全プレイヤーが1枚ずつカードを出し、勝敗を競うトリックテイキング(トリテ)は、数あるゲームのシステムのなかでもよく知られているものです。BROADには用語も含めてトリックテイキングを紹介している記事があるので、未見の方はぜひご覧いただければと思います。
初心者必読!! 今さら訊けないトリックテイキング用語集&名作トリテ8選
https://broad.tokyo/column/16040
トリックテイキングの特徴としては、先のプレイヤーの出したカードと同じ色やスートのカードを必ず出さなければいけない“マストフォロー”や、他の色より強く設定されている“切り札”の存在など、特有の用語とルールがあること。これらは基本的なルールとして認識されていますが、一方で斬新な追加要素やルールが加えられた“変わり種”のトリックテイキングが続々と登場してきています。
今回は、これまで発売されたタイトルのなかから変わり種トリックテイキングの作品を8つほどご紹介しましょう。
※五十音順に紹介しています。
ヴァス・シュティッヒ
変則要素てんこ盛り! 課題の達成が目標となる元祖変わり種トリテ
プレイヤーは開始時に4つの課題を取り、トリックテイキングのプレイを通じてそれぞれの条件を達成していくことを目指します。課題は“トリックを1度も取らない”“最後のトリックを取る”といったように、さまざまなものがあり、これがマッチアップすることによってラウンドごとに展開ががらりと変化していくのです。
手札は開始時にすべて公開されたものからプレイヤーが1枚ずつ選んで獲得していくため、手札の情報がある程度共有されたものになるのも面白いところ。手札が揃ったら、子のプレイヤーは課題を1つ選んでラウンド開始し、それぞれの課題の達成を目指します。これを毎ラウンド繰り返し、規定回数の課題を最初に達成したプレイヤーが勝者となります。
どの目標を選ぶか、各ラウンドではどの目標の達成を狙うのか、そして、そのためにはどのような手札の構成にすればいいのか。状況によっては、カード獲得時に他人の狙いを邪魔するような取り方をすることが最善手になることもあります。
発売は1993年と古いのですが、数ある変わり種トリックテイキングのなかでも際立って特殊なプレイ感を持つゲームで、慣れている人でも最初は戸惑うかもしれません。しかし複雑怪奇な展開と考える要素の多さは分かってくるとクセになるものがあり、変わり種トリックテイキングに挑戦してみたいと思っている人はぜひプレイしてほしい怪作です。
『ヴァス・シュティッヒ』。4人戦。スーパートランプありのトリテ。規定数の課題を達成すると勝利。ラウンドはじめにカードドラフト。切り札カラーも切り札数字も分からない中で、カードを一枚ずつ選んでいく。この変態め!自分で選んだカードなのに「なんだよこの手札!」と言わずにはいられません! pic.twitter.com/Gb5WNjTKzQ
— ごえじ (@Goeji32) June 7, 2019
【ヴァス・シュティッヒ 概要】
メーカー:ニューゲームズオーダー
プレイ人数:3~4人
対象年齢:12歳~
プレイ時間:30~60分
キャット・イン・ザ・ボックス
確定するまでは可能性が存在!? 量子系トリックテイキング出現!
