祝『グランドオーストリアホテル』日本語版発売! イタリアを代表するデザイナーにして重量級の名手シモーネ・ルチアーニ氏のゲーム8選

2025年3月20日にengamesより『グランドオーストリアホテル』の日本語版が発売されるのですが、3月頭の段階ですでに予約分完売とのことで、ボードゲーマーからの注目はかなり高いようです。

『グランドオーストリアホテル』のデザイナーはイタリアのクリエイター、シモーネ・ルチアーニ氏(ヴィルジーニョ・ジーリとの共著)。ルチアーニ氏のゲームはプレイ時間が2~3時間かかるような、いわゆる“重ゲー”やゲーマー向けの“ゲーマーズ・ゲーム”が多いため、ボドゲ初心者やライトなゲームを好む層にはあまり縁がないかもしれません。

氏が関わったほとんどのゲームはシステムが複雑で要素が多く、はっきり言って難しい。しかし、それぞれの要素が見事に絡み合って作用するため、理解できた瞬間の“目が開いた感”がとてつもない快感を呼び起こします。考え抜かれた精緻なメカニクスはクセになる何かがあり、熱いファンが多いのもうなずけるところ。

今回は、そんなシモーネ・ルチアーニ氏がデザインに参加したゲームから8つを選んでご紹介しましょう。

※五十音順に紹介しています。

海鳴りのドラゴン

荒れる海をドラゴンが東奔西走! 守り神たちの手柄争い

“海鳴りのドラゴン”となって水中の王国を守っていくタイトル。プレイヤーは手持ちの配置カードをプレイして頭と胴体からなるドラゴンのコマをボード上に置いていきます。ゲーム終了時に4つのエリアごとに配置されたドラゴンの頭が多いプレイヤーが得点を獲得。また、プレイ中に得られる海賊チップや財宝などからも加点があります。

自分のドラゴン同士は隣り合わないようにしつつ他人のドラゴンに接するように置いたり、進行を妨害する海流があったりと、移動には条件と障害が存在し、どうすればいいか常に頭を悩ませることに。右往左往するドラゴンの配置に四苦八苦しながらも、パズル的な楽しさを感じることができるでしょう。

プレイ時間は1時間ほど。ルチアーニ作としてはルールが簡素でプレイしやすく、比較的短時間で遊べるため、初めての方にもおすすめできるルチアーニタイトルです。

海鳴りのドラゴン 概要】
メーカー:ケンビル
プレイ人数:2~5人
対象年齢:8歳~
プレイ時間:40分

グランドオーストリアホテル


※写真は輸入版のもの

終末期の皇国、ダイスロール&ダイスプレイスメントで描く華麗なるホテル経営対決

舞台は1900年代初頭のオーストリア・ウィーン。プレイヤーは支配人となり、自身のホテルを国内一にすることを目指します。

プレイヤーは手番にスタッフの雇用や部屋の準備、食事の用意といったアクションを行い、ホテルの経営を改善・拡大していきます。システムは、ダイスを振ってダイスごとにアクションを振り分けて配置していく“ダイスプレイスメント”。

ホテルにやってくる客は芸術家、旅行客から皇帝までさまざま。客に合った部屋を用意し、彼らの望む食事を出すことができれば高評価が得られます。全7ラウンドで手番にできるアクションは2回ですが、条件を満たすとことで追加アクションを行うことが可能となるため、いかにして追加アクションが発生するエンジンを組み上げるかがこのゲームのテクニックです。

これまで和訳説明書付の輸入版のみで現在は入手難となっていたのですが、engamesより拡張版『レッツワルツ』と共に3月20日に待望の日本語版が発売されることになりました。

グランドオーストリアホテル 概要】
メーカー:ジーピー ※2025年3月20日にengamesより日本語版発売予定
プレイ人数:2~4人
対象年齢:12歳~
プレイ時間:60~120分

