ボードゲームにおける勝ちとは? ルールから読み解くゲームデザインの意図

オリンピックやワールドカップ、レース競技等と違い、ドイツゲームの流れを汲むモダンボードゲームにおいては、2位以下を規定することが少ない。このことを根拠に、ゲームに取り組む際、たとえ1位になる望みが小さくても2位に甘んじず、1位のみを目指すべきだという考え方がある。筆者も同意見である。

今回は2位以下に価値について論じていく。

ドイツ年間ゲーム大賞作などのルールを確認してみる

まずは、ルールに規定されているかどうかを確認していこう。以下は日本発のカードゲームである『スカウト』がノミネートされたことで話題のドイツ年間ゲーム大賞の勝利条件についてまとめたものである。

▲2022年のドイツ年間ゲーム大賞授賞式。今年は「カスカディア」が大賞に。このゲームは「最も点数が高いプレイヤーが勝利」となる

ドイツ年間ゲーム大賞作

1979年 ウサギとハリネズミ (Hase und Igel)
早くゴールに辿り着くことが目的。勝者には言及されていない。順位に言及あり。

1980年 ラミィキューブ (Rummikub)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

1981年 フォーカス (Focus)
最後まで残った人が勝ち。

1982年 ザーガランド (Sagaland)
一番早く宝物が隠されている場所を3つとも正しく示すことのできたプレイヤーの勝ち。

1983年 スコットランドヤード (Scotland Yard)
チーム戦なので、2位以下の概念がない。ミスターXの勝ちか捜査官チームの勝ち。

1984年 ダンプフロス (Dampfross)
最も所持金が高いプレイヤーの勝ち。

1985年 シャーロック・ホームズ10の怪事件 (Sherlock Holmes Consulting Detective)
1人用ルールと協力ゲームのほかに対戦ルールがあるが、順位には言及されていない。ホームズの得点(100点)を超えると探偵の素質あり。

1986年 アンダーカバー (Heimlich & Co.)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

1987年 アウフアクセ (Auf Achse)
最も所持金が高いプレイヤーの勝ち。

1988年 バルバロッサ (Barbarossa)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

1989年 カフェインターナショナル (Cafe International)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

1990年 貴族の務め (Adel verpflichtet)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

1991年 ドルンター&ドルーバー (Drunter & Druber)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

1992年 ホーマスツアー (Um Reifenbreite)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

1993年 ブラフ (Bluff)
最後まで脱落しなければ勝ち。

1994年 マンハッタン (Manhattan)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

1995年 カタン (Siedler von Catan)
最初に10点に達したプレイヤーの勝ち。

1996年 エルグランデ (El Grande)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

1997年 ミシシッピクイーン (Mississippi Queen)
最初にゴールしたプレイヤーの勝ち。その後は2位3位……となる。

1998年 エルフェンランド (Elfenland)
最も多く駒を集めたプレイヤーの勝ち。

1999年 ティカル (Tikal)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2000年 トーレス (Torres)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2001年 カルカソンヌ (Carcassonne)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2002年 ヴィラパレッティ (Villa Paletti)
脱落していないプレイヤーの中で最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2003年 アルハンブラ (Alhambra)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2004年 チケット・トゥ・ライド (Ticket to Ride)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2005年 ナイアガラ (Niagara)
5色の宝石か、4つの同色の宝石か、7つの宝石を集めたら勝ち。

2006年 郵便馬車 (Thurn und Taxis)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2007年 ズーロレット (Zooloretto)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2008年 ケルト (Keltis)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2009年 ドミニオン(Dominion)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2010年 ディクシット (DiXit)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2011年 クゥワークル (Qwirkle)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2012年 キングダムビルダー (Kingdom Builder)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2013年 花火 (Hanabi)
協力ゲームなので除外。

2014年 キャメルアップ (Camel UP)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2015年 コルトエクスプレス (Colt Express)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2016年 コードネーム (Codenames)
2つのチーム戦なので除外。

2017年 キングドミノ (Kingdomino)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2018年 アズール (Azul)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2019年 ジャストワン (Just One)
協力ゲームなので除外。

2020年 ピクチャーズ (Pictures)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

2021年 ミクロマクロ:クライムシティ (MicroMacro: Crime City)
協力ゲームなので除外。

2022年 カスカディア (Cascadia)
最も点数が高いプレイヤーの勝ち。

その他のゲーム

1935年 モノポリー (Monopoly)
最後まで脱落しなければ勝ち。
ショートゲームでは、1人が脱落した時点で、最も金持ちのプレイヤーが勝ち。

1960年 人生ゲーム (The Game of Life)
最も所持金が高いプレイヤーの勝ち。

1964年 アクワイア (Acquire)
最も所持金が高いプレイヤーの勝ち。

1971年 ウノ (Uno)
最初に200点を獲得したプレイヤーの勝ち。

楽しくゲームをプレイするために
2位以下が規定されていない!?

『ウサギとハリネズミ』(1979年発売)と『ミシシッピクイーン』(1997年発売)のみに順位の規定がある。この結果は概ね印象通りで、ドイツゲームにおいては1位のみが勝者で、それ以外のプレイヤーについては勝者ではないというルールになっている。これは同時に1位以外の順位の決め方についての記述がないということでもある。

▲『ミシシッピクイーン』には順位規定がある

最も点数が高いプレイヤーが勝ちということは規定されているが、次に点数の高いプレイヤーが2位かどうかについては、勝手にプレイヤーが判断しているだけで、点数順で2位とか3位を決めるというのはいわばローカルルールである。

『カタン』を例に出すと、「10点のプレイヤーが勝ち」、ここに疑義はないが、では2位は9点のプレイヤーなのだろうか。勝者の次の手番のプレイヤーが8点で、2点を取る行動ができたとしたらどうだろうか。最も勝ちに近かったのは8点のプレイヤーである。2位という概念を持ち出すことが話をややこしくするのだ。

▲『カタン』では、「合計10ポイント以上になったプレイヤーが「勝利宣言」をすると、そのプレイヤーが勝ちとなります。」とあるだけで、それ以外のプレイヤーについては明記されていない

2位以下を規定しないのはゲームデザイン上の要請でもある。ゲームは勝ち負けを争うものである。争いが発生しないと面白くならない。2位のプレイヤーが2位でいいやと安穏としていると1位のプレイヤーはその地位を脅かされず、予定調和的な作業になってしまう。

また、2位が3位よりも価値があると規定すると、3位のプレイヤーが2位のプレイヤーの足を引っ張るということもあるだろう。2位だったプレイヤーは1位になれず、3位だったプレイヤーは2位になる。1位のプレイヤーは1位のままだ。興醒めである。こういった状況というのは、2位以下を規定していなくとも起こり得るのだけれど、それはまた別の機会に。

ゲームは同じゴールを目指しているからこそ成り立っている。麻雀のような2位以下、あるいはどの程度大きな勝ちかにも価値を認めるゲームもあれば、1位にしか価値がないゲームもある。さらに言えば、アクティビティのような勝ちにすら意味がないゲームもある。ゲームを楽しいものにするためには、参加プレイヤーの全員が共通認識を持ってゲームに臨むことが大切になるだろう。