【インタビュー】『小林さんちのメイドラゴン』ボードゲームが大好評! 双葉社が設立した注目のボードゲームレーベル“ふたばくゲームズ”! 気になるあれこれを聞いてきた!!

ふたばくゲームズの『世界の終わりの大運動会-小林さんちのメイドラゴン ボードゲーム-』

『クレヨンしんちゃん』などの作品で知られる出版社、双葉社が新設したボードゲームレーベル“ふたばくゲームズ”。第一弾のタイトル、同社の大ヒットコミック『小林さんちのメイドラゴン』(※1)をテーマとした『世界の終わりの大運動会-小林さんちのメイドラゴン ボードゲーム-』(以下『世界の終わりの大運動会』)が、ゲームマーケット2025春に出展されて大好評を博した(同作は6月18日に一般発売)。

今回は、ふたばくゲームズのプロジェクトを統括する双葉社コンテンツ事業局コンテンツ事業部デジタルビジネス戦略室室長の山内邦也氏と、ディレクションやゲームデザインを担当するドロッセルマイヤーズ渡辺範明氏のお二方に、ふたばくゲームズが目指す方向性や、今後どのようなゲームを作っていくかについて話を聞いた。

なお、『世界の終わりの大運動会』については、先行プレイのレポート記事があるので、興味がある方はぜひこちらもご覧いただきたい。

手に汗握るレースが熱い! でっかい木駒がカワイイ! ふたばくゲームズ『世界の終わりの大運動会-小林さんちのメイドラゴン ボードゲーム-』を一足お先にプレイさせてもらった!
https://broad.tokyo/games/41264

※1『小林さんちのメイドラゴン』シリーズ:クール教信者先生作、累計500万部突破の大人気コミック。「漫画アクション」「webアクション」で連載中。OLの小林さんと異世界からやってきたドラゴンのトールのふれあいを中心に異種族間の交流を描く。2025年6月現在で第17巻まで発売されており、サブキャラクターを主人公としたスピンオフ作品も複数展開中。本編は2期にわたってアニメ化され、6月27日には劇場版アニメ『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』が公開される。

双葉社作品を原作としてボードゲーム、マーダーミステリーを出版

ふたばくゲームズのキーマンふたり。左が双葉社山内氏、右がドロッセルマイヤーズ渡辺氏

──まず、簡単にふたばくゲームズの概要についてお話しください。

双葉社・山内邦也氏(以下山内氏):もともと弊社はゲームを作っていたわけではないのですが、何年か前に現メンバーの何人かが集まって話をする機会がありまして、その席で「いまマーダーミステリーというゲームが流行っているらしい」という話題が出たんです。そこで「紙の印刷物だし、出版社の自分たちにもできるのでは?」という話になり、それを聞きつけた営業部の者がボードゲームを作っている人を知っている、ということで紹介してもらいました。

それから実際に作ることになって、出来上がったのが『赤ずきん、舞踏会で死体と出会う。』2023年12月発売)。弊社のミステリー作品『赤ずきん』シリーズ(※2)をテーマとしたマーダーミステリーです。このときはレーベルという形ではありませんでしたが、これがふたばくゲームズの始まりということになります。

ふたばくゲームズのメンバーが作った最初のアナログゲーム:マーダーミステリーの『赤ずきん、舞踏会で死体と出会う。』(画像は双葉社サイトより引用)

※2『赤ずきん』シリーズ:青柳碧人先生作、五月女ケイ子先生イラストによる、西洋童話をベースにした連作短編ミステリシリーズ。2025年7月に第4弾『赤ずきん、イソップ童話で死体と出会う。』が発売。2023年にはNetflixで実写映画化され、全世界に配信された。

――まずはマーダーミステリーから作ったのですね。

山内氏:『赤ずきん、舞踏会で死体と出会う。』は、ゲーム自体を初めて作ったということもあって、出版までにかなり時間がかかってしまいました。そのペースではマーダーミステリーを続けて出していくというのが難しく、引き続き構想はあったのですが、新作はまだ実現していません。

そうこうしているうちに「ボードゲームもやりたいね」ということになっていったんです。他社、例えば幻冬舎さんは『はぁって言うゲーム』などのたくさんのゲームを出していらっしゃいますし、うちのような(雑誌や書籍中心でやってきた)出版社でもボードゲームが出せるのではないか、と。

