【ゲムマ2023春】人気ゲームで連日大盛況だった試遊ブース“本当に面白いユーロゲームの世界”仕掛人に聞く!【特設ブース編】

ゲームマーケット2023春の会場内西2ホールの端に、ユーロゲームの試遊ができる“本当に面白いユーロゲームの世界”という特設ブースが設置されていた。ここでは、試遊卓とドイツ年間ゲーム大賞受賞作を中心としたユーロゲームが用意されており、無料でゲームのプレイを楽しむことができた。

▲『本当に面白いユーロゲームの世界』のブースは早期入場口から入ってすぐの場所に設置されていた

6卓用意された試遊卓は土日ともに常に埋まっている状態で、大変な盛況ぶり。このブースでゲームを楽しんだ人は2日間で400人以上にものぼったそうだ。

▲開場後は常に席が埋まっている状態だった試遊卓。スタッフが丁寧に遊び方を説明してくれるため、ボードゲーム初心者でも安心してプレイできた

試遊卓には、それぞれに『アズール』(ホビージャパン)『ディクシット』(ホビージャパン)『ジャスト・ワン』(アークライト)『カルカソンヌ』(メビウスゲームズ)『ザ・クルー』(ジーピー)『チケット・トゥ・ライド』(ホビージャパン)といった名作タイトルが割り当てられ、展示されていた。ブース内には他にもさまざまなゲームが用意されており、スタッフがプレイ希望者の好みを聞いておすすめのゲームをセレクトしていた。

▲試遊卓には卓ごとに違ったゲームと大型のポップが設置され、ゲームの説明がしてあった

▲試遊卓に設置されたゲーム以外にも、さまざまなタイトルが用意されており、スタッフにリクエストすればプレイすることができた

ブース来訪者や試遊した人には、『本当に面白いボードゲームの世界』編集部監修による全8ページの小冊子が配布されていた。

▲小冊子にゲームをプレイした感想を書き入れると、プレゼントとして特製ステッカーをもらうことができた

ふだんゲームをやらない人や初心者の人に、海外ゲームをプレイしてもらう機会を設ける

このブースの主催はボードゲームのウェブサイト“暮しとボードゲーム”とアークライト。今回は、この特設ブースの仕掛人・『本当に面白いボードゲームの世界』編集長の河上拓氏に、ブースが設置された経緯や目的、ユーロゲームについて語ってもらった。

▲ブースを主催した『本当に面白いボードゲームの世界』編集長・河上拓氏

――今回、なぜこういった形でゲームマーケットに出展されたのでしょうか。

河上氏:僕たちは普段から“暮しとボードゲーム”名義でさまざまなイベントを開催しているんですが、その中のひとつに、まだ発売されていない新作ボードゲームを試遊できる“超新作体験会”というイベントがあるんですね。多くのメーカーにご協力いただいているんですが、アークライトさんにも初回から出展してもらっています。その縁もあって、今回、お声がけをいただきました。僕は雑誌『本当に面白いボードゲームの世界』(太田出版)の編集長だったり、イベントを開催していることもあって、各メーカーの方々とも交流があるので、今回のように複数のメーカーに協力を要請するような企画には適任だったのだと思います。

――ボードゲームの中で、特にユーロゲームにスポットをあてたのはなぜでしょう?

河上氏:ゲームマーケットの来場者数がこれだけ増えてくると、なかには最近ボードゲームを始めたばかりという方や、TRPGやマーダーミステリーは遊ぶけどボードゲームはあまり遊んだことがないという方もいらっしゃいます。ゲームマーケットの会場では『ito』(アークライト)『音速飯店』(すごろくや)といったテレビで観たことのある日本産ゲームが早々に売り切れになっていたりするのですが、そういったゲームを買った人達が一緒に『カルカソンヌ』等の海外ゲームを買うことはあまりない。せっかくゲームマーケットまで来てくれたボードゲームに興味のある人達なのですから、どうせなら、その源流ともいえる海外のゲームの面白さも知ってもらいたい。そうするにはどうしたらいいか?という相談をアークライトの担当者の方から受けました。体験してもらうなら、誰が遊んでも楽しめる「ドイツ年間ボードゲーム大賞」の受賞作がいいんじゃないかなと思い、国産ゲームではなく海外のゲームとわかるように“ユーロゲーム”と銘打って今回のラインナップを用意しました。

