『ポンジスキーム』日本語版発売を記念して、本当にあった事件や実在の犯罪者を題材にしたボードゲームを調べてみた

202323日にすごろくやから『ポンジスキーム』の日本語版が発売されました。

従来の海外バージョンとゲーム内容に変わりはありませんが、日本オリジナルの新たなイラストが描かれたパッケージに変更され、説明書も新しくなり、衝立の裏側には簡略化されたゲームの流れが記載されています。さらに紙幣立てが付属しているのでテーブルをキレイに使えて、オリジナルより遊びやすくなっているようです。

『ポンジスキーム』は投資詐欺をしてお金を稼ぐゲームで、実在した詐欺師がテーマになっています。悪いことをした人を捕まえるのが目的ではなく、犯罪で財を成すのです。犯罪者にスポットを当てるとはなかなか珍しいですよね。台湾生まれのボードゲームで、尖ったテーマ選びとなっています。

古今東西、実際に発生した過去の事件をベースにした映画や小説はたくさんありますが、ボードゲームとなると少なそうですよね……。一体どれくらいあるものなんでしょうか? 『ポンジスキーム』以外に存在するんでしょうか?

という訳で、実際の事件や実在の犯罪者を題材にしたボードゲームをあるだけ調べてみました。

チャールズ・ポンジ

1919年にアメリカ・マサチューセッツ州のボストンで、国際返信切手券の国ごとの交換レートの違いによる差益を得る投資会社を設立した人物。90日で4050%の利益が出ると言って不特定多数の投資家から資金を集め、実際には運用せずに他の投資家への配当として返金に使ったり、住宅や車を購入するなどの遊興費に使っていた。俗に言う自転車操業詐欺で、チャールズ・ポンジが最初に考えた手口なので現在も「ポンジスキーム」と呼ばれている。

ポンジスキーム

ポンジスキーム35人/12歳〜/6090分〉

配当を支払うために投資を募る自転車操業詐欺ゲーム。

資金を調達するといずれ配当金の支払い期限がやって来るので、再び資金を調達する必要があります。配当金の支払いは雪だるま式に増えていくので、ゲーム中ずっと苦しい思いを味わうことになり、誰か1人が破産したらゲーム終了です。このゲームが変わってるのはお金を稼ぐ方法がなくて、とにかく自転車操業でお金を集め続けるしかないのです。「誰か破産してくれ…」と願わずにはいられないハッタリを続けるゲーム性で、ゲーム終了時には詐欺をやっちゃいけないなと心底思うはずです。他に似たゲームが見当たらない唯一無二の存在。

アル・カポネ

アメリカ・イリノイ州のシカゴを牛耳ったギャング。1920年に施行された禁酒法をきっかけに闇酒の販売で多額の利益を得て、議員や警察や裁判所を買収し勢力を拡大させた。禁酒法時代をテーマにした映画も多く『アンタッチャブル』ではロバート・デ・ニーロが、『スカーフェイス』ではアル・パチーノが、『カポネ』ではトム・ハーディがアル・カポネを演じている。

ギャングスター

〈ギャングスター/24人/9歳〜〉

高得点を獲得してアルカポネを目指すタイル配置ゲーム。

縦6×横6のボード上にギャングのタイルを置くか、すでに置かれたタイルを動かして、1列に6枚のタイルが並んだら得点計算。列ごとにタイルの数字比べをして得点を稼ぎます。アル・カポネっぽさはありませんが、ボードにはシカゴの街が描かれていて列ごとにマジョリティ争いが行われるので、それがギャングの抗争をイメージしているのでしょう。

