以前、塾講師の集まりにボードゲームを持ち込んだ際、多くの先生に気に入っていただき、結果としてご自身でもご購入された方が多かったのがこの『バザリ』というゲームです。ルールは比較的シンプルでありながら、「バッティング」というシステムを通じてしっかり考えどころがある点が、塾講師の心に刺さったのではないかと感じています。
また、購入後のお話も伺っていますと、小学校3年生くらいから中学生や大人と混じってプレイできる幅広い年齢層が楽しめるゲームであると評価されています。
今回は、この『バザリ』について考えていきたいと思います。
ルールの概要
東洋の宝石商となって勝利点を稼ぐゲームとなります。各プレイヤーには4色の宝石が3個ずつと3枚のアクションタイル(5人プレイの時には4枚)、スタートマーカーと商人コマ、スコアマーカー、ダイスが配られます。ボード上には宝石のストック置き場があり、ここに宝石を色ごとに分けて置きます。
このゲームには、「手番」という概念はなく、基本的には全員同時にアクションを進行させていきます。以下に大枠の流れを説明しておきましょう。
1:ダイスを振って移動
まずは、トラック上の好きな位置にスタートマーカーを置きます(プレイヤーによってスタート位置が異なる)。そして、ダイスを各自一斉に振り、それぞれの出た目の数だけ移動し、アクションを実行します。
これを繰り返し、誰かが自分のスタート地点を超えて1周すると1ラウンドが終了し、そこで決算(ゲーム中に獲得した宝石の得点計算)が入ります(以下の「4」を参照)。1ラウンド終了時点で各プレイヤーがいる場所が2週目のスタート地点となります。こうして、3周(3ラウンド)したら、ゲームは終了です。
2:アクションタイルの選択
移動した後、アクションを行います。アクションの決定は、以下の写真のアクションカードから1枚選んで一斉に公開し、実行します。
上の写真の一番左にある宝石の書かれたタイルは、今いる地点に書かれた種類と数の宝石を獲得することができます。
左から2番目のダイスの書かれたタイルは、もう一回ダイスを振ってさらに進むことができ、「6-出目」の分だけ勝利点を獲得することができます。
左から3番目の5人プレイ用タイルは、このアクションを希望した人が複数名でもアクションを行うことができます(アクションのバッティングについては以下の「3」を参照)。このアクションを希望したプレイヤーが1人であれば、自分の宝石から1つをストックに戻し、任意の宝石を2個獲得することができます。希望者が2人以上いた場合には、1個の宝石を獲得することができます。
写真の一番右の数字が書かれたタイルは、今いる地点に書かれた数字のぶんだけ勝利点を得ることができます。
3:アクションを巡っての交渉
3人以上が同じタイルを出した(バッティングした)場合、誰もこのアクションを実行することができません。2人がバッティングした場合には、当該アクションを巡って交渉が始まります。
交渉は「青の宝石2個あげるから、このアクションは僕にゆずってほしい」といった感じで、宝石を使って行われます。宝石の価値は、赤、黄、緑、青の順に強くなります。しかし、交渉では個数が優先されるため、赤1つよりも青2つの方が強いとされます。一度出した宝石を一旦、自分の手元に戻して条件提示をし直すことも可能です。
このようにして、どちらかのプレイヤーが宝石を相手に払うことでアクションを実行することができます。
4:決算
最初に1周したプレイヤーは10点を獲得でき、さらに決算が行われます。宝石の各色について、その色をもっとも多く宝石を持っているプレイヤーが色に応じた勝利点を獲得できます。赤が14点、黄が12点、緑が10点、青が8点といった具合です。宝石による勝利点を得たプレイヤーは、その種類の宝石を3個ストックに戻さなくてはいけません。
このようにして3回目の決算が終わるとゲーム終了となります。
現状を客観的に俯瞰する力
このゲームでは「バッティング」というシステムがとてもうまく機能して、各プレイヤーの思考を引き出しています。
戦略として、周回ボーナスを目指すのはもちろん、宝石による決算での勝利点を得たり、直接アクションタイルを使って勝利点を得るなど、勝ち筋はさまざまです。ただ、現在いる場所と保有する宝石によって、ある程度「最適なアクション」の幅は狭まります。