――ドイツ年間ボードゲーム大賞の受賞作ならゲームとしての面白さは保証されているようなものですから、プレイしてもらえれば楽しさが伝えられるということですね。

河上氏:そうですね。そう考えて、まず、テーブルに着いてもらうにはどうすればいいか? ということを第一に考えました。これまでもこういった体験ブースがあったのですが、僕自身、遠くから眺めているだけで、なかなかプレイするまでには至らなかった。試遊ってちょっと勇気がいるじゃないですか。なので、今回は、とにかく、はじめての人でもふらっと入りやすい場所を作ることを心がけました。

――具体的にどういったことをされたのでしょうか。

河上氏:雑誌『本当に面白いボードゲームの世界』の表紙をお願いしている漫画家の香山哲さんにメインビジュアルをお願いしてご家族連れでも入りやすいキャッチーな雰囲気を出してみたり、別府さいさんに描いてもらったつい読みたくなる手描きPOPで足を止めてもらったり、配布する冊子の中に感想が書けるスペースを作って、遊んだ感想を書いてくれた方にホログラムシールをプレゼントしたりと、なんか気になるなーとか、ちょっと遊んでみようかなーって思ってもらえるような工夫を凝らしました。

――イエローサブマリンのブースでは、今回、こちらのブースで試遊できるゲームを販売する棚が用意されていたのが目を引きました。

河上氏:イエサブさんのブース内に連動する棚を作っていただきました。イエサブさんのブースで、このブースのことを知って遊びに来てくれたという方も多いですね。逆に、こちらで試遊したあとに「どこで売ってますか?」と聞かれた際に、イエサブさんのブースを紹介できるのでとても助かっています。また、各メーカーにご協力いただいたことで、多くのゲームが遊べる賑やかなブースになりました。テンデイズゲームズのオーナー兼店長のタナカマ(田中 誠)さんは、2日間通して受付に常駐してくれて、興味を持った方にゲームの魅力をちょっとマニアックな視点も込みで伝えてくれるのも試遊への最後の一押しとしてかなり効果がありますね。今回はスタッフも人当たりのいいメンバーが集まってくれていて、とてもいい雰囲気を保てている気がします。このブースが多くの方にとって、海外ゲームに触れる最初のきっかけになってくれたら嬉しいですね。

――少し話は変わりますが、ここで言う“ユーロゲーム”とは、主にドイツ年間ボードゲーム大賞の受賞作を指しているものなのでしょうか。

河上氏:ちょっとマニアックな話になりますが、ユーロゲームというのは1990年代後半、ドイツゲームというローカルな文化が、『カタン』(ジーピー)のヒットを機にアメリカのゲームファンに見つかったタイミングで生まれた言葉なんです。当時、アメリカのファンにとってドイツゲームを指す言葉がユーロゲームだったんですね。で、彼らに見つかったことによって世界中で、ドイツゲームのエッセンスを取り入れた、ゲーマーズゲームが作られるようになる。ドイツゲームの持つ「簡単」「ファミリー向け」という縛りがなくなっていくんです。この1990年代後半から、2010年代前半までのドイツゲームの影響を受けつつゲーマー向けに制作されたゲームが多く作られていた時代。これがムーブメントとしてのユーロゲームです。

――ユーロゲームは、アメリカから見たドイツゲームと、そこから派生したムーブメントのことを指す言葉なんですね。

河上氏:そしてそのムーブメントから生まれたゲームもユーロゲームだったりします(笑)。ですから、ユーロゲームって、さまざまな意味が重なり合う形で違うことを指している非常に使いにくい言葉なんです。厳密に「初期ユーロゲーム(ドイツゲーム)」とか「ムーブメントとしてのユーロゲーム」とか、「ポストユーロゲーム」「リバイバルユーロゲーム」みたいに括ると何を指しているのか伝わりやすいのですが、そんなこといちいち言ったり確認したりするのは面倒ですし、マニアックすぎる(笑)。ちなみに日本では最近、ドイツゲームと同義語で使われている場合も多い。例えば、ドイツ年間ゲーム大賞も、近年はさまざまな国のゲームが受賞していますし、ドイツゲームという言葉では腑に落ちないというか、若干、伝わりにくい部分がある。そういった流れもありつつの「ドイツゲーム」に変わる呼称としてユーロゲームが使用されている感があります。まあ、言葉は時代と共に変わっていくものですし、現在の日本ではドイツゲームにゲーマーズゲームまでも含んだものをユーロゲームと呼ぶというのがわかりやすいのかもしれませんね。今回のブース名に関しても、そういった意味で使用しています。