ダーウィンズ・ジャーニー

ガラパゴス諸島の調査に同行せよ! 厳しい制限下で選択を決断する重量級ワカプレ

「進化論」で知られる学者ダーウィンのガラパゴス島調査の旅に同行し、その成果を振り返るゲーム。ワーカー(労働者コマ)をボード上に置いてアクションを行っていく“ワーカープレイスメント”と呼ばれるジャンルのゲームです。

ワーカーを配置して島を探査し、標本を集め、標本を提出して資金を獲得。また、先行するダーウィンの乗った舟を追いかけたり、パトロンに支援のお願いをしたり、といった副次的なアクションもいくつかあり、プレイヤーは複数の要素を並行して進めていくことになります。多種多彩な目標と得点要素が用意されているため、プレイするたびに違った展開になることも魅力です。

個々のワーカーには能力の違いがあり、任せるアクションによって必要な能力が変わってくるため、すべてのワーカーを自由に配置できるわけではありません。ワーカーを強化することで、対応可能なアクションの幅を広げることも可能です。ワーカーへのアクションの割り振りと強化は、プレイヤーにとって大いに頭を悩ませる部分になるでしょう。

また、アクションの結果による連鎖の発生も本作の特徴。ひとつのアクションの結果によって別のアクションが起動し、次々と連鎖してアクションが発生していくことがあります。うまく連鎖を成功させたときの爽快感は抜群です。

取れる行動の選択肢が多い一方、常にリソース(資源)が不足気味で、プレイ中はやりたいこととできることのギャップに苦悩することに。プレイ感は重く苦しいはずなのですが、「次はあれをやってみたい」「こんなこともできるはず!」 と不思議なほどリプレイの意欲が湧いてくる一作です。

ダーウィンズ・ジャーニー 概要】
メーカー:ケンビル
プレイ人数:1~4人
対象年齢:14歳~
プレイ時間:30~120分

ツォルキン:マヤ神聖暦

歯車が刻むマヤの歴~ルチアーニ氏の名を世に知らしめた“遅効性ワーカープレイスメント”

ゲームボードに施された、回転する複数の歯車のギミックが目を引くワーカープレイスメント。プレイヤーはマヤ文明の部族の指導者となり、自分の部族を繁栄へと導きます。ちなみに“ツォルキン”とはマヤ文明で用いられていた暦(神聖歴)のことで、その周期は260日となっています。

プレイヤーは手番に食料を消費してワーカーを派遣するか、ワーカーを回収してアクションを実行します。ワーカーは食料、資材、技術、市場、信仰の5つの要素に対応した都市を表すボード上の5つの小歯車の上に配置されるのですが、この小歯車はラウンドごとに動かす大歯車に連動して回るのです。ラウンドの経過によって小歯車の上に置かれたワーカーも動くため、ここでアクションの強度が変わってしまうことに。注意しなければいけない点は、ワーカーを派遣した瞬間ではなく引き上げるときにアクションが行われるところで、ワーカーの効果が遅れて発動するため、数手先を見越した派遣計画が求められます。

発売は2012年。すでに10年以上の前のゲームになりましたが、見ているだけでワクワクする歯車のギミックと、斬新なシステムは今プレイしてもまったく古さを感じさせません。ルチアーニ氏にとって、その名を知らしめた出世作でもあります。

ツォルキン 概要】
メーカー:ホビージャパン
プレイ人数:2~4人
対象年齢:13歳~
プレイ時間:90分

ティルトゥム

リソースとアクションポイントを秤にかけてダイスをピック! 中世商人の西欧縦断道中記

ルネッサンス期欧州の豪商となり、ティルトゥム(現在のベルギーのティールトの街)からベネツィアを目指す旅のなかで、名声を得ていくゲームです。

基本的なシステムはダイスをまとめて振ってから順番に選んで取っていき、ダイスに応じたアクションを行うダイスドラフト&ピック。手番にどのダイスを選んで実行するかが本作の最大のキモで、ダイスの目が大きいほうが得られるリソース(資源)が増え、小さいほうがアクションポイントが多く得られるようになっています。このため、ダイス目と自分および他のプレイヤーの状況まで考慮してダイスを選ばなければいけません。