――現在のふたばくゲームズの皆さんは、そのときに集まったのでしょうか。

山内氏:みんな社内での部署はばらばらなのですが、全員がマーダーミステリー好き、ボードゲーム好きだったので、各部署の有志といいますか、やりたい人が集まって一緒にチームを組んで作っていきました。

弊社は比較的自由な社風で、やりたいと言ったらやらせてくれるという会社です。自分たちとしても、会社から命令されて作っているわけではありませんし、ゲームが好きな人同士で集まっていますから、あまり良い言い方ではないかもしれませんが、趣味的な部分も少しあると思います。

――時代物小説なども出版されている会社ですから、社風としては厳しい部分があるのではないかと勝手に考えていました。

山内氏:まったくそんなことはなくて、取り扱うテーマの幅も広く、週刊誌や漫画雑誌もあれば『クレヨンしんちゃん』もありますし、小説もあれば『ガンダム』や『ウルトラマン』の関連書籍を出したりもしているので、そのなかにボードゲームがあったとしても、それほどおかしくはない出版社なのではないでしょうか。

──ふたばくゲームズのディレクションはドロッセルマイヤーズ渡辺様が手掛けていらっしゃいます。どのような経緯で決まったかお話しください。

山内氏:先ほどの『赤ずきん、舞踏会で死体と出会う。』を作ってゲームマーケットに出た際(ゲームマーケット2023秋)、おなじAnagumaさんのブースに渡辺さんのドロッセルマイヤーズも出展していらっしゃったんです。そこで知り合った後、弊社の編集の人間が別の場所で渡辺さんにお会いしたときにはっきりとした繋がりができました。

ドロッセルマイヤーズ渡辺範明氏(以下、渡辺氏):自分が10年以上前からたまに参加しているオープンのゲーム会があるのですが、そこに双葉社の方もいたんですよね。というより、ずっと前からそこで面識のあった人が、実は双葉社の編集者さんだということをそのとき知った感じでした。

山内氏:その編集に繋いでもらって、昨年(2024年)の頭にまずリモートで軽くお話しして、ぜひとも何かやろう、ということになりました。そのときはご挨拶程度だったのですが、6月ぐらいに具体的に話を進めようとこちらから話を持ち掛け、快諾していただいたという流れです。

原作ファンだけでなく、作品を知らないゲームファンにもプレイしてもらいたい

──ふたばくゲームズが目指す方向性、ゲームについての理念などありましたらご説明ください。どのようなゲームを作っていきたいと思っていらっしゃるのでしょうか。

山内氏:最初の『赤ずきん、舞踏会で死体と出会う。』、それと今回の『世界の終わりの大運動会』もそうなのですが、出版社としてはやはり先に原作としての出版物があるものを使ってゲームを作るということを大切にしていきたいです。原作ファンにゲームを遊んでほしいですし、逆に原作を知らずにゲームから入った方に本を読んでもらう、ということが理想ですね。私たちのチームには普段は漫画の編集をしている者もおりますから、連携していくことができると思っています。

──では、双葉社さんの作品が原作となるゲームを出していくということになりますね。

山内氏:一方で、オリジナルをやりたいという気持ちもあります。オリジナル作品に火が点いたときの爆発力はすごいものがありますから、そこにもチャレンジしていきたい。実は今後発売を予定しているゲームのなかに、オリジナル作品があるんです。これは原作こそありませんが、出版社から発売するということにきちんと意味があるタイトルになっています。

──『世界の終わりの大運動会』は、システムやルールについて難しいものではなく、実際にSNSなどを見ても「子供と遊びました」という方も見受けられました。ターゲットについて、原作があるものについては原作ファンに合わせる形になるとは思いますが、ある程度の対象年齢や客層の幅を持って作っていくということになるでしょうか。

渡辺氏:そうですね。原作マンガの読者層がある程度わかっていたとしても、その読者がどの程度ボードゲームを遊んだことがあるかは結局バラバラですから、できるだけ幅広いお客さんが遊べるゲームを目指す方がいいとは思っています。『世界の終りの大運動会』がちょっとクラシックなユーロゲーム風のゲームデザインを採用しているのはそういう意図ですね。

一方で、原作のどの部分をゲームとして切り取るかとか、どういう要素を強調するかといったところではマニアックな商品があってもいいかもしれません。ゲームシステムが極端に複雑だったり、プレイ時間が長かったり、そういった意味でのコアゲーマー向けのものはふたばくゲームズでは作らないと思います。

