アークライトの『Kaiju on the Earth』シリーズ(以下、『KOE』シリーズ、もしくは『KOE』)は、怪獣対人類というキャッチ―なテーマと、注目のクリエイターがデザインに参加し、作品ごとにがらりと変わる独創的なシステムが評判を呼んだ。
Kaiju on the Earth公式サイト:https://kaijuontheearth.com/
『KOE』シリーズは、これまでseason1として第一弾『ボルカルス(ゲームデザイン:上杉真人[I was game])』、第二弾『レヴィアス』(ゲームデザイン:金子裕司[かぼへる])、第三弾『ユグドラサス』(ゲームデザイン:林尚志[OKAZU brand])、そして番外編“Kaiju on the Earth LEGENDS”として『ゴジラ』(ゲームデザイン:川崎晋[カワサキファクトリー])が発売された。いったんseason1の終了が発表され、今後の展開が注目されていた『KOE』シリーズだが、ゲームマーケット2022春にて待望の続編『KOE season2』の構想が発表される。
ドロッセルマイヤーズ渡辺氏のnote:https://note.com/drosselmeyers/n/n9273d068018a
そして、『KOE season2』の開幕を記念して、去る2022年9月24日に渋谷LOFT9でファンミーティング“Kaiju on the Earthサミット2022S2”が開催された。
【Kaiju on the Earthサミット2022S2 出演者】
●ディレクター:渡辺範明(ドロッセルマイヤーズ)
●プロデューサー:野澤邦仁(アークライト)
●アシスタントプロデューサー:小池淳皓(アークライト)
【ゲスト】
●第4弾ゲームデザイナー:ポーン(ステッパーズ・ストップ)
●第5弾ゲームデザイナー:明地宙(SoLunerG) & 上杉真人(I was game)
●第6弾ゲームデザイナー:BakaFire(BakaFire Party)
イベント中は『KOE』の総合ディレクションを務めるドロッセルマイヤーズ渡辺範明氏と第4弾~第6弾のデザイナー陣による、濃密なゲーム制作についてのトークが展開された。今回は、180分にも及んだこのイベントのレポートをお届けしよう。
なお、このイベントは会場観覧のほか、ツイキャスを使った有料の配信でも公開された。チケットを購入すれば2022年10月8日23:59までアーカイブ視聴が可能視聴なので、興味がある人はぜひ見てほしい。
渋谷LOFT9のイベントページ(チケット購入):https://www.loft-prj.co.jp/schedule/loft9/228802
アーカイブ配信ページはこちら:https://twitcasting.tv/loft9shibuya/shopcart/183878
開催当日に台風直撃で波乱の状況のなか、イベント開始
イベントが始まると、ドロッセルマイヤーズ渡辺氏とアークライト野澤氏、小池氏、そして第4弾デザイナーのポーン氏、第6弾デザイナーのBakaFire氏が登壇。しかし、名古屋から来る第5弾デザイナーの明地(めいち))氏、上杉氏は、折しも東海地方を直撃した台風15号の影響で新幹線が運休となったため、会場に遅れて到着することが発表された(北のほうを経由する別ルートがあったとか)。
壇上の背後のスクリーンには、『KOE season2』のキービジュアルが映し出された。その元画像がこちら。
個々の怪獣の名は秘匿事項(!)ということで明かされなかったが、キービジュアルには3体の怪獣の姿が描かれていた。このうち、中央の怪獣が第4弾、その左上のビルの中に顔が見える怪獣が第5弾、中央上に影が見えている怪獣が第6弾にそれぞれ登場するとのこと。
ここで、ゲーム以外の『KOE』シリーズの商品展開について発表があった。まずはボルカルスのフィギュア。イベント会場内にも展示されていた。サイズについては渡辺氏いわく「思ったよりも大きい」とのことで、ギリギリでボード上に置いてゲームプレイ時も使える怪獣ユニットになりそうだ。
続いて、『KOE』シリーズのファンブック『KAIJU APOCALYPSE』。完全受注生産で、設定画や未公開の設定、関係者インタビューなどが収録されている。他に、ボルカルスTシャツ(中北晃二氏・画)、レヴィアスハンドタオル、ユグドラサスステッカーセット、マグカップ(うらまっく氏・画)、トートバッグなどが紹介された。また、別のプランとして『KOE season1』の全作を入れても余裕の大容量スクウェアバッグや、ラバーストラップ等も準備中だという。
