トランプを用いたゲームはたくさんありますが、その中でも有名なもののひとつに『大富豪』というゲームがあります。「縛り」や「8切り」など、様々な派生ルールがあるこのゲーム。この『大富豪』に似ているようで似ていない、配られた時点ではカードの強さがわかっていない『大富豪』のようなゲーム『マスクメン』について、今回は考えていきたいと思います。
ゲームの概要
ゲームの基本的なルールについては、発売元であるオインクゲームズさんの動画をご覧ください。
場に出されたカードよりも強いカードを出していき、いち早く手札のカードを出し切ることを目的とする点では大富豪と同じです。
手番中にできることは3種類です。
1) 強さの決まっていないレスラーカードを+1枚だす。
2) 今出されたレスラーカードより強いことが確定しているカードを同じ枚数出す。
3) パスする。
それぞれ説明しておきましょう。
1) 場に出されているレスラーカードとの強弱が決まっていないレスラーカードを出す場合には、いま出ている枚数よりも1枚多く出さなくてはいけません。例えば、緑のレスラーカードが1枚出ている場合なら、紫のレスラーカードを2枚出す、という具合です。そしてこの時点で、「緑のレスラーカードよりも紫のレスラーカードが強い」ということが確定しますから、レスラーマーカーを配置します。
このとき、最大でカードは3枚までしか出せない点に注意しましょう。
2) 既に強弱が決定している場合には、いま場に出ているレスラーカードよりも強いレスラーカードを同じ枚数出すことが可能です。例えば下の写真のように、オレンジがピンクよりも強いということが決まっている場合には、場に出されたピンクのレスラーカード1枚について、オレンジのレスラーカードを1枚出すことができます。
3) カードが出せないときや出したくないときにはパスをします。
強弱を考えることで培われる場合分けの力
このゲームでは、自分の持っているカードの強さが決まっていない、という点が最大の特徴です。ルールを読んだだけではわからない点も多いと思いますので、少し具体的なゲームの進行について考えてみましょう。
例えば、スタートプレイヤーが青のレスラーカードを出したとしましょう。次のプレイヤーがピンクのレスラーカードを2枚出しました。この時点で、ピンクのレスラーカードは青のレスラーカードよりも強いことが確定しました。そして、次のプレイヤーが緑のレスラーカードを3枚出したとしましょう。すると、今度はピンクのレスラーカードよりも緑のレスラーカードが強いことが確定します。
さて、3枚のカードが出されたので、次のラウンドが始まります。次(下の写真)は紫のレスラーカードが出されたとします。そうすると、次のプレイヤーがピンクのレスラーカードを2枚出しました。ここで、ピンクのレスラーカードは、紫レスラーカードよりも強いことが確定します。さらに、灰色のカードが3枚出されたとしましょう。すると、強さは写真のようになります。
ところが、このときは各列の最下位にいる緑と紫の強弱は決まっていません。また、最上位の緑と灰色の強弱も決まっていません。ただし、確実に緑のレスラーカードは紫のレスラーカードよりも強いですし、灰色のレスラーカードも青のレスラーカードよりも強いことがわかります。
さらに、まだオレンジのレスラーカードは一回も出てきていないので、強弱が完全に不明なままです。次のラウンド(下の写真)でオレンジのレスラーカードが最初に出されたとしましょう。次に、灰色のレスラーカードが2枚出されたので、灰色のレスラーカードは緑色のレスラーカードよりも強いことが確定します。さらに、緑色のレスラーカードが3枚出されました。
これにより、緑色のレスラーカードは灰色のレスラーカードよりも強いことが確定し、各レスラーカードの強さは写真のようになります。このとき、オレンジのレスラーカードは灰色のレスラーカードよりも弱いことは確定していますが、ピンクのレスラーカードや、青、紫のレスラーカードとの強弱は不明です。
このように、強弱が論理的に決定できる関係と、未定の関係が混在していきます。このような状況の中で、ルールを間違えずに正確にカードを出すだけでも、小学生の子供たちにはなかなか大変です。ありうるすべての場合を想定し、論理的に決まっているか、決まっていないかを判断しなくてはいけません。
先ほどの場合を例にとれば、緑が紫よりも強い場合も考えうるし、紫が緑よりも強い場合も考えられる。しかし、ピンクは青より強く、灰色はピンクよりも強いため、灰色が青よりも強いことは決まっている、ということを論理的に考え、判断し、次にどのようにカードを出すかの根拠にしていかなくてはいけません。
このように、複数の選択肢について並列して考えることを「場合分け」と言いますが、中学受験の算数や中学生以降の数学の世界において苦手としている子供も少なくありません。
実体験に基づく経験ほど貴重なものはない
場合分けを苦手とする理由はさまざまですが、その根底にはこのような“複線的な選択肢”に関して、「考えたことがなかったから」というのがあるのではないかと感じています。実生活の場合分けと言えば、「晴れたら運動会」「雨が降ったら授業」などがあげられますが、このような単純な二択から、いきなり座学で紙の世界において「場合分け」を求められても、なぜ場合分けがいるのか、どのような場合に場合分けが必要なのかを理解することが難しいのだと思います。
その意味においては、この『マスクメン』は「場合分け」がぎゅっと凝縮されています。子供たちのアタマは今までに使ったことのない使い方でフル回転することは間違いないでしょう。
慣れるまでは、どのように考えていけばよいのかわからず困惑する子どももいるかもしれません。また、時には間違えることもあるかもしれません。
そんなときには、強弱それ自体を教えるというよりは、考え方や着眼点について教えてあげたり、自分で正解を見つけるまで待ってあげることも大切なことだと思います。
先ほどの例について考えてみると、「共通しているピンクに注目してごらん」と一言伝えてあげるだけでも、十分にヒントとして機能すると思います。ゲームの進行という意味では、やや円滑さを損ないますが、その都度、考えうる強弱を確認していくことで、「場合分けの視座」を養うことができます。さらに、繰り返しプレイしているうちに、確実に「場合分け」できるようになってきますし、それを踏まえた上でのゲームの勘所もわかってくると思います。
最後に
今回は、『マスクメン』を通じて「場合分け」について考えてみました。このゲームは直接的に「場合分け」の重要性を感じ取ることができますが、考えてみれば、早い者勝ちのワーカープレイスメントゲームなど、相手の手によって自分の手を変える必要性のあるゲームは数多くあります。その意味においては、「ボードゲーム自体が場合分けの宝庫」ということができるでしょう。ボードゲームでの体験が算数での場合分けに活かされると信じてはいますが、その答えは数年後に我が家で明らかになります(笑)。