選択できるアクションは、要人を招いて交易の契約をしたり、商人や建築士のコマを各地に派遣して商館や柱、大聖堂を建造するなど、実に多彩。アクションの成果で獲得したタイルは、組み合わせによって大きな得点源となります。さらに、ラウンドごとに決められた都市にて得点が獲得できますが、ここで加点するためには特定の条件を満たしておく必要があり、事前に準備を整えておくことが大事。どのターンにどの都市で得点が得られるかはプレイのたびに変わるため、ルートと展開は毎回変化します。

全4ラウンドで、プレイヤーの1ラウンドごとの手番は3回ですが、このゲームもボーナスタイルやフリーアクションをうまく使って行動回数を増やし、アクションを連鎖させていくことが可能です。取りうる選択肢が多く、ダイスロールという不確定要素がありつつも先を見通した計画性が求められる難度が高いタイトルであるものの、読みがうまくハマったときの気持ちよさは抜群でしょう。

ティルトゥム 概要】
メーカー:テンデイズゲームズ
プレイ人数:1~4人
対象年齢:14歳~
プレイ時間:60~100分

バラージ

ダムを作って、水を貯めて発電して……。イチからエネルギー開発を行うルチアーニ氏の代表作

舞台は1920年代の欧州の架空の国。『バラージ』は山間部にダムを作り、水力発電によるエネルギー開発を行うワーカープレイスメントです。

プレイヤーは国営企業のCEOとして発電所を建設し、国民に電力を供給して収入を確保します。しかし、発電までには数多くのプロセスがあり、すべての条件をクリアしなければなりません。発電までの工程として、まずダムの建設から始まり、発電所の建設、取水塔・導管および水の確保、そして配電の契約に至るまでを済ませて初めて収入が得られるのです。

建設には重機と技術タイルを使うため、これらの確保も重要。特に重機はいちど使うとしばらく戻ってこないので、計画的に建設を進行する必要があります。しかし、ワーカーの配置場所や設備建設予定地の確保、契約などには早取りの要素があり、他のプレイヤーの行動との兼ね合いもあって、なかなか思う通りに進めることができません。インタラクション性が高く、プレイヤー同士バチバチの状態が続いてガチなぶつかり合いの様相を呈します。

美しいゲームボードや木製コマの重機と建造物、豊富なタイル類など、雰囲気を盛り上げる重厚なコンポーネントも魅力。インフラ整備が進むごとにボード上がにぎやかになっていくのを見るのはとても楽しい! 完成度が高く、ルチアーニ氏の最高傑作として挙げる人も多いタイトルです。

バラージ 概要】
メーカー:テンデイズゲームズ
プレイ人数:1~4人
対象年齢:14歳~
プレイ時間:120分

マルコポーロの旅路

目指せ東方! プレイヤーごとにルートを構築してマルコ・ポーロの旅を追体験

2015年にドイツゲーム賞を受賞したタイトル。プレイヤーはマルコ・ポーロをはじめとする11世紀半ばの欧州の著名人となり、ヴェネツィアから最終目的地となる北京までの旅のなかで勝利点を得ていきます。

テーマが似ている『ティルトゥム』はダイスピックでしたが、『マルコポーロの旅路』は各自が持つダイスを振り、アクションを割り振っていくダイスプレイスメント。アクションは、お金や資源を集めたり、移動して交易所を作ったりするなど全部で6種類で、先に他のプレイヤーが選んだアクションを後から実行しようとすると使用料を支払わなければいけないため、早取りの要素もあります。