シカゴ 縄張り争いボードゲーム

〈シカゴ/4人/12歳〜/60分〉

禁酒法時代のシカゴでより多くのお金を稼ぐのが目的のボードゲーム。

子分を縄張りに配置したら、抗争で他のマフィアの子分を倒して独占を狙うエリアマジョリティとなっています。子分の葬式代を持ってないと抗争が出来ないなどマフィアの懐事情が関係してくるのがなんともユニーク。独占した縄張りにカジノや密造酒工場を作れば収入は倍増するので、どんどん抗争に勝ってお金を稼ぐ必要があります。このゲームが面白いのは稼いだお金を慈善事業に寄付が出来て、毎ラウンド最も寄付した人は他人を警察に密告出来る点。自分も密造酒で稼いだくせに密告って。アルカポネが慈善事業家としても有名だったので寄付額を比べるようです。こう見えて日本生まれのゲームで、鈴木銀一郎さんの作品。

ジャック・ザ・リッパー

18881891年にイギリス・ロンドンのホワイトチャペル付近で犯行を繰り返した連続殺人犯。警察署には犯人と思われる人物からの手紙が多数届き「切り裂きジャック」と名乗っていた。4年の間に11件、内臓がえぐられるなどの残忍な殺人事件が発生したがいずれも犯人は捕まっておらず未解決のまま。

ミステリーラミー ケース1:ジャック・ザ・リッパー

〈ミステリーラミー ケース1:ジャック・ザ・リッパー/24人/10歳〜/3040分〉

捜査官になって切り裂きジャックを特定しながら得点を稼ぐカードゲーム。

手札から同じ色のカード3枚を一組にして場に出して、手札を無くすのが目的のラミー系です。特殊効果のあるカードがたくさんあって派手な展開を見せます。どの容疑者が切り裂きジャックなのか、厳密にはどの容疑者を切り裂きジャックに仕立て上げるかを予想しながらのプレイになります。

Mr.ジャック

Mr.ジャック2人/9歳〜/30分〉

捜査官と切り裂きジャックに分かれて、自分の勝利条件を満たすのが目的の2人専用ボードゲーム。

捜査官は8ラウンドの間に切り裂きジャックを捕まえるのが目的で、切り裂きジャックは8ラウンドの間バレないか街の四隅から脱出したら勝ちとなります。お互いが共通の8つのキャラクターコマを動かしますが、どれが切り裂きジャックか分からないという正体隠匿の要素もあります。ゲームが進むと街角のガス灯の数がドンドン減っていき、犯人が絞られていくのが良く出来たアイデアですね。切り裂きジャックが不利な気もしますが、事件が解決するのは良いことじゃないですか。

ホワイトチャペルからの手紙

〈ホワイトチャペルからの手紙/26人/13歳〜/120分〉

1人が切り裂きジャックになって、残りの人が捜査官になって目的を達成する非対称協力ボードゲーム。

切り裂きジャック役は毎ラウンド、事件後にアジトに逃げ帰るのが目的です。捜査官は全員で協力して切り裂きジャックの逮捕を目指します。強盗が警察から逃げる名作『スコットランドヤード』に似たゲームですが、鬼ごっこと言うよりかくれんぼをしている感じ。4ラウンド行われますがアジトが徐々に狭まって特定されやすいので切り裂きジャックがだんだん厳しくなっていきます。計画的な逃げ方を考える必要があったり、ルールがちょっとだけ難解だったりして『スコットランドヤード』の上級編ですね。

ボニー・パーカーとクライド・パロウ

1930年代にアメリカ中西部で銀行強盗や殺人を繰り返した男女2人組。1934523日、待ち伏せしていた警官らから150発もの弾丸を運転していた車に連射され、射殺された。ボニーとクライドの2人の出会いや逃避行を描いた映画『俺たちに明日はない』はアメリカン・ニューシネマというジャンルを確立した。特にラストシーンは映画史に残る名場面として挙げられることが多い。

Bonnie and Clyde, love and death.