──『世界の終わりの大運動会』は、ルールこそ簡単ですが、ゲームに慣れていない方がプレイするのと、コアなゲーマーがプレイするのではかなり内容が変わってくるという印象です。そういった意味では、ゲーマーがプレイしても楽しい作品かと思います。

渡辺氏:そう感じていただけたなら最高です! まさにそういうゲームを作っていきたいですよね。

山内氏:ゲームマーケット2025春での試遊でも、ゲーマーの方が初手から悩んでいたんですよ。かなりジレンマがあって、いろいろ考えても、なかなか決まらない。

渡辺氏:あまり厳密にプレイしなくてもちゃんとゲームになるし、しっかり考えたい人は考えがいがあるゲーム、というのが理想です。それがユーロ系ボードゲームの本来の姿でもありますし、そこを目指したいという気持ちはあります。

『世界の終わりの大運動会』はアートワークとコンポーネントが大好評

──ふたばくゲームズのレーベル第一弾作品として『世界の終わりの大運動会』が6月18日にリリースされました。この作品が最初のテーマに選ばれた理由と、完成までの道のりをお聞かせください。

山内氏:渡辺さんと一緒にボードゲームのレーベルを作っていくという話のなかで、弊社の作品をいろいろとご紹介しました。そのなかでも『小林さんちのメイドラゴン』は6月27日に劇場版映画の公開を控えており、タイミング的にも5月のゲームマーケットにピッタリ。さらに、渡辺さんがすでに考えられていたゲームのアイデアと、この作品が合うということもありましたね。

『小林さんちのメイドラゴン』は月刊アクションで連載当初からずっと人気の作品ですし、アニメ展開やグッズ展開もしていて、ここでボードゲームというこれまでとは違った形で展開することで、また違うお客様が増えるのではないか、という期待もありました。やる作品が決まってからも、渡辺さんとはかなり密に相談を繰り返しましたね。

渡辺氏:ゲームデザインに関して言えば実際に試作して、テストプレイをして、という流れはかなりスムーズだった印象があります。プロダクトとしてまとめていく過程で、イラストやグラフィックデザイン周りはいろいろと試行錯誤がありましたけどね。

山内氏:もともとのゲームのアイデアが渡辺さんのなかにあって、そこからはほとんど変えずに完成しています。あとから細かい調整をしたのは、キャラクターごとの特殊能力ぐらいでしたね。

渡辺氏:一方、アートワークはけっこう意見が分かれました。同じ『メイドラゴン』でも原作漫画のキャラクターデザイン、アニメ版のキャラクターデザイン等あるなかで、『世界の終わりの大運動会』ではそのどちらとも異なるボードゲーム独自のキャラクターデザイン(イラストレーターtoudou ai氏)を取り入れました。この方向性で本当にいいのか、原作イラストをもっと使ったほうがいいのでは?というのは双葉社さんとしては当然悩まれたと思います。

キャラクターゲームなので、原作準拠のほうがセオリー通りなのですが、僕としては結局のところボードゲーム独自の作品性、独自色を出していたほうが、原作ファンにとっても嬉しいのではないか?と感じているんです。もちろん原作を無視するわけではなく、『小林さんちのメイドラゴン』という作品自体が持つさまざまな側面のなかで「かわいらしさ」の方向に完全にフォーカスしたグッズがあっても良いし、それも喜ばれるのではないかと。

山内氏:ゲームマーケットでも、「かわいい!」といって多くの方が購入してくださったんです。イラストやアートワークに惹かれて買っていただけたのかと思うと嬉しいですね。原作のクール教信者先生に実際にゲームを見ていただき、認めていただけたので良かったです。

渡辺氏:先生が喜んでくださったのは、僕らとしても素直に嬉しかったですね!