“量子系トリックテイキング”と銘打たれており、思考実験として有名な“シュレディンガーの猫”をテーマとしたゲームです。最大の特徴は、トリックテイキングでありながら色の概念が後付けとなるところ。カードには1~9の数字だけが書かれており、トリックごとに最初にカードを出すプレイヤーが4色のなかから好きな色を自分で決め、続くプレイヤーはその色をフォローしていかなければなりません。
場に出たカードの色と数字は“確定”となり、4色・1~9のマスがある研究ボード上の対応するマスに出したプレイヤーのトークンを置きます。このトークンを隣り合わせで置いて自身の領域を広げていくことが高いボーナス点を得る条件のひとつとなるため、エリア支配の要素もあります。
なお、研究ボード上にトークンが置かれたマスの数字は、以後使うことができません。出す際に選択できる色は4色ですが、カードはそれぞれの数字ごとに5枚ずつあるため、最終的にはどうしても1枚出す場所がなくなってしまうのです。このため、どのカードも出すことができずに手詰まりとなることがあり、その場合は即座にラウンド終了(これを“パラドックス”と呼び、起こしてしまったプレイヤーはペナルティーを受けます)。研究ボードがすべて埋まってもラウンド終了です。
ラウンドが終了すると、プレイヤーごとに取ったぶんのトリックによって加点。また、開始前に手札を見て自身の勝ち数を宣言しておくのですが、的中した場合はボーナス点を獲得できます。これを規定ラウンド繰り返して勝敗を競います。
常にパラドックスの脅威にさらされるドキドキ感と、うまくいったときの快感がたまらない、唯一無二のプレイ感が味わえるゲームです。
キャット イン ザ ボックス
色の無いカード、色はプレイする時に決める、そのカードはこの世に1枚しか無いからマーカー置いて示す。
でも4色なのに各数字は5枚ある…出せなくならないように立ち回る、辻褄を合わせる理数系トリテ。理数系なはずなのにプレイ中の会話劇が楽しい pic.twitter.com/n3ERlOUxvL— しろう@トマト、ゾンビ、すごろく (@siroup360) November 27, 2023
【キャットインザボックス 概要】
メーカー:ホビージャパン
プレイ人数:2~5人
対象年齢:10歳~
プレイ時間:30~60分
ザ・クルー 深海に眠る遺跡
沈黙から意図を汲み取る協力型ゲーム
2020年にドイツのゲーム賞で三冠を達成した名作『ザ・クルー 第9惑星の探索』の続編。前作の宇宙から舞台を変え、深海探査がテーマとなっています。
ゲームは解説書に記載された全25種のミッションを順にクリアしていく形で行われます。プレイヤーは協力しながら手札を使ってトリックテイキングをプレイしつつ、ミッションごとに設定されたタスク(任務)を達成していかなければなりません。トリックテイキング部分についてはマストフォロー、切り札ありのオーソドックスなもの。しかし、舞台はコミュニケーションが断絶された深海の世界。プレイ中は一切の会話が禁止となり、意思の疎通が難しい状況でのプレイを強いられるのです。
ミッションによっては、複数のタスクの達成が求められたり、さまざまな条件が追加されることも。高難度ミッションの達成は困難を極めることでしょう。しかし、そのぶんクリアに至ったときの爽快感は格別! 無言のなかで仲間と通じ合い、タスクを成功させた瞬間の快感はなにものにも勝るものです。
本作はシリーズ第2作で、タスクの多様化や時間制限ミッションの追加など、前作からいくつかの改訂を加えた正統派の続編となっています。本作単体でプレイ可能で、前作を遊んだことがなくても問題はありません。仲間と力を合わせてプレイする協力型ゲームが好きな人におすすめのタイトルです。
「ザ・クルー:深海に眠る遺跡」協力型トリテ。マストフォロー切り札あり。会話不可など基本的なシステムは前作を踏襲。大きな変更点はMISSIONに関わるタスクカード。人数による難易度など内容が複雑になりトリテ好きならより楽しめます。今年中にMISSIONコンプリートできるかな…。 pic.twitter.com/HQHrpUUz8e
— モリグー (@moriguu2022) March 9, 2023
【ザ・クルー 深海に眠る遺跡 概要】
メーカー:ジーピー
プレイ人数:3~5人
対象年齢:10歳~
プレイ時間:~30分
スパイジョブ
正体隠匿要素が加わった人狼系トリックテイキング
プレイヤーはエージェント側とスパイに分かれ、トリックテイキングをプレイ。毎トリックごとにミッションカードを引き、エージェント側は規定数のミッションカードの達成を、スパイはトリックを取ることで獲得できるスーツケースを一定数集めることを目標とします。どちらも勝利条件を満たさないまま終わった場合は投票となり、エージェント側がスパイを単独で吊るしあげることができなければスパイが勝利します。
基本的なルールはマストフォローで、ミッションカードにより切り札が変動するほかはオーソドックスなトリックテイキングなのですが、スパイのみメイフォロー(マストフォローではなく、自由な色を出せる)。バレないようごまかしつつ、うまく強い手札を温存して後で一気にスーツケースを手に入れれば、勝利に近づくことができます。一方、エージェント側はミッションの達成を狙いつつも、スパイと疑わしきプレイヤーにトリックを取らせないプレイが求められます。
4人以上でプレイする場合は通常のエージェントとスパイ以外にもいくつか他の役割を入れることも可能。特殊な能力を持っていたり、スパイ側に裏切り可能なエージェントであったりとさまざまなキャラクターが用意されているため、組み合わせを変えることでプレイのバリエーションの幅を広げられます。
エージェント側は力を合わせてミッションを達成していく満足感が、スパイ側は身を隠しながら自分だけの勝利条件を目指すドキドキ感がたまらない。シンプルなルールで軽く楽しめますが、招待隠匿と協力型の楽しさが共存したユニークなゲームです。
スパイジョブ
2回プレイ。正体隠匿+トリテという意欲作。最初はスパイ難しすぎ?と思ったが、正体を隠して行動するのにこだわりすぎないのがポイントか。どうにもならないことも多いが意外に面白く、あり寄りのあり!という感想。またやってみたい! pic.twitter.com/IZNgC5T6vw— 山本 右近 (@UkonYamamoto) January 14, 2024
【スパイジョブ 概要】
メーカー:ジーピー
プレイ人数:2~5人
対象年齢:10歳~
プレイ時間:~30分
波乱と海原
海の上に安寧などない! 複数色マストフォローで突如大荒れの展開も?
