ボードゲームで最も権威がある「ドイツ年間ゲーム大賞」、その歴史や流れについて考える

ドイツ年間ゲーム大賞。今年は、国産の『スカウト』がノミネートされ惜しくも受賞を逃しましたが、そもそもドイツ年間ゲーム大賞って何かご存じでしょうか?

ドイツ年間ゲーム大賞は、1979年に始まった賞で一般投票ではなく専門の委員会がノミネート作品を選出して、大賞を決定しています。ファン投票や何かの集計によって決定するのではないのですね。

ただ、ドイツで流通しているのが前提になっているようで、米国などで先に販売が開始されていたゲームが数年たって、ドイツ年間ゲーム大賞のノミネート作品に現れることがしばしばあります。

そして大賞を受賞したりノミネートに選出されると、いわゆる赤ポーンや黒ポーンといわれる特別なロゴを箱につけることが出来ます。

国内で名の知れているゲーム、たとえば『カタン』は1995年に受賞していますし、2001年には『カルカソンヌ』が、2009年には『ドミニオン』が受賞しています。今度プレイされるときに、これらのゲームの箱を見て頂くとポーンがちゃんと印刷されていることに気がつくのではないでしょうか。このポーンは、ゲームが一定の面白さを持っていることの指標にすらなっているのです。

ちなみにポーンのデザインは今まで何度か変更されていますので、見かけた時に詳しく見てみるのも楽しいかもしれません。月桂樹の色や受賞年の数字フォントなどが昔の作品ではかなりいまとは違っています。

ドイツ年間ゲーム大賞における3つの賞

そんなドイツ年間ゲーム大賞ですが、ドイツゲームの幅がだんだん広くなり、子供向けからゲーマー向けまで多くの種類がリリースされるようになると大賞選出に迷走がみられるようになります。極端に簡単なゲームや難しいゲームのどれを大賞に選択してもしっくりこないのです。

こうした背景を受けて、ドイツ年間ゲーム大賞は2001年に、子供ゲーム大賞を追加して子供向けゲームは別に決定するようになります。

▲2017年のドイツ年間ゲーム大賞 子供ゲーム大賞を受賞した『アイスクール

いまからすると奇妙な感じがするかもしれませんが、1980年代には子供向けゲームもドイツ年間ゲーム大賞を受賞していたので、それらのゲームと『ドミニオン』などを混ぜることは難しくなっていたのです。

さらに時代が進むと非常に複雑なゲームが次々リリースされるようになり、子供向けを分離しただけでは追いつかなくなってきます。そこで2011年にはエキスパート大賞が追加されて今の形に落ち着きました。

▲最初のキスパート大賞受賞タイトルとなった『世界の七不思議』(2011年)。写真は第2版

つまりドイツ年間ゲーム大賞というと、3つのゲームが受賞する賞となったのです。

受賞タイトルには「流れ」がある

そんなドイツ年間ゲーム大賞のいわゆる通常の大賞はSDJと呼ばれ、エキスパート大賞はKDJと呼ばれます。この2つには、かなり癖があります。

SDJを受賞するゲームは、ボードゲームの総合情報サイトのBoard Game Geekのゲーム難易度(いわゆる重量)で1.0~2.0に集約されます。1は軽い、2はわりと軽いというゲームの評価です。この範囲の代表作ですと『パッチワーク』とか『コードネーム』を想像していただくと良いと思います。

▲『コードネーム』の重さを見ると、1.28となっている(BGGより)

そして、エキスパート部門のKDJですが、こちらは2.0~3.0(近年は2.0~2.7)に集約されます。2はわりと軽い、3は普通というゲーム評価です。この範囲の代表作となると、ウィングスパン、エバーデール、クランクなどを想像いただくと良いと思います。

つまりエキスパート部門であってもいわゆる重量級と呼ばれるゲームが受賞したことは近年ないのです。

また、SDJもKDJもですが、軽すぎたゲームが受賞されると少し重めのゲームが受賞する。そしてまた逆に振れるということを繰り返しています。

こんな事を知っていただいたうえで2022年のドイツ年間ゲーム大賞を今一度見てみると面白いかも知れません。

SDJは、Covid-19(新型コロナウィルス)の影響もあってか、非常に軽めのゲームが受賞作に選ばれることが3年続いていて、さすがに今年は重いほうに振れるに違いないという年でした。

いっぽうのKDJは前年がやや重めのゲームが選ばれており、今年はエキスパートであっても軽めのゲームが選ばれるだろうという予想がありました。

「流れ」を踏まえたうえで、今年は?

そうしたなか、2022年のSDJノミネート作品は、『カスカディア』が難易度1.87、『スカウト』が1.32、『TOP TEN』が1.09でした。『スカウト』が非常にバランスのよい位置にいたのですが、3年連続で極端に軽いゲームを選択した反動かSDJの選択範囲ではほぼ上限一杯の『カスカディア』が受賞しました。

何れも負けず劣らず良作ですが、こうしたタイミングもあります。

▲ドイツ年間ゲーム大賞2022の発表はYouTubeで生配信された

また、KDJのノミネート作品を見ると、『リビング・フォレスト』が2.21、『クリプティッド』が2.25、『デューン 砂の惑星:インペリウム』が3.01となっていました。

前年の『パレオ』が2.62で、これより軽いとなると『リビング・フォレスト』か『クリプティッド』です。

ただ、『クリプティッド』は2018年には世界的に流通されており新鮮味がありません。新鮮味がありデッキ構築とバーストという新しいシステムの組み合わせを実現している『リビング・フォレスト』が受賞となりました。

このようなドイツ年間大賞の癖は、専門の委員会が業界の発展なども視野に入れて選択していることで起きてるのでしょう。

2023年のドイツ年間ゲーム大賞のノミネート作品が発表された際には、こうした事を頭に入れたうえで大賞を予測してみるのも面白いかもしれません。