10月12日にクラウドファンディング開始予定の発表があり、これらのグッズと第4弾についての詳細もそのときに出るとのことだった。
第4弾はソリティア! 増殖する虫型モンスターと人類の対決
ここで、『KOE』シリーズの誕生秘話を渡辺氏、野澤氏が語った。まずアークライトとドロッセルマイヤーズで何かやろう、という漠然とした目標から始まり、そこからアークライトを代表するようなキャラクターを作りたいという目的が出てきたそうだ。さらに、ストーリー性のあるシリーズものにするという希望が加わり、変わらない軸として“怪獣”というテーマを据えて統一感を出しつつ、毎回違うゲームにしていくという方向性が定まった。そして、作品ごとに違うゲームにするのであればデザイナーも作家性を重視しつつ毎回変えていこうということで、現在の『KOE』の骨格が出来上がった。
続いて、『KOE』第4弾のデザイナーであるポーン氏が登壇。
●第4弾ゲームデザイナー:ポーン(ステッパーズ・ストップ)※代表作:『シェフィ』『ゴリティア』
まず、現時点である程度の情報が出せる『KOE』第4弾について発表。なんと、ソリティア(一人用)ゲームであることが明かされた。デザイナーのポーン氏の代表作『シェフィ』もソロ用のカードゲームとして人気だ。渡辺氏は、『KOE』シリーズはすべての作品でテイストを変えているとのことで、『KOE』第4弾を一人用にすると決めたとき、デザイナーはソリティアを得意とするポーン氏をおいて他にいないと思ったという。
ポーン氏自身は“数”、それもたくさんの“数”にこだわりがあると語る。『シェフィ』は、ひつじの数をどんどん増やしていくゲームだった。一方、『KOE』第4弾については、大量に増殖する虫型のモンスターを退治してというテーマで、『シェフィ』とは逆に数を減らしていくゲームになっている模様(渡辺氏いわく『逆シェフィ』)。
ソリティアゲームはゲーム配信にも向いており、さらに多人数で相談しながらプレイしても楽しい。渡辺氏は、アナログゲームのひとつの形式として、ぜひ『KOE』シリーズにもソリティアを加えたかった、とのこと。ちなみにゲームの難度はかなり高めに仕上がっているそうなので、歯応えのあるタイトルになると思われる。
ふたりのデザイナーの合作となる『KOE』第5弾は“ダブルス”のようなゲーム!?
続いて、第5弾のデザイナーである明地氏、上杉氏が登壇した。新幹線の運休により遅刻が心配されたが、なんとか登壇時間までにたどり着いた。
●第5弾ゲームデザイナー:明地宙(SoLunerG)※代表作:『フォグサイト』『まっくらダンジョン』 & 上杉真人(I was game)※代表作:『ペーパーテイルズ』『ダンジョンオブマンダム』『マグノリア』『ボルカルス』
『KOE』第5弾のデザイナーは最後に決まった。第4弾、第6弾は先に誰に頼むか、どのようなゲームにしたいかの想定があり、第5弾は意図的に空けていたそうで、ちょうどその頃に明地氏の『フォグサイト』がゲームマーケット大賞2019を受賞。アークライトから『フォグサイト』のリリースが決まったこともあって、野澤氏から強い推薦があった。しかし、明地氏は『KOE』シリーズのデザインについてはいったん断りを入れたそうだ。そのため明地氏と旧知の仲で、名古屋のテストプレイ会などで共に活動していた上杉氏にサポートに入ってもらうようお願いし、明地氏もそれを了承してふたりのタッグによるデザインが決定した。
明地氏はアイデアをどんどん出し、それをデザインしているゲームに入れ込みたくなってしまうと語る。上杉氏は、それを選別したり、方向性を定めたりする役割で、暴走気味になる明地氏にブレーキをかけてくれていたとのこと。それでも「何度も完成したといってから、新しいアイデアが出て直している」と明地氏。
なお、肝心の『KOE』第5弾の内容については、発売がかなり先であることもあり、公開できる情報が少なかった。サービス心旺盛な渡辺氏が(口を滑らせて?)少しだけ明かしたところによると、「ふたりで作っているということが影響しているのか、プレイヤーふたりのコンビネーションが試されるゲーム。いわば、ダブルスのようなものです。敵の怪獣も2体出現します」とのことだ。
『KOE』第6弾は“シリーズの到達点”であり“深みを持つ”タイトルになる……?