〈Bonnie and Clyde, love and death./1〜2人/14歳〜/20〜40分〉

ボニーとクライドになって逃走する1人用ゲーム。

実際の事件と同じように強盗犯になって銀行や店舗を襲ったり、車を盗んだりします。警察から常に追われていて、食糧がなくなったり弾薬がなくなると負けです。また愛が無くなってもカップルとして別れを意味しているので負けとなり、様々なことに気を付けながらの逃避行になります。日本語版が出ていないので気軽に遊べないのが残念ですね。モードによっては2人でもプレイ可能になっています。

石川五右衛門

安土桃山時代の大泥棒。文禄3年に京都の三条河原で釜ゆでの刑に処せられたと言われている。底の部分を火のついた薪で熱する釜型のお風呂を処刑のイメージから「五右衛門風呂」と呼び、今も名を残している。歌舞伎の『金門五山桐』や浄瑠璃の『傾城吉岡染』など石川五右衛門を脚色したフィクションも多く、創作物によって作り上げられたキャラクターと実像が実際はどれだけ近かったのかなど謎も多い。

五右衛門

〈五右衛門/24人/10歳〜/3045分〉

戦国時代の権力者になってお金をたくさん集める戦国銭ゲバ策略ゲーム。

カードの効果を駆使して他のプレイヤーの妨害をしたり、民からお金を集めます。夜になると石川五右衛門一味の盗賊がやって来て集めたお金を奪っていくので、タイミングを見計らってお金を埋蔵する必要があります。盗みに入る相手が豪族などの権力者に限られるので庶民からは英雄視されていたというイメージもありますが、このゲームの中では完全に悪役・石川五右衛門としての登場です。

黒髭(エドワード・ティーチ)

18世紀初頭にカリブ海や大西洋沿岸北部を中心に活動していたイギリスの海賊。あごひげが特徴的だったことから「黒髭」と呼ばれた。怖くて強い海賊=黒ひげという印象とは違って、船員の意見を聞いた上で命令を出したり、捕虜を傷付けなかったなどのイメージとは違う説も。

コルセア

〈コルセア/28人/10歳〜/20分〉

自分の商船を港まで運航し、海賊となって他の船を奪って得点を稼ぐカードゲーム。

トリックテイキング風のゲームで、得点となる商船カードを出して一周の間に誰にも攻撃されなければ獲得。商船カードを出すか他人の商船カードを奪うための海賊船カードを出すか、単純ながらジレンマに悩まされます。さすがはクニツィアのゲームです。黒髭の他にもフランシス・ドレイクやアン・ボニーなどの海賊も登場します。

ジャマイカ

〈ジャマイカ/26人/8歳/3060分〉

黒髭やアン・ボニーなどになって海賊船に乗り、いち早くジャマイカ島一周を目指すすごろくゲーム。

親プレイヤーがサイコロ2つを振って、全員がその出目を見てからアクションカードを出して効果を発動します。サイコロの出目とアクションカードを組み合わせた妙! 止まったマスに従って食糧や金を支払いながら進み、他の海賊船と同じマスに止まった時はサイコロを使った戦闘が勃発します。運要素が強めですが戦略的なレースをワイワイ楽しめる作品です。

黒ひげ危機一発

〈黒ひげ危機一発/1〜数人/4歳〜〉

樽に剣を刺して黒ひげが飛び出したら負けというアクションゲーム。

1975年に発売された日本生まれのゲームで、当初は黒ひげの人形を飛ばした人の勝ちというルール。発売から20年経った1995年に黒ひげを飛び出させた人が負けというルールに変更されました。黒ひげの人形が「ミッキーマウス」「ピカチュウ」「スーパーマリオ」「初音ミク」「進撃の巨人」「マツコデラックス」「どぶろっく」などなど様々なバージョンが作られています。

ビリー・ミリガン

1977年にアメリカ・オハイオ州の大学付近で3件の強盗強姦事件を起こした人物。本人は事件を全く記憶していなかったが、本人の内部には24の人格が存在していて、その中の1人の人格による犯行であると認定された。裁判記録や本人のインタビューをまとめたノンフィクション『24人のビリー・ミリガン』が出版され、日本でもベストセラーになって多重人格が広く知られることとなった。