──原作のクール教信者先生は、『世界の終わりの大運動会』の初回特典となるカバー型のダブルパッケージのイラストを描きおろしていらっしゃいますね。

渡辺氏:先ほどの「ボードゲームとしての独自路線」をベースにしつつ、ファンサービスとしてはこういうダブルパッケージのような特殊仕様も積極的にやっていく。これは良い姿勢だと思います。もちろん正解はひとつではありませんが、キャラクター原作もののボードゲームを作るうえでひとつの正解のような考え方かもしれない、と思いましたね。

山内氏:原作付きのものだと、天井が見えるといいますか、爆発力がないのではないかという懸念があったんです。

渡辺氏:そこは難しいところですよね。原作つきのボードゲームは、原作ファンとボードゲームファンの両方が買ってくれるので2倍売れます!となると一番いいのですが、実際には「原作も知っているしボードゲームも好き」という人だけが買う、という状態に陥ってしまうケースも時々あって、今回の作品がそうならないように、というのは特に意識したことです。今回のように、原作とは雰囲気の違うイラストを採用するのは勇気のいる決断ですし、これを許してくれる双葉社さんの思い切りの良さ、フットワークの軽さはふたばくゲームズの強みになっていくと思います。

山内氏:もちろん我々としても悩んだところで、コンポーネントにしても原作の絵をそのまま使うほうがいいのではないか、という議論がありました。ただ今回のイラストは魅力があるものでしたし、これで勝負してみたいと思ったんです。

──Xなどで作品の評判を見ても、実際にイラストをはじめとするコンポーネントの評価が非常に高いですね。特に木ゴマについては、多くの人が絶賛しています。

渡辺氏:とにかく大きい(高さ約35mm)。厚くて大きな木ゴマが入っているというのは、キャラクターゲームとしてはあまりやられていない切り口なのですが、これも良かったと思います。

以前『ゴジラ』のゲームを作ったときに(アークライト『ゴジラ』、2022年発売)、ゴジラのコマは普通なら樹脂製のフィギュアがいいと思うのですが、あえてクラシックな木ゴマにしたんですね。というのも、ゴジラのフィギュアはすでにこの世にたくさんあるわけです。ファンの方なら、恐らくお持ちになっているでしょう。ですが、ゴジラの木ゴマが世に出る機会はほとんどない。だからこそ、ボードゲームなりの特徴を出そうと思ったときに木ゴマが良いのではないかと思ったんです。

今回の『小林さんちのメイドラゴン』も、フィギュアやアクリルスタンドなどのグッズがこれまでにたくさん出ていますし、今後も出ると思うのですが、木ゴマになることはほとんどないはずです。ボードゲームらしいアイテムにしたことで、ファンの方にも喜んでもらえたのではないでしょうか。

──コンポーネントが豪華なぶん、コストがかさんだのでは?

渡辺氏:値が張るパーツの数自体はそれほど多くないので、シンプルにまとめたぶん、ひとつひとつをクオリティが高いものにしたという感じです。グラフィックデザインを担当したTANSANさん(タンサンあさと氏 @tansanasa)も、ここまで自由にやらせてもらえるケースは珍しいので、喜んでやってくれました。描き下ろしダブルパッケージのカバーのデザインも、彼と話し合って決めたものです。

──青いボックスの色と黄色いロゴのデザイン、のどかな西洋風の風景のイラストは、ボードゲーマーとしてなんとなく既視感があるような……? 「大」の字も人型の何かに見えます。某アワードを思わせる、それっぽい赤いマークも付いていますね。

渡辺氏:赤いマークはリボンで、良く見ると“Sugoku Omoshiroi desu”というトールのメッセージが入ってるんです。このあたりは、特にタンサンの遊び心でやってくれたところですね。暗に伝えているメッセージとしては、これは古き良きユーロ風のゲームなんだ、ということです。パロディ的な面白さもありますが、どんな感じのゲームなのかイメージできるように、という意図がありますね。

山内氏:原作もののゲームはキャラクター頼りで、しっかり作っていないと思われたくないということもあって、ゲーマーの皆さんにも訴求力があるような遊びを入れ、それをパッケージに反映したという感じです。

――ゲームのアイデアは以前からあったものだとおっしゃいましたが、これは実際にゲームを作るという段になって、過去に考えたものから作品に向いたものを出してきたということなのでしょうか。

渡辺氏:原作を読みながらどんなゲームにしようか考えたとき、超人的な強さのキャラクターがたくさん出てきますから、まずは分かりやすいバトル系の方向かな?という案も浮かびました。ただ、バトルだけだといまいち『小林さんちのメイドラゴン』らしくないというか……やはり、ほのぼのとした日常シーンと人間離れしたキャラクター達のギャップが『メイドラゴン』の魅力なので、一応競争でもあるんだけど、運動会っぽいドタバタコメディ感のあるレースゲーム、というのは『メイドラゴン』っぽいかなと。