例えば、赤い宝石を多く保有し、青の宝石を1つも保有していない「青いコマのプレイヤー」が下の写真の地点(中央上)にいる場合、「宝石を得るアクションタイル」を選択する可能性は高くはありません。なぜなら、各色の宝石を一番多く保有しているプレイヤーのみが得点可能であるため、この場所で獲得できる青の宝石は勝利点に直結しないからです。また、勝利点に関しても4点と高くはないため、この場合は「もう一度ダイスを振るアクションタイル」を選択する確率が高いと判断できるでしょう。
また、このゲームは「バッティング」を避けるだけが常に最適とは限りません。
例えば、Aさんが赤い宝石を5つ、Bさんが3つ、CさんとDさんとEさんが1つずつ持っている場合において、Bさんが赤い宝石を3つもらえる地点に止まっていたらどうでしょう。この場合、Bさんは「宝石を獲得するアクションタイル」を選択する可能性が高いです。しかし、ここで、Bさんにこのアクションを許してしまうとAさんの赤い宝石の個数は、Bさんに逆転されてしまいます。一番多いプレイヤーしか決算時に宝石から勝利点を獲得できないため、Aさんとしてはなんとしてもこれは阻止したいところです。他方、Cさんたちから考えても、多少無理をしてでもBさんがこのアクションを実行したいと考えられるため、あえてバッティングさせて交渉に持ち込むことも考えられます。
このように、公開情報となっている各プレイヤーの保有する宝石の数や種類を常に確認しながら、どのプレイヤーがどのアクションを選択する確率が高いかを客観的な情報に基づいて考えていくことになります。ここが何といってもこのゲームの醍醐味と言えます。
子供たちにとって、初めてプレイするときは「客観的な情報から予想される最適解」は難しいと思いますが、「どのアクションタイルを出すと思う?」と予想しながらプレイしてみたり、その際に根拠を確認することで誘導しながらプレイしていくのもよいと思います。
また、ルール自体は簡単ですが、特に低学年のウチは自分のしたいアクションを優先してアクションタイルを選択してしまう傾向にあります。しかし、いくら、自分が絶対にやりたいアクションがあったとしても、3人以上バッティングするようでは意味がありません。時には、ベストな選択肢とはいえないまでも、ベターな選択肢も視野に入れていることで、リスクを管理していく、まさしく現実社会でこそより求められる力が要求されています。
交渉もボードゲームの醍醐味
また、選択したアクションタイルがバッティングした場合には、「交渉」によって、アクションを実行するプレイヤーを決めることになります。他にも、『カタン』など「交渉」を要素とするボードゲームがありますが、このゲームではバッティングした場合、必ず「交渉」が発生し、どこかで結論を出さなければいけないため、より「交渉」という要素が色濃くゲームに反映されています。
また、この交渉では、お互いに持つ宝石の種類や数が公開されているため、根拠がわかりやすいです。
例えば、みんなが得点の高い赤い宝石を集めたいと思いがちですが、既に最多保有者が決定している場面において、それ以外のプレイヤーには赤い宝石の価値はありません。また、宝石はその個数を争うことになるので、自分にとってまたは相手にとって「取りたい種類の宝石」が存在する可能性は高く、現状を客観的にみて、相手が乗りやすい交渉を意識することが必要となってきます。
「交渉」というと、話術が巧みな方が有利なイメージもありますが、このゲームではそうした技量的な部分に注目するのではなく、「自分が許容可能な範囲で相手が望んでいる条件を考える」といった、交渉の原点ともいえる部分について練習することが可能です。子供たち同士では、日ごろの関係性等が交渉に影響を与えることも十分に考えられますが、あくまで「客観的に妥当な交渉」となるような意識を誘導してあげると、小さい子でも交渉力が備わってくると思います。
終わりに
戦略は複数ありながらも、ゲームの目的は「勝利点」のみというわかりやすさも、塾の先生たちを魅了した要素の1つなのかもしれません。自分の子供たちや生徒たちとプレイするのももちろん楽しいのですが、こうして同業の方々とプレイして感想を聞くのもとても良い機会となっています。というわけで、これからも布教活動に勤しみます。