勝利点は依頼の達成や交易所などから獲得可能。道中の目標として個別の目的地カードがプレイヤーごとに配られ、都市ごとに得られる資源も毎回変わるため、プレイするたびにプレイヤーごとのルートと展開が変化します。さらにキャラクターの固有能力がどれもこれも非常に強力で、かなりのクセの強さがあるため、その選択も含めてリプレイ性が非常に高くなっています。

本作も先読みによる行動計画の構築が重要なのですが、ここに目的地とダイスロールのランダム性が加わり、柔軟な対応とシビアな判断が求められます。ぶっ飛んだ個人能力、リソースと手番の不足感、アクションがハマったときの爽快感など、ルチア―ニ氏の作品らしい尖りかたが光るゲーム。

アジアから旅が始まる後継作『マルコポーロ2:大いなる帰還』も発売済です。システムに手が加えられており、ややマイルドなバランスに。また違ったプレイ感が味わえるタイトルなので、こちらもオススメ。

マルコポーロの旅路 概要】
メーカー:アークライト
プレイ人数:2~4人
対象年齢:12歳~
プレイ時間:60分~(1人あたり20~25分)

メソス

先取りと数取りのジレンマに悩み続けるタブロウビルド

入手したカードを個人ボードのアクションスペースに置いて効果を発動させる“タブロウビルド”タイプのゲーム。プレイヤーは古代部族の長として部族民を率い、繁栄を目指します。

カードはラウンドごとに場にすべて公開され、手番が早い人から先に取っていく“ドラフト”によって手に入れるのですが、本作のキモはまさにこの部分。ここでプレイヤーはプレイしたい手番順を選択します。早い手番を選ぶと、場に出たカードを優先的に入手できるものの、手に入るカードの総数は減ります。一方で、遅い手番の場合は他のプレイヤーが取った後に残ったものを獲得することになりますが、そのぶん多い枚数のカードがもらえるのです。

獲得したカードは個別の条件を満たしたり、カード同士の組み合わせにより効果や得点が得られます。場に出たカードを見て、他のプレイヤーが何を欲しがるか、自分がどれを取ればいいのかを判断し、より的確な手番順を選択していくことが大事です。

ヤニフ・カハナ氏との共作で、これは『海鳴りのドラゴン』と同じ。コンビの前作と同様にプレイ時間が短くて気軽に遊べるゲームですが、戦略性が高く、しっかりとしたプレイ感が味わえるタイトルです。

メソス 概要】
メーカー:テンデイズゲームズ
プレイ人数:2~5人
対象年齢:10歳~
プレイ時間:~30分


いかがだったでしょうか。ルチアーニ氏のゲームはロマン溢れるテーマを扱い、ギミックが凝っていて、コンポーネントを眺めているだけでも楽しいタイトルが数多くあります。そのシステムは重く複雑なため人を選びますが、いちどハマれば熱心に追いかけるようになってしまうはず。まだ未プレイの人は、今回取り上げたタイトルのなかからひとつでもいいので、ぜひとも実際に体験してほしいと思います。

イタリアのデザイナーは共著が多く、ルチアーニ氏も相棒格のダニエレ・タッシーニ氏(『ツォルキン』『マルコポーロの旅路』『ティルトゥム』)をはじめ、ヴィルジーニョ・ジーリ氏(『グランドオーストリアホテル』『ゴーレム』『ロレンツォ・イル・マニーフィコ』)、デヴィッド・タージ氏(『ニュークレウム』)といったメンバーと共にゲームを作っています。組んだ相手が変わるごとにゲームの雰囲気が変わることも、ルチアーニ氏はもちろん、イタリアのゲームの特徴だと言えます。

今後も氏のゲームは練り上げられたシステムでファンをうならせてくれるはず。どのような仕掛けをしてくるのか、楽しみに待っていましょう。

▲ルチアーニ氏(写真中央)は2023年5月に来日。ゲームマーケット2023春のスペシャルステージにてトークショーを行いました