このレースゲームのプロトタイプとなるシステムは、自分が以前に別の作品で試したことがあるシステムでした。粗削りだけど面白いシステムだと思っていたので、それを下敷きにブラッシュアップし、完成させたという感じです。

――カードを使って誰の駒でも動かせるというアイデアは、最初の状態からあったのでしょうか。

渡辺氏:それはプロトタイプの時点でありました。あとから追加したのは、キャラクターごとの特殊能力の要素ですね。やはりキャラクターものですから、それぞれのキャラを立たせるという意味でも必要かなと。ただ、最初は今ほど強力なものではなくて、もっとささやかな効果だったんです。

ゲーム全体が手堅いバランスで地味にまとまっている印象だったので、もうちょっと派手さが欲しくて、最終調整で全キャラの特殊能力を2倍ずつぐらい強くしました。例えば、トールだったら今は2マス進むという能力ですが、調整前は1マス進むだけでした。トールを基準としてバランス調整したので、それ以外のキャラクターも全体的に2倍に(笑)。これで味付けがかなりハッキリしたので、良い調整だったと思います。

ゲームマーケットで試遊したほぼ全員がゲームを購入

──ふたばくゲームズのレーベル設立と『世界の終わりの大運動会』発売を発表した際に、作品の読者やボードゲーマーなどからの反響はどのようなものだったでしょうか。

山内氏:『世界の終わりの大運動会』は、やはりビジュアル的にすごくかわいいという評判をたくさん聞きました。海外の出版社さんからライセンスアウトの話をいただいたりもするので、そこはキャラクターや作品の新たな魅力を伝えることができたのではないかと思いますし、私たちも「やって良かった」と思うところですね。

ふたばくゲームズのレーベル設立については、1作目ということもあって、まだ手応えを感じていません。作品を作っていかないとレーベルの力がついてこないので、そこは今後もゲームを出し続けて“ふたばくゲームズ”を育てていきたいと思っていますね。

──海外での出版も視野に入れていらっしゃるのでしょうか?

山内氏:『小林さんちのメイドラゴン』の原作を翻訳・出版している国はいくつもありますから、そこに向けてアプローチすることは必須だと考えています。現在は海外担当の部署と情報を共有している状態ですね。『世界の終わりの大運動会』はルールがシンプルで、翻訳が容易というのも大きな利点です。

渡辺氏:このゲームはあまり言語依存がないので、翻訳は難しくない気がします。

山内氏:ゲームマーケットで海外のお客様が来たときも、AIで翻訳した説明書を見せながら説明しただけで理解していただけましたし、ローカライズはやりやすいと思います。

──双葉社はゲームマーケット2025春に“双葉社&小学館&ドロマイ”ブースとして出展し、そこで『世界の終わりの大運動会』の先行発売と試遊が行われました。

山内氏:初めてブースを主催することになったので(※3)、お客様がまったく来なかったらどうしよう、と不安がありました。ですが、土日のぶんとして用意していた在庫が初日で無くなる勢いで売れてしまい、急いで会社から追加を持ってきてもらって補充したほどの盛況でした。そこで今回のゲームマーケットでの成功を実感しました。

限られた範囲での宣伝活動しかしていないにもかかわらず、これだけたくさんのお客様が来てくださったのは、本当にありがたいことでした。あとは、試遊したお客様ほぼ全員にゲームを買っていただけたというのも良かったですね。

渡辺氏:試遊で購入を決めていただくのは、制作側としては一番嬉しいことです! 実際の面白さで認めていただいたということですから。

山内氏:とにかく見た目が良いですから、原作を知らない人でもゲームを見て惹かれるものがあって、実際に遊んだときに「これは面白い」と思っていただけたのかな、と。発売前には、ゲームを買おうと思っているけど、原作を知らないので予習のために漫画を買って読んでいる、という人もいらっしゃいました。想定している原作ファンとは違う女性層ですとか、小さなお子さんがかわいいといって手に取ってくださったこともありましたね。これこそ、私たちが理想とする流れです。

渡辺氏:本当に嬉しいことですよね。しかもSNSで積極的に発信してくださるのもありがたい!作ってよかったなあ……という実感が湧きます。今回は「かわいさ」というシンプルなテーマを追求したのも良かったですね。toudouさんのイラストの魅力のおかげです。

※3ゲームマーケット2023秋で『赤ずきん、舞踏会で死体と出会う。』を出した際は、Anagumaブースからの出展。

気になる次回作、そしてふたばくゲームズの今後は?