名作カードゲーム『テキサスショーダウン』の新版として発売されたタイトル。このゲームはラウンドごとにトリックをもっとも多く獲得したプレイヤーが負けとなるため、できる限りトリックを取らないことが理想なのですが、これが難しい。
マストフォローの切り札無し。変わり種たる理由は、そのフォローのルールにあります。先のプレイヤーが出した色が手札に無かった際、どの色のカードを出してもいいというのは通常のトリックテイキングと同じ。しかし、2色以上のカードが場に出ている場合、続くプレイヤーはそのどれかの色の手札を1枚でも持っていたら必ず出さなければなりません。そして、最終的に場にもっとも多い枚数が出ている色のカードの間でトリックの勝敗を決めます。
そのため、リードプレイヤー(最初にカードを出す人)の色をフォローできずに別の色のカードを出したときでも、後から場に出てきたカードによって枚数的に多くなってしまったら、その色のなかでもっとも数字が高いカードを出した人がトリックを取ることになるのです。負けるつもりでカードを出したのにトリックを取ってしまうことがあり、想定外の事態が何度も発生して大いに盛り上がることでしょう。
対応プレイヤー数は3~6名。プレイヤーが多いほど予想外の展開が増えるため、できるだけ多い人数でのプレイが推奨です。ルールがシンプルで理解しやすく、優れたメカニクスと絶妙なバランスで、初心者の人にもオススメしやすいゲームです。
波乱と海原。テキサスショーダウンのリメイク! スートによってランク幅固定、トリックの任意の色をフォロー、最多色のハイランクがマイナス1点と、気持ち悪さ&面白さを詰め込んだナイストリテ。ボイドを作って上手くゴミを捨てたのに、いつの間にか自分がメインストリームだったことにされる。好き。 pic.twitter.com/iyWA9g1Jkh
— ぬん(Be Catchy Games) (@be_catchy) January 29, 2024
【波乱と海原 概要】
メーカー:ホビージャパン
プレイ人数:3~6人
対象年齢:14歳~
プレイ時間:30~60分
FIXER(フィクサー)
戦場はひとつではない!? 同時多発的トリックテイキング
4つの色のカードでトリックテイキングをプレイし、トリックを取って得点を獲得していくゲーム。最大の特徴は、プレイヤー全員が1枚ずつ場にカードを出して勝敗判定をするのではなく、プレイヤー同士の1対1の戦いを個別に行っていくことです。
場となるメインボードには、他のプレイヤーひとりずつに向けてカードを置くスペースがあり、自分の手番でそのどこか1カ所にカードを出します。もし先に他のプレイヤーが自分に向けてカードを出していた場合は、マストフォローで同じ色を優先して出さなければなりません。そして、お互いがカードを出した段階でトリックの判定を行い、勝者が得点を獲得します。このとき敗者は相手の使ったカードを手札に加えることができるので、負けても強いカードが手に入る可能性があります。
カードの色の組み合わせには有利不利が存在し、有利な色に対しては切り札と同じ扱いで自動的に勝利となるので、フォローできなかったときは優勢となる色のカードを出せば勝てます。このルールを利用し、カードがない場に出して手札内にある特定の色を無くし、マストフォローできない状態にしてから、有利な色を後出しして相手のカードを撃破する、といった戦略を取ることもできます。
誰に戦いを仕掛けるか。相手より先に場にカードを出すか、それとも後出しにするか。手札の色をどうコントロールしていくか。そして、トリックに勝って得点を得るか、負けて相手のカードをもらうか……といったように、判断する要素が多く、他のプレイヤーとの駆け引きを存分に楽しむことができるタイトルです。
「フィクサー」をプレイ
マストフォローのトリテで、対面、左隣、右隣とそれぞれと対戦する形式
スートは4つで、4すくみ状態となっている
なので勝てるスートがあってもマストフォローなので今は出せない!