トリッキービリー

〈トリッキービリー/3〜5人/10歳〜/20分〉

人格によってルールが変化するトリックテイキングゲーム。

特殊効果のあるスートかリードカラーのマストフォローをするトリックテイキングです。フォロー出来ないと特殊効果が変更になるので、かなりの読み合いが必要になります。特殊効果は数字の強弱が逆になったり特定のスートが+2になったり様々。多重人格をルールにしっかり落とし込んでいますね。ただでさえ変態トリテなのに、最終的な得点が2位の人が勝者になるという超変わりダネ。

ウォーターゲート事件

アメリカ大統領選挙期間中の1972年6月、ワシントンのウォーターゲートビルの民主党本部に盗聴器が仕掛けられた事件を発端とする一連の政治スキャンダル。共和党のニクソン大統領の関与が明らかになり、現役の大統領が任期の途中の1974年8月9日に退任するという前代未聞の事態になった。アメリカ大統領が任期中に辞任したのは歴史上リチャード・ニクソンただ1人だけ。

ウォーターゲート

ウォーターゲート/2人/12歳〜/30〜60分〉

ニクソン側とメディア側に分かれて、自分の勝利条件達成を目指す非対称の2人専用対戦ゲーム。

ニクソン側は勢力トークンを5つ集めれば勝ちで、メディア側はボード上の2人の証人とニクソン大統領を証拠トークンで繋げば勝ち。カード効果を駆使して証拠トークンを取り合う綱引きがこのゲームの肝で熱い部分です。カードやトークンに使われている写真は実在の写真という力の入れようで、事件の背景を知っておいた方が数倍楽しめるでしょう。2019年のゴールデンギークアワードのベスト2人用ゲーム賞に選ばれています。

ペールベイユ事件

1831年にフランス・アルデシュ県のペールベイユ村にあった宿屋周辺で旅行者の失踪が続出。失踪者がその宿屋で足取りが途絶えていた為、そこの宿主とその妻と使用人が疑われ、逮捕。裁判では有罪判決を言い渡され、ギロチン処刑された。物的証拠が少なく冤罪ではないかと言われている事件。レンガ造りの宿屋は2023年も現存し、家具などを展示する博物館として中を公開している。さらに隣には宿泊施設やレストランやガソリンスタンドも併設していて観光スポットとなっている。

ブラッディ・イン

ブラッディ・イン14人/15歳〜/4060分〉

宿屋の宿泊客を殺害してお金を奪い、所持金を競うハンドマネジメントゲーム。

宿泊客を殺害してお金を稼ぐというとんでもないテーマです。殺害だけではお金がもらえず、建物に埋葬する必要があります。しかも警察官が宿泊に来た時は埋葬してないとワイロを支払わなければいけません。自分の建物が無い場合は他人と稼ぎを折半して埋葬させてもらったり、とにかくやらなきゃいけないことは満載です。何をするにも持っているカードの枚数が重要で手札調整などシステムはしっかりしてて、拡張が発売されるほどの面白さ。ただテーマが不謹慎過ぎる…。

名前分からず

ブラックストーリーズ リアルクライム

〈ブラックストーリーズ リアルクライム/2人〜/12歳〜/2〜222分〉

出題者に対して、はいかいいえで答えられる質問を繰り返して事件の謎を解く水平思考クイズゲーム。

人が亡くなった状況などが出題され、その理由を答えるクイズゲームです。ちょっとブラックな『ウミガメのスープ』と言えば分かりやすいでしょうか。人気シリーズで10作品以上も発売されていますが、実際の犯罪が問題になっているのが本作です。犯人の名前や何の事件かは分かりませんがクイズは50問入っています。他に『ブラックストーリーズ トゥルークライム』と『ブラックストーリーズ ファニーデス』も実際の事件を扱っているので興味がある方は是非。


それなりにホントの事件を元にしたボードゲームはありましたね。実際の事件といっても古いものがほとんどでした。やっぱり、最近の事件では生々しくて楽しくゲームを遊べないというのもあるんでしょうね。メッセージが込められている作品もあるので、ゲームをプレイ後にどんな事があったのかを調べてみるのも意味があることかも知れませんね。