な情報、注意点について説明したアナログゲームミュージアムカタロギングワーキンググループ・伊藤稔氏

▲デジタル方面での活動として、オンライン目録(AGMサーチ)について話した大阪国際工科専門職大学講師・福田一史氏

3氏ともに、アナログゲームミュージアムの活動内容のひとつとして挙げられているゲームの目録作成について、その重要性と課題を解説した。ゲーム制作者に望むこととしては、まず「ゲームに記載する奥付を必ず入れ、しっかりした情報を記載してほしい」とのことだった。

奥付の参考例として挙げられた記載項目は、以下となる。

タイトル/発行日/初版発行日(シリーズ名、拡張やサプリメントの場合はその記載も)/プレイヤー数、プレイ時間、対象年齢/メカニクス、フレーバー、ジャンルなど/サークル名/作者とスタッフ(デザイナー、原案、アートワーク、グラフィック、翻訳担当など)/関わった人、団体(テストプレイヤー、校正、印刷所、発行者、発売者、出版社など)

このうち必須なのは、正式なタイトル、発行年月日、作者の名前と連絡先とのこと。ゲーム制作者にはぜひ留意してもらいたい。

 

短い休憩を挟み、後半はトークショー。AGM設立と活動に賛同する5人の有識者が登場し、ディスカッションを繰り広げた。参加者は草場氏に加え、以下の5名。

<トークショー参加者>
司会担当:渡辺範明氏(ドロッセルマイヤーズ)
カナイセイジ氏(カナイ製作所)
刈谷圭司氏(ゲームマーケット前事務局長)
安田均氏(グループSNE)
米光一成氏(ゲームデザイナー)

▲アナログゲーム界の大物がずらりと集結したトークショー

皆が草場氏とは旧知の仲ということで、和気あいあいとジョークを交えつつ、一方で真剣にアナログゲームミュージアムへの希望と、現状での課題が討論された。

▲向かって左の3名。左から草場純氏、カナイセイジ氏、刈谷圭司氏

▲向かって右の3名。左から安田均氏、米光一成氏、渡辺範明氏

AGMの今後の課題としては、行政との連携の不足、これまで出版されたゲームの収集、カタロギング(目録作成)実作業を行う要員のマンパワー欠乏、資金の不足などが挙げられた。草場氏は「アナログゲームが保存すべき貴重な文化であるという共通認識が必要」と話し、AGMの運営を“ゲーマーによる参加型協力ゲーム”と表現。アナログゲームを愛するすべてのゲーマーに、ゲームの文化を守り、保存していくためにアナログゲームミュージアムの会員としてこの活動に参加してほしいと呼びかけた。

アナログゲームミュージアムは、pixivFANBOXのサービスから会員(支援者)を募っている。興味がある人は、以下のURL、もしくはQRコードより支援ページにアクセスしてみてほしい。

●アナログゲームミュージアム 公式サイト:https://analoggamemuseum.org/
●アナログゲームミュージアム 会員登録ページ(pixivFANBOX):https://analoggamemuseum.fanbox.cc/plans

アナログゲームミュージアム代表理事・草場純氏を直撃!
アナログゲームミュージアムに託す希望と目標

設立宣言とトークショー終了後、アナログゲームミュージアム代表理事の草場純氏に話を聞き、その設立の目的と意義、今後の活動や目標について、改めて語ってもらった。

――ズバリ、アナログゲームミュージアムとはなんでしょうか。

草場氏:分かりやすく説明すると、ボードゲームの図書館。あるいはボードゲームの博物館といったところですね。ボードゲームをたくさん収集し、整理・分類して目録を作り、皆さんに利用してもらう。本来ならゲームをプレイヤーに貸し出してプレイしてもらい、終わったら返却してもらうということが理想ですが、ゲームという媒体は本と違って難しい部分があります。そこはおいおいやり方を考えていかなければいけないと思っています。

――設立の経緯についてお話しください。

草場氏:今から3年ぐらい前の話ですが、ゲームマーケットの事務局のほうから、ゲームマーケットの出展サークルから集まったサンプルのゲームについて保管の方法に困っているという相談を受けました。アナログゲームミュージアムについての構想はそのときすでにあり、たまたま私の持つ空きの物件があって、そこに資料のゲームとして保管することはできますから、こちらでお預かりしましょうか、ということで具体的に話が進んだというところです。

――かねてから構想があったとのことですが、どのように思いつかれたものだったのでしょうか。

草場氏:ゲームマーケットはボードゲームの振興や普及を目指して2000年に私が立ち上げたものですが、それからどんどん規模が大きくなり、ここまでのイベントに成長しました。当初の目的はある程度は達成できたものかと思っています。では、その次の私の目標は何かと考えたとき、ボードゲームの図書館、博物館のようなものを作りたい、となったんです。当時すでにゲームというとデジタルゲームのことを指すことが多かったので、それとは明確に区別する意味もあって、アナログゲームという大きなくくりで考えました。

――アナログゲームとなると、ボードゲームだけでなく、かなり広い意味になるかと思います。例えば、将棋や囲碁、オセロから、野球盤に至るまで、我々が考えるところのボードゲームとは違ったものもあると思いますが、それも含むのでしょうか?