なんて状態も
なかなかに凝ったルールで面白い!
得点方式もよく出来てる
良き#ボードゲーム pic.twitter.com/D4RBTUX3XS— 大濱真対 (@hama_matsui) December 21, 2024
【FIXER 概要】
メーカー:JELLY JELLY GAMES
プレイ人数:2~4人
対象年齢:10歳~
プレイ時間:~30分
ボトルインプ
厄介な壺の押し付け合い! 悪魔に魅入られるのは誰だ?
切り札の設定に特徴があるトリックテイキング。カードは赤青黄の3色、1~37の数字のユニークカードで、おおよそ赤>青>黄の順で大きい数字となっています。カードごとに得点が設定されており、トリックを取って獲得したカードの得点の合計で勝敗を競うことになります。
曲者なのが開始時に中央に置かれている悪魔のビン。このビンは切り札の数字を示すもので、最初は19からスタートします。そして、場に出たカードのなかに“ビンの数字より下のカード”があった場合、“そのなかで数字が最大のもの”が切り札となるのです。このため、数字が低いカードでもトリックを取ることが可能となります。
しかし、いいことばかりではありません。切り札で勝ったプレイヤーのもとにはビンの悪魔がやってきます。切り札の数字はそのとき使われたカードのものとなり、使われるたびにどんどん小さくなっていくことに。そして、最後までビンを持っていたプレイヤーは大きな減点を食らってしまうのです。低い数字のカードを終盤まで残してしまうとビンを最後に引き取る可能性が高くなるので危険。切り札として使って得点を獲得しつつも、害をなす前にうまく処理できるかどうかのハンドマネジメントが問われます。
ギリギリの駆け引きと読みの勝負が熱く、変わり種トリックテイキングのなかでも特に有名なタイトル。初版発売は1995年とかなり前になりますが、洗練されたシステムは古さを感じさせません。2024年にホビージャパンから発売された新版はプレイヤー対応人数が最大6人となり、さらに2人用やチーム戦のルールが追加されています。
ボトルインプ
中盤までは悪魔パワーで勝ちたい。トリテ 30分
悪魔パワー(ボトルインプ)で数字が低くても勝てるけど
最後まで悪魔を持ってるとマイナス点超名作トリテのリメイク
デザインも今っぽい
チーム戦も出来るようにWボトルの個人戦よりシングルボトルのチーム戦が好み#ボドg pic.twitter.com/oiVgDXtieN
— ShowG@ボドゲと (@ShowG_bg) August 4, 2024
【ボトルインプ 概要】
メーカー:ホビージャパン
プレイ人数:2~6人
対象年齢:14歳~
プレイ時間:~30分
いかがだったでしょうか。どのゲームもアレンジや工夫が加えられており、基本となるルールが同じでもかなりプレイ感が違ったものとなっています。
まだトリックテイキング未体験の方は、ぜひとも定番の『スカルキング』や『ペッパー』、『ニャー』といったゲームをプレイしてみてください。そこで基本的なシステムを把握すれば、“変わり種トリックテイキング”のルールを理解することが容易になり、さらに楽しめるでしょう。
トリックテイキングはカードゲームの基本的なシステムとして定着しています。ご紹介した作品はあくまでもその一端にすぎず、今後も新たな“変わり種トリックテイキング”が続々登場してくるはず。これからも、旧作から新作まで数多くのトリックテイキングを皆さんに楽しんでほしいと思います。