──双葉社は『小林さんちのメイドラゴン』のほかにも有力なコンテンツを多数お持ちになっています。お話しいただける範囲で結構ですが、すでにゲーム化が決まっているタイトル、もしくは今後ゲーム化が考えられるタイトルについて、どのようなものがあるのでしょうか。

山内氏:今年、植田まさし先生が連載45周年をお迎えになります。これを祝して私どもからも何かできないかということで、植田先生の弊社作品『かりあげクン』(※4)のゲームを出したいな、と考えております。

──植田まさし先生の作品では、他社になりますが昨年テンデイズゲームズより『フリテンくん』のカードゲームがリリースされていますね。

山内氏:私たちはまったく知らない話だったので、まさかの被りという感じです(笑)。

渡辺氏:『かりあげクン』のゲームですが、ルール自体はほとんどできていて、非常に面白く仕上がっていると思っています。原作の良さ、素材の良さをそのまま活かしている感じのゲームになるので、期待していてください。

山内氏:『かりあげクン』は秋のゲームマーケットに出展できれば。他にゲーム化したいタイトルといえば、双葉社の看板ということで『クレヨンしんちゃん』は外せない。こちらは何も決まっていることはありませんが、いつかやりたい、という強い意志があります。

あとはマダミス『赤ずきん』シリーズの第二弾も考えています。パッケージになるか、Web販売になるか、公演型になるかといったフォーマットはまだ決まっていないのですが、ぜひやりたいですね。それと弊社には「小説推理」という文芸誌があり、多数のミステリー作家さんにご執筆いただいていますから、先生方に原作・原案をお願いして『赤ずきん』とは違った新しいマダミスのシリーズをやるのもいいかと思っています。

渡辺氏:ミステリー作家さんに原作・原案をしていただけるのであれば、マダミスはもちろん、謎解きですとか、もっと他の形態を取ることもできると思いますね。昨今はストーリー性を強めたゲームも増えてきていますし。

山内氏:そのあたりは、まさに弊社のような出版社が得意なジャンルという気がします。マダミスは読むテキスト量が多く、言ってみれば小説のようなものですから。

渡辺氏:ファンタジーものなども良いですね。異世界ファンタジーは元からゲームっぽい世界観の作品も多いですし。その他の作品についても、双葉社の出版社としての歴史が長いぶん、可能性のあるタイトルがたくさんあります。

山内氏:現段階では構想ばかりで、『赤ずきん』以外は願望込みといったところですが、まずはお話ししたあたりの作品のゲーム化を目指していきたいと思っています。

※4『かりあげクン』:植田まさし先生作、サラリーマンのかりあげ正太が起こす騒動を描いた4コマ漫画作品で、風刺やブラックユーモアを散りばめた作風が特徴。1980年から漫画アクションで連載を開始、掲載誌を変えつつ2024年に再び漫画アクションに復帰。2025年6月現在、既刊68巻まで発売中。1989年アニメ化、2023年ドラマ化。

【参考:双葉社の作品】
双葉社の出版物より、代表的なものを3カテゴリに分けてピックアップしてみた。このなかから、今後ゲーム化されるものが出てくるかも……?(ボードゲーム化が決まっているものではないことに注意。作品の並びは順不同)

 

コミック
・『ルパン三世』

・『子連れ狼』
・『じゃりン子チエ』
・『かりあげクン』
・『クレヨンしんちゃん』
・『星守る犬』
・『BARレモン・ハート』
・『ライジングサン』『ライジングサン R』
・『達人伝 ~9万里を風に乗り~』
・『orange』
・『あなたがしてくれなくても』

 

小説
・『麻雀放浪記』
・『告白』
・『京都寺町三条のホームズ』
・『君の膵臓をたべたい』
・『変な絵』

 

ライトノベル/ライトノベル原作コミック
・『魔王様、リトライ!』
・『進化の実~知らないうちに勝ち組人生~』
・『農民関連のスキルばっか上げてたら何故か強くなった。』
・『最強陰陽師の異世界転生記~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~』
・『異世界召喚は二度目です』
・『魔王軍最強の魔術師は人間だった』

・『雑用付与術師が自分の最強に気付くまで』
・『愛さないといわれましても~元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる~』
・『ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される』

オリジナル作品もラインナップ予定、気になるデザイナーは……?