――ブースで配布された小冊子『本当に面白いユーロゲームの世界』は、全8ページながらユーロゲームの歴史やドイツ年間ゲーム大賞受賞作のレビューなど、内容が濃いものとなっていました。

▲ブースで配布されていた小冊子『本当に面白いユーロゲームの世界』

河上氏:ユーロゲームという言葉が内包するものをある程度、明確にさせておきたいということで、先ほど話したようなムーブメントとしてのユーロゲームの歴史やドイツゲームの特徴について触れているのですが、限られたページ数のなかでは結局、入りきらなかったですね(笑)。現在、研究者のあいだでは「ムーブメントとしてのユーロゲームは終わった」という見方が主流なのですが、個人的には、すでに新たなユーロゲームの時代が始まっていると感じています。一部で誤字っぽいとも言われていた表紙のキャッチコピーは、現在のユーロゲームの立ち位置と存在感を表現したくて付けました。冒頭の特集を読んでもらうとその意味が伝わるかと思います。今回の冊子に入りきらなかった部分は8月発売予定の『本当に面白いボードゲームの世界』2号の特集「ユーロゲームの逆襲!」でじっくり掘り下げようと思っています。

――河上さんは、今回のブースの主催であるウェブサイト“暮しとボードゲーム”も運営していらっしゃいます。このサイトを作った目的や活動についてお話しください。

河上氏:ボードゲームはいろいろな楽しみ方ができるものだと思うのですが、自分も含めてコアなゲーマーは(メカニズムなどに目が向いて)どうしても視野が狭くなりがちです。なので、10年ほど前に、もっと広い視点でボードゲームを楽しむことをテーマにサイトを立ち上げました。現在、サイトはまったく更新していなくて、活動の中心はイベントの開催と毎週やってるツイキャスの配信がメインですね。

暮しとボードゲーム: http://krstbg.com/
※毎週金曜22時頃よりツイキャス #夜な夜なBGA 配信中

――今回、遊んでくれたお客さんはどういった層が多かったでしょうか。また、とくに評判がよかったゲームは何ですか。

河上氏:小さなお子さんから年配の方まで幅広い層の方に楽しんでもらっています。思っていた以上に初めて遊ぶという方が多いですね。「『カルカソンヌ』『ディクシット』は名前は聞いたことがあるけど、遊んだことはない」という方がほとんどです。なので、どれを遊んでも、見ているこっちが感動しちゃうほど楽しんでもらえる。『ディクシット』『ジャスト・ワン』は対応人数が多めなので、混雑時に率先して遊ぶようにしていたのですが、改めて敷居の低さと遊んだ人が夢中になる時間の早さに衝撃を受けました。小さいお子さん向けに用意していた『魔法のラビリンス』(メビウスゲームズ)も人気で、大人の方だけで遊ばれる機会が何度もあったのですが、毎回、皆さん、大笑いしながらプレイされていたのが印象的でした。来ていただいたお客さんは皆さん積極的に楽しんでくださる方が多くて、たまたま同席した方と和気あいあいとゲームを遊んでいる様子は、まるでエッセン・シュピール(ドイツのゲーム展示会)の会場を思い起こさせる雰囲気で見ていて嬉しくなりますね。

取材中も周囲のいくつかの試遊卓からかわるがわる歓声が上がり、ブース内は終始盛り上がりを見せていた。小さな子もお年寄りも皆一様に顔を輝かせながらゲームをプレイしており、“普段は触れることがないユーロゲームをプレイしてもらい、その楽しさを伝える”という目的はじゅうぶんに果たしたのではないだろうか。

今回のゲームマーケット2023春は、その盛況ぶりから、ボードゲームの人気と勢いが増していることを強く感じるイベントだった。そのような状況下で海外のゲームについて多くの人にプレイしてもらう機会を設け、それが大成功したということは、ボードゲームの認知度、人気がさらに爆発していくきっかけのひとつになりうるのではないかと思う。

河上氏は、8月に発売される予定の『本当に面白いボードゲームの世界』次号にて、ユーロゲームの特集を組むと話した。かねてからのユーロゲームのファンも、今回の試遊で興味を持った人も、同誌の発売を楽しみに待とう。