『KOE』第6弾のデザイナーであるBakaFire氏が登壇。
●第6弾ゲームデザイナー:BakaFire(BakaFire Party)※代表作:『惨劇RoopeR』『桜降る代に決闘を』
渡辺氏は現時点で言えることは少ないと語りつつも、「第6弾に登場する怪獣は、とにかく強いです。これまでとは次元が違う強さ。それは、BakaFireさんに作ってもらっているゲームがどのような内容かということに関係しているんですが……その部分がいちばん話せない(笑)」。『KOE』シリーズを作り続け、怪獣の数が揃ったときに、ここに到達したい――。そんな想いが込められているのだという。BakaFire氏も「怪獣がたくさん出てきたら、いずれこうなるでしょう、という感じですね」と語った。
渡辺氏はBakaFire氏について「戦略に奥行きがある緻密な対戦ゲームを作る。それと、ひとつのタイトルを長く運営して育てていき、プレイヤーを長期間遊ばせることがことができる」と高く評価。第6弾については、それだけの深みを持つタイトルとして送り出したいと思っているという。テストプレイでも早くから完成度が高いものができあがっているとのことなので、期待が高まるところだ。
また、渡辺氏は日本人の作るゲームの特徴として物語性の高さを挙げた。その見本となるのがBakaFire氏の『惨劇RoopeR』で、だからこそ『KOE』第6弾はかなり早い段階からBakaFire氏にデザインを頼もうと思っていたとのこと。
ひとりひとりが目標を語る。『KOE』シリーズは海外展開も視野に?
最後に、登壇者全員が一堂に会して歓談。今後どうしたいか、という渡辺氏の問いに対しては、ひとりひとりが胸のうちを語った。
ポーン「これまで単発の作品を多く作ってきましたが、これを繋いで作品群という形にして、プレイヤーがその作品群に長く情熱を傾けてくれるような……“ポーンユニバース”を確立したいですね」
明地「とにかく(ゲームを)作り続けたいと思っています。いま、頭の中にあるアイデアがたくさんありすぎて、これを出していくには、いかに長く生きていられるか、という。それと、後進の育成というわけではないですが、若い方にものを作る楽しさを伝えていきたいです」
上杉「僕の長期的なプランとして、“日本人総ゲームデザイナー化計画というものがありまして(笑)。日本人は世界的にも優れたゲームデザインをすると思っています。誰もがゲームを作って、日本が海外にゲームを輸出して外貨を獲得する。そういうことを考えています」
BakaFire「漠然としていて伝わりにくいのですが、自分が本当に表現したいものは何かと考える機会があって、それを物語構造と絡ませることにワクワクした気持ちを感じたんです。それがボードゲームという形態を取るかは分からなくて、一定のメカニクスを通じて何かの体験を提供するような、そういったものを作り出していきたいですね」
渡辺「KOE season1でいくつか達成できたことと、達成できていないことがあるんですが、その達成できていないことのひとつが海外展開です。水面下での動きはあるのですが、一番嫌なタイミングでコロナ禍の状況になってしまい、いったんリセットされてしまったというところ。『KOE』は日本を代表するゲームのシリーズにしたいと考えていて、日本国内のアナログゲーマーからの知名度はある程度獲得できたと思うのですが、海外には知られていない。これが『KOE』シリーズのこれからの課題です」
最後に全員で集合写真。ゲームデザインのジャンルにおいて、これだけの気鋭のメンバーがひとつのシリーズに揃うことはほとんどない。『KOE』シリーズが持つパワーとブランド力は、今後も増していくことだろう。