──『世界の終わりの大運動会』は、渡辺様ご自身がデザインをされています。ふたばくゲームズの今後のタイトルについて、どのようなクリエイターをアサインしてゲームデザインをするか、決まっていることやお考えになっていることはありますか。

渡辺氏:『世界の終わりの大運動会』についても、最初は他のデザイナーさんにお願いするつもりでした。私はゲームを作る話をいただいたら、まずどんなものにしたいかという方向性を考え、そのタイプのゲームのデザインが得意なデザイナーさんにお願いするというスタイルです。ただ、今回はシンプルなレースゲームにしようと決めたとき、自分が昔作ったプロトタイプがあったのを思い出したので、それを使うことにしました。

今後は極力いろいろなデザイナーさんにお願いするつもりでいます。実はすでにお願いすることが決まっている方がおひとりいまして、それはBakaFireさん『惨劇RoopeR』『桜降る代に決闘を』など)です。

──BakaFireさんは物語性が高いゲームを作ることで知られていますね。

渡辺氏:そう、まさにBakaFireさんの「物語フェチ」的な側面が活かされたゲームで、そこが見どころです!一方、システム面ではコアユーザー好みのイメージが強いBakaFireさんですが、今回のゲームはかなりカジュアルで、そういう意味では異色&挑戦作でもあります。これがさっき山内さんの話に出た「出版社から発売するということに意味があるオリジナルタイトル」ですね。

──BakaFireさんデザインのゲームは、原作がないオリジナル作品になるのですね。こちらは、いつごろの発売を想定していらっしゃいますか?

山内氏:進行具合にもよりますが、ゲームマーケット2025秋に間に合えば『かりあげクン』と一緒に出展できますから、バラエティーに富んだラインナップになっていいですね。

──今後の話になりますが、どれぐらいのペースでゲームをリリースしていく予定なのでしょうか。

山内氏:やはり継続して出して、レーベルを認知してもらいたい。単発で出していても厳しい部分があります。できればゲームマーケットごとに新作を用意したいですし、それが難しくても1年に1作は出したいと思います。

──最後に、ボードゲーマーや双葉社様の作品のファンに向けて、皆さんからひとことお願いいたします。

山内氏:何でもできるのが弊社の強みだと自負しています。これまで申し上げた作品のファンの方にボードゲームをやっていただきたいですし、作品をまだ知らない方や、ボードゲームのファンの方に遊んでもらい、「どんな作品なんだろう?」「こういう作品なんだ」と読んでもらうまでの流れを作るものとして注目していただきたいと思っております。

渡辺氏:『世界の終りの大運動会』を通して双葉社の皆さんと実際にゲームを作ってみて、すごく自由でフットワークが軽い現場という印象を受けました。今のお客さんは消費者としての練度が上がっているので、「予想通り」の商品にはあまり興味をもってもらえません。ですから、作る側は「置き」にいってはダメで、「ちょっとだけはみ出す」というのが商品企画のコツだと思っています。しかし一方でビジネスの現場というのは非常にシビアな場所でもあるので、この「ちょっとだけはみ出す」ものが許される環境も貴重ですよね。

これを自然に、スタッフの皆さんが楽しみながらやっている雰囲気なのが“ふたばくゲームズ”の大きな強みです。楽しい現場からは楽しいゲームが生まれますから、今後の作品にも期待してください!

ふたばくゲームズのメンバーは、漫画雑誌編集部や宣伝プロモーション部などいろんな部署からアナログゲーム好きが集まって結成。各自本業がありつつ、ふたばくゲームズに参加している


好評を博した第一作『世界の終わりの大運動会-小林さんちのメイドラゴン ボードゲーム-』で注目を浴びたふたばくゲームズ。今後については、春秋のゲームマーケットごとに新作を発表していくことを目標にしたい、とのこと。

新作としてすでにリリースが決定している『かりあげクン』については、原作の4コマ漫画の特性を活かしたシステムと、双葉社の版元としての強みを最大限に活かした作品になっているそうで、こちらも期待大。また、今回の話中に出てきたBakaFire氏デザインのオリジナル作品についても、どんなゲームになるか楽しみだ。

多くの魅力的なコンテンツを有する双葉社と、数々のレーベルやプロジェクトを主導してきたドロッセルマイヤーズ渡辺範明氏の融合による化学反応は、予想もつかないタイトルを生み出す可能性に溢れている。今後どのような仕掛けがあるのか、注目していきたい。