草場氏:デジタルでないもの、いわゆる非電源系のゲームはすべて対象にしたいというのが自分たちの希望、目標としてあります。なかにはオモチャに分類されるものもありますから、その境界の線引きは難しいのですが、できるかぎりすべて集めていきたいですね。

――今回、なぜこういった形でゲームマーケットに出展されたのでしょうか。

草場氏:ゲームマーケットは私が創立したもので、2009年までは事務局長を担当しておりました。ゲームマーケットの規模が大きくなるにつれ、ボランティアでやっていた私たちの手に余るようになったものですから、それからは運営をアークライトさんにお任せしたのですが、私にとってゲームマーケットは思い出の場であり、強い縁がある。ゲームマーケットはゲーマーのお祭りの舞台ですし、ぜひこの場で設立の宣言をさせてもらいたいと思っていました。この特設ブースはアークライトさんの支援の下、ゲームマーケット事務局さん使わせてもらっています。他にもいろいろとご配慮をいただいていて、運営を引き継いでもらったときも、私からはゲームマーケットという名を残すことと、伝統的なゲームを扱うブースを用意してもらえないか、ということをお願いしています。前回のゲームマーケット(2022秋)で伝統ゲームコーナーとして『ラミィキューブ』の試遊やトルコの『オーケイ』を紹介をしているブースがありましたが、あれもゲームマーケット事務局のほうで設置してくださったものですね。今回の設立宣言も、団体や企業の営利の部分を超えて協力していただいています。

――アナログゲームミュージアムの運営と活動内容についてご説明ください。

草場氏:先ほどお話しした通り、主な活動内容はアナログゲームの収集と目録の作成。収集については、現在行っているゲームマーケットのサークルや企業からのサンプルの保管に加えて、行き場のない個人のコレクションを引き取ったりですとか、そういったこともできるようにシステム化しようと考えています。運営については、アナログゲームミュージアムの目的や理念について声をあげたところ、志を持った人が集まってくれて、私の古い仲間と一緒に手伝ってもらっています。現在は月に一度Discordを使って運営についての会議を行い、今後の活動や方針について話し合っています。

――アナログゲームミュージアムとして今後やっていきたい活動についてお話しください。

草場氏:現在文化庁とも交渉しているところですが、国や地方自治体などの行政からの協力や公的補助を受けること実現させたいですね。そういったことがクリアされれば、これは次の目標になるのですが、館内でゲームがプレイできたり、大会会場としての使用や宿泊に耐えうるような施設の確保もできるようになるかと思っています。誰でも利用できて、誰にでもゲームのプレイを提供できる。それが理想です。そこに至るには解決しなければならない問題がたくさんあるので、ひとつひとつやっていくという感じです。

――まずは、アナログゲームの収集と目録の作成ということになりますね。

草場氏:そうですね。それ以外では、これも目標のひとつとなりますが、業界内の調整機関的な役割を果たす存在になれないかと考えています。現在アナログゲーム界には、業界をまとめる団体がありません。著作権の問題をはじめ、何か係争が発生しても、うまく解決できていないというのが現状です。これは非常に難しくデリケートな問題なのですが、アナログゲームミュージアムが調整機関に代わるものとして中立の立場で間に入って働くことはできないか。図書館、博物館の役割とは大きく違ってくるものの、何かそのような形でも業界の役に立てないかと考えているところです。

 


草場純氏略歴
ゲーム研究家。日本バックギャモン協会評議員。世界中のボードゲームやカードゲームの普及と、埋もれた伝統ゲームの発掘についての活動を続けている。2000年にゲームマーケットを主催者として開催し、初代事務局長やゲームマーケット大賞審査員長などを歴任。2021年9月にアナログゲームミュージアムを設立、代表理事に就任した。『もっと夢中になる!トランプの本―ゲーム・マジック・占い』や『日本現代卓上遊戯史紀聞 [2]草場純』など、トランプやボードゲームといったアナログゲームに関する著書や関連書籍が多数ある。